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【番外編】第一王子 1

番外編第1弾は、元第一王子ディーンです。

不快になる表現があるかもしれませんので、ご注意ください。


ディーンは昔から、世界の中心だった。

国王陛下の唯一の子だから、次期国王と見なされているから、という理由ではなく。


ディーンが『許してやるかどうか』の価値観しか、彼の中には存在しなかった。

人や物事が、自分のために消費されるのは当然。

いつ誰に利用価値が生じるかわからないため、等しくそれなりの対応はする。


日替わりのおしゃれを楽しむ程度の気軽さで、ディーンは日々を過ごした。

純粋ですれていない無垢な青年としてふわふわしているのだって、素の顔だと自認している。

どちらが本物かどうかなど、他人が測れるものでもない。


だから。


「父上はまだ来ないの?」


ふわんと微笑んで問いかけると、入り口を守っていた王宮兵が砂を噛んだような顔をする。


「何度も申し上げましたが、あなたは元王子。国王陛下がわざわざ見舞うことはありえません」


「ふふ。本当に困っちゃうよね。父上は僕が可愛くて仕方ないんだから」


噛み合わない会話は、これが初めてではない。


事前情報を軽視して平民の女に籠絡され、陛下の決めた婚約を破棄した。

そして、王太女となったアナスタシアを害そうとしたため、今ディーンは北の塔にいる。


北の塔は、罪を犯した王族の終の住処とも呼ばれており、ここから生きて出られた者はいないと聞く。

壁も床も冷たい石に囲まれており、窓がなく換気もできないためか、呼吸すら湿気を生む気がする。

簡易的な椅子やベッドはあるが、およそ人が生活する環境ではない。


そんな状況下でも、ディーンはどこか楽しそうですらあった。


「父上と母上は僕が大事。ヴィクトリアも、僕のことが大好き。ルディオとノーマンは僕の忠実な犬。そんなこと、みんな知ってるのにね」


幼い頃から、朗らかで穏やかだったディーンは、周囲にとても好かれながら生きてきた。


両親は、一人息子だからと甘やかすことはしなかったが、家族としての時間は欠かさず取ってくれたし、なんでも素直に言うことを聞くディーンを心配はしても、見放すなどありえない。


柔らかく笑っていれば、それだけで尊いと周囲は勝手にいいように動くし、望みを叶えたいならちょっと努力して結果を出せば受け入れられた。

余分な労力を、自分以外の者に使う気はない。

だから、決して傲慢さを見せつけたりはせず、周りを効率的に動かすための言動をしてきただけだ。


ディーンが微笑めば相手は気を許し、気さくに話しかければ王子としての尊敬は高まり、気を配ったふりをすれば感涙する。

そんなことは、ディーンにとって当たり前であり、そうでないことは許さなかった。


耳に痛い言葉や楽しくない話題は適度に流し聞き、あまりにしつこい場合は()()()()()どうにでもなった。

己の価値観と判断基準だけが、ディーンにとっての『許容範囲』だったのだ。


きっかけは特にない。幼い頃から、ずっとディーンは()()だった。

誰のことも見下しているため誰かの影響を受けたわけでもなく、言ってしまえば生まれついての性分なのだと自覚している。


誰も彼もが、表面の柔らかいディーンしか見ない愚か者なだけで、国王夫妻すら見下しているなんて想像すらしないのが悪いのだ。


確かに何度も、もう少し主体的にとか、もう少し能動的にとか窘められたことはある。

でも、王子として非の打ち所のない人格と能力であったし、たとえ足りない部分があっても他者が補えばいい。


基本的に、ディーンはすべての面において平均以上であり、問題行動を取ることもない。

模範的な王子という評判に、間違いはなかった。

ただ、誰も気づかない内側の価値観が歪んでいるだけで。


のらりくらりと周囲を欺いてきたが、今回ばかりはその異常性が少し表面化しただけ。

どうせたいした問題を起こしたわけではなく、たとえ大きな問題だったとしても、周囲が『いいように』動くのが、ディーンに相応しいことだ。


「まったく、ヴィクトリアは本当に僕が好きなんだから……。恋人すら許せないなら、僕の婚約者である資格はないだろうに。ねえ?」


「……」


凶悪犯すら、窓もなく陽の光も入らない空間に入れられれば、多少なりとも気が滅入り普段とは違う心理状態に陥る。

あまりに『いつも通り』の元王子の異常性に、牢を見張る兵はひたすら沈黙を保った。


コツン、コツン、と石をヒールが叩く音がして、ディーンは顔を上げた。

幽閉されて、もうどれくらい経ったか。

何度目かの面会に訪れたのは、アナスタシア。彼女はいつも、知らせるように足音を立てる。


ふわんと笑って、ディーンから声をかけた。


「やあ。今度は何の用?」


「いえ。今日は少し、話をしてみたくなって」


言いながら、見張りに椅子を持ってこさせたアナスタシアが、格子から少し離れた場所で腰をかける。




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