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大舞台への挑戦

俺たちの快進撃は、ギルド内で良くも悪くも注目の的となっていた。俺とルナがギルドの掲示板の前に立つだけで、周囲の冒険者たちがひそひそと噂を始めるのが分かる。


「おい、見ろよ。噂の『流星コンビ』だ」


「ポーターと斥候の二人だけで、もうCランクだろ? 信じられねえよ」


そんな視線を背中に感じながら、俺は掲示板に貼り出された数々の依頼の中から、一枚の羊皮紙を剥がした。


【緊急討伐依頼:中層域ボス『クリスタル・ゴーレム』】

【推奨ランク:Bランク以上(パーティ推奨)】


その文字を見た瞬間、周囲の空気が凍りついたのが分かった。


「……おい、まさか」「あれを受ける気か? 正気じゃないぞ!」


無理もない。クリスタル・ゴーレムは、ダンジョン中層の関門と呼ばれる強力なレイドボスだ。全身が魔法を弾く硬質のクリスタルで覆われており、並大抵の物理攻撃も通用しない。そして何より、その圧倒的なパワーは、Bランクパーティですら壊滅の危機に瀕するほどだ。


そして、このボスは俺にとって因縁の相手だった。かつて、【蒼き流星】がSランクになって間もない頃、実力を示すためにこのゴーレムに挑んだことがある。


結果は、惨敗だった。ジェイドの聖剣ですらゴーレムに有効なダメージを与えられず、エリザの回復はゴーレムの自己修復能力の前に追いつかなかった。ボルガの剛斧はあっさりと砕かれ、パーティは撤退を余儀なくされた。あの時、仲間を逃がすために殿しんがりを務め、死の淵をさまよったのが、ポーターである俺だった。


「ゼノンさん、本当にこれを?」


隣に立つルナが、少しだけ不安そうな顔で俺を見上げる。俺は彼女に向かって、自信に満ちた笑みを返した。


「ああ。俺たちの力を、本物だと証明するための最高の舞台だ」


俺は依頼書を受付に提出し、そしてギルド中に響き渡る声で宣言した。


「三日後、この『クリスタル・ゴーレム』の討伐依頼を、ライブ配信する!」


その言葉は、瞬く間にギルドを、そして街中を駆け巡った。『Cランクの二人組が、Bランク推奨のレイドボスに挑む』『しかも、あの【蒼き流星】ですら敗退した相手に』


誰もが、俺たちの挑戦を無謀だと笑った。失敗して死ぬか、良くても再起不能の重傷を負うだろうと。その噂は、当然、ジェイドたちの耳にも届いていた。


「……フン、馬鹿な奴め」


酒場でその噂を耳にしたジェイドは、グラスの酒をあおりながら、鼻で笑った。


「あのポーターが、斥候の小娘と二人でゴーレムを倒すだと? 寝言は寝て言え。俺たちSランクですら不可能だったというのに」


「しかし、ジェイド……」エリザが心配そうに口を挟む。「最近の彼らの活躍は本物よ。何か、私たちが知らない策があるんじゃ……」


「策だと? 無能にどんな策が立てられる! いい見世物だ。あいつがクリスタル・ゴー-レムに叩き潰される様を、特等席で拝んでやろうじゃないか!」


ジェイドの高笑いが、酒場に響き渡る。だが、エリザの胸には、拭いきれない不安の影が落ちていた。ゼノンが、勝算もなくこんな無謀な挑戦をするとは思えなかったからだ。


そして、運命の配信日。俺とルナは、クリスタル・ゴーレムが待ち受ける広大なドーム状の部屋の入り口に立っていた。


俺は心の中で「配信開始」を念じる。視界にウィンドウが開き、視聴者数が恐るべき速度で跳ね上がっていくのが見えた。千、二千、五千……あっという間に一万人を突破した。ギルドの酒場でも、巨大な水晶板に俺たちの配信が映し出され、街中の人々が固唾をのんで見守っていることだろう。


名無しさん:ついに始まったあああああ!

名無しさん:本当にやるのか……無茶だって!

名無しさん:でも、このコンビなら何かやってくれるかも……!

名無しさん:ジェイドたちも酒場で見てるぞwww


コメント欄には、心配と、それ以上の期待が入り混じっていた。俺は一度深呼吸をすると、隣に立つパートナーに視線を向けた。


「準備はいいか、ルナ?」


「……うん!」


ルナは、もうそこにかつての怯えた奴隷の面影はなかった。俺の隣で戦うことに誇りを持ち、自らの力に自信を持った、最高の斥候の顔をしていた。


「ゼノンさんがいるから、大丈夫。どこまでも、ついていく」


その言葉が、何よりも俺の力になった。


俺は前方にそびえ立つ、巨大な水晶の体を持つゴーレムを真っ直ぐに見据える。かつては、見上げることしかできなかった絶望の象徴。


だが、今は違う。


「さあ、始めようか」


俺は護身用だった短剣を抜き放ち、不敵に笑った。


「世界中の視聴者と……そして、俺を見下したお前たちに、本当の『実力』というものを見せてやる」

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