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公開処刑配信

王都闘技場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。円形の闘技場を埋め尽くす観衆と、水晶板に映し出されるであろう全世界の視聴者。その全ての視線が、闘技場の中央で対峙する二組の冒険者に注がれていた。


片や、Sランクパーティ【蒼き流星】。勇者ジェイドを筆頭に、エリザ、ボルガが並び立つ。片や、『流星コンビ』。俺、ゼノンと、銀髪のパートナー、ルナ。


王弟アーサーの宣言により、俺のアカウントは一時的に復活していた。視界の端には、凄まじい勢いで増え続ける視聴者数と、賛否両論が渦巻くコメント欄が映し出されている。


名無しさん:本当に決闘するのかよ……

名無しさん:どっちが正しいんだ……

アンチ:犯罪者に正義はない! ジェイド様、悪を討て!

ファン:ゼノンを信じてる! 負けるな!


開始のゴングが鳴り響く。その瞬間、俺の全身を再び、あの呪いのような倦怠感が襲った。アンチコメントによるデバフだ。まだ、俺を信じる声よりも、疑い、憎む声の方が多い。


「どうしたゼノン! 動きが鈍いぞ!」


ジェイドが、俺の不調を見逃すはずもなかった。彼は聖剣を抜き放ち、嘲笑を浮かべながら一直線に突っ込んでくる。


「やはり貴様は盗人だったようだな! その罪、ここで償わせてやる!」


体が、重い。思考が、鈍る。俺はジェイドの一撃を短剣で受け止めるのが精一杯だった。キィン、と耳障りな音を立てて火花が散る。凄まじい衝撃に腕が痺れ、数歩後ずさった。


「ゼノンさん!」


ルナが援護に入ろうとするが、戦士ボルガの巨大な戦斧がその進路を阻む。エリザの後方からの援護魔法も加わり、俺たちは完全に防戦一方に追い込まれた。


「終わりだ、偽物英雄!」


ジェイドが、とどめとばかりに聖剣を振りかぶる。絶体絶命。俺が歯を食いしばった、その時だった。


「――ゼノンさんは、偽物なんかじゃない!」


ルナの、凛とした声が闘技場に響き渡った。彼女はボルガの猛攻を紙一重でかわし続けながら、叫んだ。


「彼は、誰よりも仲間を信じ、誰よりも優しくて、強い人だ! 彼のしてきたことを見てきた私が、それを証明する! だから……みんなも、彼を信じて!」


その叫びは、配信を通じて全世界に届いた。ルナの魂からの訴えに呼応するように、コメント欄の流れが、明らかに変わった。


ファン:そうだ! 俺たちは見てきたじゃないか!

ファン:ルナちゃんの言う通りだ! ゼノンは本物だ!

ファン:俺たちの英雄を信じようぜ!

ファン:いけえええええゼノン!!!!!!!!


アンチコメントを、ゼノンを信じる応援の声が、津波のように飲み込んでいく。その瞬間、俺の体を縛り付けていた呪いが、霧散するように消え去った。そして、代わりに、体の奥底から、これまでで最大級の力が、灼熱のマグマのように湧き上がってきた!


「なっ……!?」


俺は、ジェイドの聖剣を片手で弾き返していた。信じられないという顔で後ずさるジェイドに、俺は静かに告げる。


「お前の茶番は、もう終わりだ」


俺とルナの反撃が、始まった。バフによって神速を超えたルナが、エリザとボルガを翻弄する。俺は、ポーター時代に嫌というほど見てきたジェイドの剣筋を、全て見切っていた。


「なぜだ!? なぜお前の動きが読める!?」「当たり前だろ。お前のその剣を、毎日毎日、誰が手入れしていたと思ってる?」


俺はジェイドの攻撃を最小限の動きでかわし、的確にカウンターを叩き込んでいく。力の差は、もはや歴然だった。追い詰められ、膝をついたジェイドに、俺は最後の切り札を突きつける。


「ジェイド。お前が俺を追放したあの日、俺から奪っていった『古びたペンダント』を覚えているか?」


その言葉に、ジェイドの顔から血の気が引いた。


「な、何を……」「とぼけるなよ。あれは、俺が孤児院から持ってきた、たった一つの形見だった。だがお前は、あの後それをどうした? 闇魔術師に呪いをかけさせ、魔物を呼び寄せる呪物の塊に変え、そして何も知らない俺に『お守りだ』と偽って返した!」


俺は、配信カメラに向かって、全世界の視聴者に真実を叩きつける。


「『深淵の迷宮』での攻略失敗。あれは、お前が俺の大切な形見を利用して仕組んだ、卑劣極まりない罠だったんだ! パーティを危機に陥れ、その罪を、すべて俺一人になすりつけるために!」


闘技場が、そしてコメント欄が、騒然となる。ジェイドは「でたらめだ!」と叫ぶが、その顔は恐怖に引きつっていた。エリザとボルガも、信じられないという表情でジェイドを見ている。人の形見を呪いの道具に変えるという外道な行いは、彼らの想像を遥かに超えていた。


「証拠なら、あるさ」


俺が合図すると、闘技場のVIP席にいた王弟アーサーが立ち上がった。彼が掲げた水晶には、ジェイドが闇魔術師と接触し、ペンダントに呪いを依頼している場面が、魔道具によって鮮明に記録されていた。


「そ、そんな……」


観衆からは、もはや怒号を通り越して、軽蔑の視線がジェイドに突き刺さる。


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だッ!」


ジェイドは全てを否定するように叫び、最後の力を振り絞って俺に斬りかかってきた。だが、その剣に、もはや勇者の輝きはない。


俺は、視聴者全員の応援を乗せたスキル――『オーディエンス・ジャッジメント』を、静かに起動した。


光の奔流が、ジェイドの聖剣を容易く砕き、彼を闘技場の壁まで吹き飛ばした。勝負は、決した。


悪事はすべて暴かれ、力も、名声も、仲間からの信頼も失った元勇者は、ただ瓦礫の中でみっともなく蹲るだけだった。


闘技場を揺るがすほどの、割れんばかりの歓声。それは、偽りの英雄の時代の終わりと、真の英雄の誕生を祝福する、ときの声だった。

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