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【番外編】ハマン侯爵家の双子 1

第2弾は、宰相閣下と双子の話です。

よろしくお願いします。


マジョルテとルディオは、正反対な気性を持つ双子の姉弟だ。


おおらかで豪快で、机に向かうよりも、侯爵家の護衛たちに混じって剣術や体術を学ぶ方を好む姉。

穏やかで細やかな視点を持ち、紳士の嗜みとして武術を習得した上で、勉学や読書を好む弟。


いずれも派手派手しく賑やかというより、平穏ながら笑顔が絶えない二人は、それぞれの分野を磨いてきた。

弟のルディオが後継と定められたのには、理由がある。


この国では、性別に関わらず年齢の順に後継の権利があり、通常ならば姉が指名されるはずだった。

実際、ルディオは姉を補佐する方向性で学んでいたし、だからこそ宰相という職を目指した。


もちろん、父が宰相を務めていたことも大きく影響していたが、父は領地経営を母や伯母夫婦に任せた上で管理を担っている。


姉はきっと、婿を取って侯爵家を継ぐ。

ならば、ルディオは文官の最高位の地位に就きつつ、姉の領地経営を補佐しよう。

そう考えて、日々の勉学に励んでいた。


七歳になった姉が、ステーキを頬張りながら『後継はルディでいい』と爆弾を投下するまでは。

家族団欒の晩餐は、一瞬で氷点下まで凍えた。


『おまえに権限を与えた覚えはない。弁えろ』


宰相として国王陛下を公私ともに支え続ける父の一声は、地響きすら起こしたのではと思うほど重かった。


普段は朗らかな姉が小動物のように震える前で、食べかけのステーキが冷えていくのを、母とルディオは息を潜めて見ていた。


『なるほど。確かに今のおまえには、過ぎたものであるらしい。自ら示すとは感心だな』


『……ごめんなさい』


『自室での謹慎を命じる。許可があるまで、控えているように』


姉を追い出し、すっかり食欲を失くしたルディオを見やった父は、すごく怒っているというふうには見えない。

ただし、父の場合は常に感情を表にしないだけなので、内面を伺えないルディオは怯えた。


『宰相という職を、私は誇っている。しかし、妻や子たちにしてみれば、ただ家庭を顧みない夫であり父に過ぎない』


そんなことはない。

反論したかったけれど、父は何か大切なことを、ルディオに伝えようとしている。

ぐっと言葉を飲み込んで、ルディオは父の漆黒の瞳を見返した。


『そして、侯爵家の当主という立場は高位だが、安楽椅子ではない。権力はあれど、領民の命と生活をその肩に持つ者だ。私のペン先一つで、民は飢えることも富むこともある』


『……はい』


『あの子は家族を何より愛し、友を深く慈しむ。少々大雑把で、勢いと感情が人に愛されるあの子の好ましい性質だ。確かに、あの子には重かろう』


『……』


『しかし、重いならそれなりの抱え方をするべきで、投げ出すことは生涯許されない。民に生かされている貴族として責任を背負えないならば、立場を返上する他ない』


『はい……』


『おまえには、その覚悟があるか』


たかが七歳の子供に向けるには、確かに重すぎる問いかけ。

しかし、たかが七歳の子供が当主たる親の前で、後継者について口を出したのだ。

他者の権限を侵害することは、貴族として生きる者への侮辱だ。


ルディオとて、他人事ではない。

ひどく喉が乾く心地で、慎重に思考を巡らせ、言葉を組み立てる。

そんなルディオを、父は急かすことなく待っていた。


『……僕は、姉のスペアです。姉の適性を見た上で、当主が判断されるのなら、穴を埋めるためにいます。でも、それは、僕がたとえ後継になっても、同じことです』


正直、本命とスペアが入れ替わるだけで、姉は重責から逃れられるわけではない。


そして、あの姉のことだ。

ルディオの方が当主に向いていると思っただけで、別に責任をどうこうと深く考えて発言したわけではあるまい。


『僕と姉に、一年ください。お互いきちんと向き合い、話し合い、備え合って、またお話させてください』


『結構』


どこか満足げな父に心底安堵し、場を辞したルディオは一目散に姉の元へと駆け出した。


そして、怯えながらも自省していた姉と共に、一年という猶予の期間で何ができるかを考えた。

時には母に助言を仰ぎ、多忙な父にも手紙を送り、知識を蓄えた。


とんでもなく忙しいはずの父は、日が空いても必ず返事をくれた。

端的で、質問へのヒントだけが書かれた手紙。

何度も繰り返し読み、たくさんの答えの中から、最適を選び取る。


姉とも何度も意見を交わし、互いの欠点や美点を洗い出し、足りない部分は必死で学んだ。

たかが子供。それでも、貴族家当主の権限を侵害した自覚の分、思いつく限りのことをした。


今になって振り返ると、父だって七歳の子供に完璧な答えを期待していたわけではない。

ただ、自らの言動への責任や、貴族としての心得を説いただけのこと。


双子にとっては、切り捨てられかねないという恐怖の一年だったわけだが、決して無駄ではなかった。

むしろ、二人の根幹を形作ったと言って過言ではない。


生まれたばかりの妹を眺めて、せめてこの赤子に重責を肩代わりさせまいと、子供なりの責任感もあった。

姉や兄としてのプライド、父の怜悧な目への恐怖と、認めてほしいという願望。

ひたすら黙して見守る母の安心感と、時折り会う友の成長。


一日ずつを大切に過ごし、一年後。

双子は再び父と向かい合い、結果、ルディオが後継と定められた。

ただし、マジョルテは後継のスペアとしての責務を負い、研鑽を怠らないと誓った。


父は二人の努力と熟考のいちいちを丁寧に褒めてから、子供という立場と家庭内の出来事だからこそ許されたのだと諭した。


たった一度、たった一言が足場を崩し、努力のすべてを無に帰すことがある。

耳に入るもの、目で見るもの、あらゆるものに視野を広く。視座を高く。

心がけ続けていれば、いずれ身体の一部になる。


父の教えを、マジョルテとルディオは、心の真ん中に据えた。




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