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嫉妬と陰謀

俺たちの名声は、もはや一つの社会現象と化していた。『流星コンビ』の配信がある日は、街の酒場の水晶板に人だかりができ、ギルドの依頼達成記録は常に更新され続けた。俺とルナは正式にBランクへの昇格を果たし、その勢いはとどまるところを知らなかった。


成功は、莫大な富と名声をもたらしてくれた。だが、光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。その最も暗く、淀んだ影の中心にいるのが、勇者ジェイドだった。


「……ゼノン、ゼノン、ゼノンッ! なぜどいつもこいつも、あの裏切り者の名前ばかり口にする!」


【蒼き流星】の拠点である高級宿の一室で、ジェイドはテーブルの上の酒瓶を叩き割った。クリスタル・ゴーレム討伐配信の日以来、彼らの評判は地に落ちた。Sランクパーティでありながら、Bランク推奨ボスを倒した二人組と比較され、ギルド内では嘲笑の対象ですらあった。依頼の成功率も下がり続け、パーティの雰囲気は最悪だった。


「ジェイド、もうやめて! 荒れていても何も解決しないわ!」


エリザが悲痛な声を上げる。だが、その声は今のジェイドには届かない。


「解決だと? ああ、解決してやるとも!」


ジェイドは狂気に満ちた目でエリザを睨みつけた。


「全ては、あのゼノンが悪いのだ。あいつが、俺から……この勇者ジェイドから、名声も、栄光も、すべてを奪った! 許せるものか……!」


自分が追放した『無能』が、今や自分を遥かに超える英雄として賞賛されている。その耐え難い屈辱が、彼のプライドをズタズタに引き裂き、醜い嫉妬の怪物へと変貌させていた。


「あいつが成功しているのは、何か汚い手を使ったに決まっている。そうだ……ポーターだった頃に、俺たちのパーティから何かを盗んだに違いない……!」


もはや、彼の思考は正常ではなかった。自分の失敗を認められず、その原因のすべてをゼノンに押し付けようとしている。エリザは、変わり果てたリーダーの姿に、恐怖と絶望を感じていた。


数日後、ジェイドは一人でギルドマスターの執務室を訪れていた。彼は神妙な、そして悲痛な表情を巧みに作り上げ、白髪の威厳あるギルドマスターに頭を下げた。


「ギルドマスター。本日は、ギルドの秩序を揺るがしかねない、重大なご報告があって参りました」


「ほう、Sランク勇者が直々にとは、穏やかではないな。申してみよ」


ジェイドは、ここぞとばかりに用意してきた嘘を並べ立てた。


「例の配信者、ゼノン……彼は、かつて私のパーティに所属していたポーターです。そして彼は、パーティを抜ける際に、我々が管理していたギルドの最重要機密……未公開のダンジョン深層部のマップデータと、新種モンスターの生態記録を不正に持ち出しました」


「な、何だと!?」


ギルドマスターの顔色が変わる。ダンジョンの未公開情報は、ギルドが多大な犠牲を払って収集した、まさに生命線とも言える最重要機密だ。それが外部に流出すれば、ギルドの権威は失墜し、冒険者たちの秩序は崩壊しかねない。


「彼の最近の快進撃は、その盗んだ情報を悪用しているからに他なりません! 本来ポーターごときに分かるはずのないボスの弱点を知っていたのも、そのためです! このままでは、ギルドの未来が危うい!」


ジェイドの迫真の演技と、『Sランク勇者』という肩書は、彼の言葉に絶大な説得力を持たせた。ギルドマスターは苦渋の表情で腕を組み、深く考え込んだ。


「……勇者ジェイド。君の言葉、信じよう。ギルドの機密漏洩は、断じて許されることではない。事実確認のため、ギルドとして正式な調査を開始する」


その日の夕方。俺とルナは、次の配信の打ち合わせをしている最中に、ギルドからの呼び出しを受けた。ギルドの応接室で俺たちを待っていたのは、ギルドマスター本人と、数人の武装した職員だった。その場の重苦しい空気に、俺は嫌な予感を覚えた。


ギルドマスターは、氷のように冷たい目で俺を見据えると、一枚の公式文書をテーブルの上に置いた。


「冒険者ゼノン。君に、ギルド機密情報窃盗の嫌疑がかけられている」


「……は?」


何を言われているのか、全く理解できなかった。窃盗? ギルドの機密? 身に覚えがなさすぎる。


「追って沙汰があるまで、君の冒険者活動、及びダンジョン配信活動の一切を禁ずる。ギルドの調査には、誠実に応じてもらおう」


一方的な宣告。弁明の機会すら与えられない。俺は、自分が誰かの悪意によって、巨大な罠にはめられようとしていることだけを、漠然と理解した。


英雄から一転、犯罪者へ。俺たちの頭上に、あまりにも黒く、そして重い暗雲が垂れ込めてきていた。

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