新たなる門出
公開決闘配信の熱狂が冷めやらぬ中、闘技場には王都騎士団が駆けつけ、ジェイドはその場で拘束された。人の形見を呪いの道具として利用した外道な行い、ギルドへの虚偽報告、そして王弟が掴んでいた数々の不正の証拠。もはや彼に、言い逃れの術は残されていなかった。
パーティ【蒼き流星】は、その日のうちに解散を命じられた。戦士ボルガはジェイドの悪行に加担したとして騎士団に連行され、エリザもまた、重要参考人としてギルドの調査を受けることとなった。偽りの英雄に率いられたパーティは、あまりにもあっけない、自業自得の幕切れを迎えたのだった。
数日後。俺とルナは、王弟アーサーが用意してくれた新しい拠点のバルコニーから、活気を取り戻した王都の景色を眺めていた。そこに、一人の訪問者があった。フードを目深に被った、見覚えのある女性。エリザだった。
「……ゼノン」
憔悴しきった顔で、彼女は俺の前に立つと、深く、深く頭を下げた。
「ごめんなさい……。本当に、ごめんなさい……。私は、ジェイドの嘘に気づいていながら、彼を止めることができなかった。あなたを、見捨ててしまった……」
絞り出すような声には、深い後悔が滲んでいた。俺は黙って、彼女の言葉を聞いていた。
「今更、許してほしいなんて言える資格はないわ。でも、これだけは伝えたくて……。本当に、申し訳ありませんでした」
俺は、彼女を許すとも、憎むとも言わなかった。ただ、静かに告げた。
「もう、いいんだ。俺はもう、過去を振り返るつもりはないから」
俺の視線は、隣に立つルナと、そして眼下に広がる未来へと向けられていた。エリザは「ありがとう」と涙声で呟くと、もう一度頭を下げ、静かに去っていった。彼女がこれからどんな道を歩むのか、俺はもう知ることはないだろう。俺たちの道が、交わることは二度とないのだから。
「さて、と」
俺は気を取り直して、ルナと、そして部屋の中に集まってくれた仲間たちに向き直った。そこには、俺たちの配信を見て、不遇な扱いを受けていたパーティを飛び出してきた者、俺たちの生き様に共感してくれた者など、様々な冒険者たちが集まっていた。
「みんな、集まってくれてありがとう。王弟殿下の後ろ盾を得て、俺たちは今日、ここに新しいギルドを設立する!」
俺は、掲げられた真新しいギルドプレートを指さす。そこには、俺たちが決めた名前が刻まれていた。
【天翔の翼】
「ここは、かつての俺のように、正当な評価をされずに苦しんでいる冒険者たちのためのギルドだ。実力がある者が、理不尽に踏みつけられることのない、誰もが自分の翼で自由に羽ばたける場所にする!」
「「「おおおおおおおっ!!」」」
仲間たちの雄叫びが、新しいギルドの誕生を祝福した。
夜になり、祝宴が落ち着いた頃。俺はルナと二人、作戦室で一枚の羊皮紙を広げていた。それは、かつて鉱山エリアで発見した「奇妙な紋章」のスケッチだった。
「ゼノンさん、これが次の目標?」
ルナが、期待に満ちた瞳で俺を見上げる。俺は、王弟アーサーから提供された古代文献を指さした。
「ああ。アーサー殿下の協力で、この紋章の意味が少しだけ分かってきた。これはどうやら、この世界を作ったと言われる『古代文明』の遺跡に繋がる、転移装置の紋章らしい」
誰も足を踏み入れたことのない、古代のダンジョン。そこには、どんな魔物がいて、どんな宝が眠っているのか。想像するだけで、冒険者としての血が騒ぐ。
「面白そうじゃないか?」
俺が笑いかけると、ルナも満面の笑みで頷いた。
「うん! ゼノンさんと一緒なら、どこだって!」
追放され、全てを失ったポーター。虐げられ、心を閉ざした奴隷の少女。
そんな俺たちが、今では最高のパートナーとして、そしてかけがえのない仲間たちと共に、ここにいる。復讐の物語は終わった。だが、俺たちの本当の冒険は、まだ始まったばかりだ。
俺は、新たな仲間たちと、そして世界中の視聴者が見守る中、まだ見ぬ空へと羽ばたく翼を、力強く広げた。




