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無能聖女の失敗ポーション  作者: 矢口愛留
第四部 婚約編

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78. 色々と変化がありました


 ギル様と婚約することになり、辺境騎士団の皆にも正式に紹介された後、私の身の回りは色々と変化していた。


 まず、護衛の人数が増えた。

 これまでは基本的にリアとウォードが交替しながら一日中護衛としてついてくれていたのだが、二人に加えて数人の騎士が新たに私の護衛役として配属され、リアたちも休める時間が充分とれるようになった。


 さらに、私に侍女とハウスメイドがつくようになった。

 これまでは、ジェーンに負担をかけないように、洗濯や掃除など身の回りのことは可能な限り自分でこなしてきたのだが、今後はそういうこともしなくていいらしい。


 今回こうして私の周りに人が増えたのには、二つの理由がある。


 一つは、北に面する魔境の森の状況が落ち着いたため。

 これまでは魔物の動向を見張り、確実に討伐するために、騎士団総出で最大限の警戒をしていた。

 魔の森の活発化が収まったことで、その他のことに人員を割く余裕ができたというのが理由の一つだ。


 もう一つは、私がギル様にとって、最大の弱点となってしまったためだ。

 ギル様自身は、フォレ公爵となってからずっと、辺境騎士団で鍛え上げられてきた。彼は魔法にも武芸にも長けているため、護衛の数は最低限に減らしても、大抵の場合自分の身を守ることができる。


 しかし、私は別だ。

 傷を癒す力は持っているが、自分自身で戦う力は持っていない。

 もしも私が曲者に襲われたり、神殿関係者に身柄を拘束されるような事態が発生すれば、ギル様は窮地に立たされてしまうことになる。


 侍女がついたのも、私が『戦う』力をつけるためだった。

 戦うとはいっても、文字通り戦闘の力ではなく、王弟かつ公爵であるギル様の婚約者として戦う力――つまり、社交の場でうまく切り抜ける力を身につけるためだ。

 他の貴族夫人に比べれば数は少ないだろうが、今後は重要な式典や社交の場に呼ばれることも想定しておかなければならない。


 侍女は講師も兼ねていて、マナー、ダンス、地理や歴史、貴族の力関係など、貴族夫人として必要な教養を教えてくれることになっている。

 ポーション精製の合間に、毎日学習の時間を取ることになった。

 以前シニストラ卿が置いていった本の中に、歴史書やフォレ領に関する書物が含まれていた理由を、私はようやく理解した。



 そして、一番の変化は――、


「ティーナ、すまない。待たせたかな?」

「いいえ、ギル様。私も今来たところです」

「そうか、なら良かった。では食事にしようか」


 こうして、朝と夕に、ギル様と一緒に食事をとるようになったことだ。

 今では、大地の日の夜と豊穣の日の朝、そして急な予定が入ったときを除いて、毎日の習慣になっている。


「今日は何をして過ごしていたんだ?」

「王国全体の歴史と地理に続いて、フォレ領に関する地理歴史の学習にも合格をもらいました。明日からは隣国のことを学んで、その後は語学の学習に入る予定です」

「そうか。順調なようだな。辛くはないか?」

「はい。毎日新しいことを学べるのは、とても楽しいです」


 私がそう言うと、ギル様は目を細めて眩しそうに微笑んだ。


「ティーナは努力家で本当に素晴らしい女性だな。私には勿体ないほどだよ」

「そんな、それを言うなら、ギル様こそ素敵な方です。私じゃ釣り合わないぐらい」


 私が頑張れているのは、早くギル様の隣に相応しい女性になりたいという気持ちがあるからだ。

 ギル様に迷惑をかけないように――、それと、ギル様に見限られないように。


 ギル様は私の考えなどお見通しなのか、ふっと笑って、長い脚を組み替えた。


「何があろうと私がティーナを手放すことも、気持ちが冷めることも、絶対に有り得ないよ。だから、あまり無理をして根を詰める必要はない」

「ギル様……」

「ティーナ、君は、私の……」


 ギル様は、そこで不自然に言葉を切った。彼は長い睫毛を伏せ、少し考えるようにしたのち、結局いつも通りの優しい微笑みを浮かべた。


「そういえば、王都にいたときに果たせなかった約束があったな」

「え?」

「いつの日か必ず、一緒に街へ出かけると約束した。覚えているか?」

「あ――」


 そう言われて、私はギル様と交わした約束を思い出した。

 あれは、王都の別邸で働くようになってから初めて、王都市街部に出かけたときにした約束だ。


「もちろんです! 私、あのときギル様に言った通り、お約束の日をずっと楽しみにしてましたから」


 王都を出ることになってからは忙しすぎてすっかり忘れていたが、それまではギル様と一緒に王都の街を歩くのを、本当に楽しみにしていたのだ。


「王都は流石に難しいが、フォレ領の都市部なら一緒に行けそうだ。どうだろう、今度、視察も兼ねて一緒に領内を回ってみないか?」

「いいんですか?」

「ああ。北の森も落ち着いているし、私が婚約したというニュースも、すでに領内に行き届きつつある。次の視察には、ぜひとも君を伴って行きたい」

「わぁ……! 嬉しいです!」


 ギル様と一緒にお出かけできることもそうだが、領民たちに私を紹介してくれることがとにかく嬉しくて、私の頬が緩んでいく。

 私の表情を見て、ギル様の口元も柔らかく綻んだ。


「公務を兼ねることになってしまって申し訳ないが、一日は二人で街歩きができる日を作れるように日程を組むよ。そうと決まったら、早速準備を始めよう。ジェーン、仕立て屋の件はどうなっている?」

「先日注文した分につきましては、来週以降、優先度の高いものから順に納品される予定でございます」

「そうか。ならば問題なく視察に出られるな」


 先日、ギル様がフォレ領中央部にある街から仕立て屋を呼んでくれて、ドレスや普段使いの衣服をいくつか仕立ててもらうことになった。


 注文したのは、公務用のドレスと社交用のドレス、カジュアルなワンピースを数着ずつ。

 生地見本からしてどれも明らかに高価とわかる物で、私は思わず固まってしまったのだが、ギル様は値段を気にすることなくどんどん注文をしていた。


 私のために動くお金の大きさに少し……いや、かなり怖くなったが、公爵の婚約者ともあろう者がみっともない格好を晒すわけにはいかないということも理解していた。

 なんとか微笑みを保ちつつ乗り切った、と思っていたが、後からジェーンにぎこちない笑い方になっていたと指摘されてしまったのを覚えている。


「楽しみだな」

「はい、とっても! ギル様、ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、ギル様は嬉しそうに微笑みを深めたのだった。



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