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没落の足音

俺とルナのダンジョン配信は、回を重ねるごとに爆発的な人気を獲得していった。「神速の銀猫」の異名を持つルナの超人的な斥候能力と、俺のポーター知識を活かした的確な指示と戦闘。俺たちの連携は日に日に洗練され、視聴者数は数千を超えるのが当たり前になっていた。


ギルドの依頼クエスト達成率は常に100%。それも、推奨ランクを遥かに上回る速度で。俺たちの評価はうなぎ登りで、ギルド内でのランクもあっという間にCランクまで駆け上がった。


そうなると当然、耳に入ってくる噂がある。――Sランクパーティ【蒼き流星】の不調についてだ。


「聞いたか?【蒼き流星】の連中、また依頼に失敗したらしいぞ」


「ああ。『黒鉄の森』でオークの群れに奇襲されて、半壊状態で逃げ帰ってきたとか」

「ポーターを追い出したのがそんなに響いてるのか?」


「それだけじゃねえ。なんでも、リーダーのジェイドが功を焦って無茶ばっかりするようになったとかなんとか……」


ギルドの酒場で聞こえてくる冒険者たちの会話に、俺は口元が緩むのを抑えきれなかった。


まさに、自業自得だ。俺は、配信中に視聴者からのコメントという形で、【蒼き流星】の現状をリアルタイムで知ることができた。


名無しさん:速報!【蒼き流星】、依頼失敗でギルドから厳重注意!w

名無しさん:ジェイド様(笑)のメッキが剥がれてきたな

名無しさん:ポーターがいかに大事だったか、今頃気づいてももう遅いw

名無しさん:ゼノンがやってた装備のメンテナンス、誰もできないから武器の消耗が激しいらしいぞw


俺がパーティにいた頃、彼らの雑務はすべて俺がこなしていた。ポーションの在庫管理、装備のメンテナンス、食料の調達、野営地の選定、ルートの確認……。彼らは、俺がいて当たり前の環境に慣れきって、その重要性を全く理解していなかったのだ。


そのツケが、今になって回ってきている。


その頃、【蒼き流星】の野営地には、重苦しい沈黙が流れていた。


「……なぜだ。なぜ、うまくいかない……!」


リーダーである勇者ジェイドが、苛立ちを隠せない声で地面を殴りつけた。彼のプライドの高さが、現状の不甲斐なさを受け入れられずにいた。


先日失敗したオークの奇襲。もしゼノンがいれば、彼の異常なまでの索敵能力と危険察知能力で、事前に気づけていたはずだった。いや、それ以前に、自分たちの装備がこれほど早く傷むことなどなかった。いつもピカピカに磨かれ、最高の状態に保たれていた剣や鎧は、今や小さな傷や刃こぼれが目立つ。


「ジェイド……少し、冷静になった方がいい」


パーティの回復役ヒーラーであるエリザが、おずおずと口を開いた。彼女は、ゼノンが追放されたあの日から、ずっと心のどこかに罪悪感を抱えていた。


「私たちの連携は、明らかに精彩を欠いているわ。ポーションのタイミングも、罠への対処も……何もかもが、ゼノンがいた頃よりもうまくいっていない。一度、やり方を見直すべきじゃ……」


「黙れ!」


ジェイドが、エリザの言葉を怒声で遮った。


「お前まであの無能ポーターの肩を持つのか!? あれは寄生虫だ! 俺たちの成功にタダ乗りしていただけのゴミだ! あいつがいなくなったから失敗したなどと……口が裂けても言うな!」


ヒステリックに叫ぶジェイドに、エリザは怯えたように口をつぐんだ。戦士のボルガも、ただ黙って気まずそうに顔を伏せている。誰も、今のジェイドに意見できる者はいなかった。


だが、エリザの心の中では、ジェイドへの不信感が芽生え始めていた。(違う……。ゼノンは無能なんかじゃなかった。彼がいたから、私たちはSランクでいられたんだ……。リーダー、あなたはその事実から、ただ目を背けているだけじゃないの……?)


彼女は、最近ギルドで話題になっている配信者の噂を思い出していた。『無能』と追放されたポーターが、猫獣人の斥候とコンビを組み、快進撃を続けている、と。まさか、とは思う。だが、もしそのポーターがゼノンだったとしたら……。


自分たちが捨てた『無能』が、自分たちが届かないほどの高みへと駆け上がっているとしたら?その想像は、エリザの心を重く、暗く沈ませていった。


一方、俺は配信で得た莫大な資金を元手に、次なる計画を進めていた。それは、かつてジェイドたちが何度も挑み、そして敗退した中層のレイドボス――『クリスタル・ゴーレム』の討伐配信だった。


「見てろよ、ジェイド。お前たちが決して越えられなかった壁を、俺たちがどれだけあっさりと越えてみせるか。全世界の視聴者の前で、お前たちの『無能』を証明してやる」


俺は、新たに購入した最高級の短剣の切っ先を眺めながら、静かに、そして獰猛に、笑った。最高のざまぁ舞台の幕開けは、もうすぐそこまで迫っていた。

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