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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転移者狩り魔導師と遺跡の謎、ときどきクジラ

作者:

 分かってるよ、お前らみたいな読者が何を求めてるか。

 俺がチートで無双して、ハーレム作って、大勝利する話だろ?

 見せてやるよ。始まるぜ、俺の最強伝説が。


 真っ白い光に包まれながら、俺は確信していた。

 ついに、俺の物語が始まるんだってな。


 光が収まり、視界に入ったのは白い石でできた壁と床。足元には魔法陣。見るからにファンタジーの遺跡だ。

 俺は感動のあまり拳を握りしめた。ここ、絶対ダンジョンの中だろ。『いきなりS級ダンジョンに転移するけどチートで無双!』的なやつか? あの神様、チートはくれたけど、他の説明は何にもしてくれなかったんだよなあ……。

 ま、いいけど。チートがあれば、どこでも余裕っしょ。

 部屋を見渡していると、扉がガチャリと開いた。いきなりモンスター襲来か!?


「お、ナイスタイミング」


 ……違う。人間だ。魔法使いっぽいローブ姿で、杖を持った女の子。ぱっと見地味でモブっぽいが、よく見ればまあまあ可愛い……かも。

 なるほど、これが最初の仲間ポジか? あ、「ダンジョンのモンスターが強すぎて困ってるんです!」的な感じ? じゃあ助けてやればコロッと落ちるか。


「あんた、困ってんだろ? 最強の俺が助けてやるから、ついて来いよ」

「おー、ありがとね。じゃあよろしく」


 ……テンション低っ。でもまあ、俺の強さを見れば態度も変わるだろ。そう思って一緒に歩き始めた。

 しばらくして現れた最初のモンスターはスライム。ぷにぷにはねている。仲間を呼んだらしく、だんだん増えてきた。いいね、テンプレ感出てきた。


破壊の理(レギオン・ブレイカー)


 スライム約十匹、まとめて爆散。一匹残らずぺちゃんこになってしぼんだ。床も大きく抉れている。

 俺つええええええ!! ヤバすぎだろこのチート!!!


「な? これが俺のチート能力だ。神様からもらった最強の——」


 俺が詳しく説明してやってるのに、女は「うん。すごいね」と返すだけ。こっち見やしない。

 ったく、こっちが親切で教えてやってんのに……まあ、クール系なのかもな。でもさすがにおれの凄さは理解できただろう。

 その後も何度かモンスターは現れたけど、全部ワンパン。ちょっと強そうなドラゴンも一撃。チート最高!


 そして、見えた。光だ。ついに遺跡の出口!

 ここから始まるんだ! 俺の最強——


「アイス」


 背後から静かな声。次の瞬間、激痛が走った。腹を見れば、尖った氷がいくつも突き出ている。地面には大量の血。

 振り返ろうとすれば、さらに氷の棘が飛んできた。


「がッ……」


 一体なにが、なんで——

 視界が崩れ落ちる。女が何か喋っているけど、もう聞き取ることはできなかった。



「こういう『ものすごく強い系』の能力のやつは油断してくれるから助かるなー。毎回このくらい楽だといいんだけど」


 魔道具も使わずに済んだ。魔道具だってただじゃないし、温存できるに越したことはない。

 さて、こんなところでのんびりしている時間はない。早く家に帰って、店を開けなければ。

 何を隠そう、私は天才魔道具発明家なのだ。日々世界を揺るがす魔道具を開発し、それらを売って生活している。

 私が昨日作った新作を並べれば、店は大盛況間違いなし。街の端から端まで行列ができる騒ぎになるに違いない。私は街外れの家に急いだ。

 店の前には、開店待ちの客が一人。近所のおじさんだった。

 さすが私。大人気だ。


「いらっしゃいませー」

「おぉ、やっと帰ってきたか。今日も遺跡か?」

「そうだよー。せめて週一で見に行かないと、転移者がどんどん出て来ちゃうからねー」

「よくもまあ、そんなに何人も沸いてくるもんだな」


 お客さんは呆れている。私もそう思う。


「ほんとにね。それで、お求めは? 昨日私が開発した『てのりクジラ』なんかおすすめだけど」


 私は近くの箱から一匹取り出した。大自信作だ。


「また訳の分からないものを……じゃなくて、魔導ランプの修理を頼みたいんだ」


 なぁんだ、買い物じゃないのか。


「はーい。うけたまわりました。ところで、てのりクジラ買わない? クジラを小型化して、なんと空まで飛べるように魔導改良したんだ。特別お安くするよ」


 完璧なセールストークだった。まさに飛ぶように売れるに違いない。


「……それで、その魔道具は何ができるんだ?」

「鳴くよ」

「ほえーる」


 てのりクジラはかわいく鳴いた。


「いや、どう考えてもクジラの鳴き声じゃない……それはさておき、他には? 何かできることはないのか?」

「ないよ」

「誰が買うか!」

「かわいいのにぃ」

「ほえーる……」


 おじさんはさっさと帰ってしまった。

 今度こそ絶対売れると思ったんだけどなぁ。まあ、おじさんに見る目がなかっただけだろう。次のお客さんはこの素晴らしさをわかってくれるに違いない。



 日も落ちて、道の魔導灯がぽつぽつと灯り始めるころ。

 私は店のカウンターに突っ伏していた。


「まさか、こんなに売れないとは……」


 天才の発想は、得てして凡人には受け入れられないものである。仕方がないことなのかもしれない。

 とはいえ、あまりにも売れないのはちょっと困る。視線を横にやると、大きな箱が積みあがっていた。その全てに、てのりクジラがみっしりと詰まっている。

 まずい。絶対売れると思っていたから、魔道具修理で稼いだお金を全部突っ込んだのに。これでは、三食雑草のスープ(調味料なし)生活が始まってしまう。


 とはいえ、客が来ないことには売りつけることもできない。そろそろ店を閉めようかな――

 そう思ったところで、街灯に照らされた人影が店先に現れた。

 お客さん!? 勢いよく顔を上げる。

 だが、目の前に立っていたのは王都の『転移者管理担当官』だった。

 なぁんだ。お客さんじゃないのか。


 「お久しぶりです」


 担当官は申し訳なさそうに笑った。

 だが私は知っている。あの笑顔は業務用のものだということを。


「先週、遺跡から逃亡した転移者が、近くの街に潜伏しているようでして」

「……それも私が?」


 もう処理担当は国の方に移っているはずだろう。私がどうにかする義理はない。


「近くですから、お願いしますよ。謝礼は出ますので」


 謝礼が出るならやるしかあるまい。

 私は笑顔で頷いた。担当官は引きつった笑みを浮かべて礼を言い、そそくさと帰っていった。



 翌朝。

 いつもより少し早めに起きて準備をする。転移者は今日討伐できるだろうという見込みで、朝ごはんは普通に卵スープにした。

 ちなみに、これで手持ちの金はすっからかんである。万が一失敗したら、本当に今日の夜は雑草のスープ(調味料なし)確定だ。それは何としても回避したい。是が非でも転移者を討伐しなければ。

 ふと視線を感じる。ちらりと横を見れば、売れ残りのてのりクジラの一匹と目が合った。自分も連れて行ってくれ、と言っている……ような気がする。

 まあいいか。連れて行こう。私はてのりクジラを連れて、目的の街まで行く辻馬車に乗った。


 昼前、街に到着した。

 黒っぽい石畳と、同じ色の石造りの建物が美しい街……だったはずなのだが。今は、なんか名状しがたい、変な形の建物や、オブジェ?が大量に増えている。

 てのりクジラは、変なオブジェに興味津々だ。私の身長よりも大きい箱。一部は透明になっていて、中に何か入っているようだ。あと、ボタンが大量についており、ぴかぴかと光っている。魔法だろうか?

 てのりクジラがボタンを触ろうとしたが、一応止めておいた。何があるかわからないし。


「……この街では、ずいぶん変なものが流行ってるんだね?」

「そんなわけないだろ」


 独り言にツッコミを入れられた。横を見れば、この街の住人だろうお姉さん。


「転移者の仕業だよ。近くの街のやつが担当なのに、逃がしちまったらしい。まったく、いい迷惑だよ」

「…………。それより、転移者は何でこんなものを?」


 私は目をそらしつつ、近くにある巨大な建物を見上げた。その表面は石でも木でもない。金属のようにつるりと光を反射し、どこか油臭い。

 大通りには無数の細長い石柱がずらりと一列に並べられている。なんなんだこれは。


「さあね。でも転移者はこれをもっと建てたいらしくてね。うちの土地まで寄こせって言ってきたんだ」

「明け渡したの?」

「まさか。でも断ったらすごい剣幕で怒りだして、大変だったんだよ」

「強盗みたいなやつだね」

「本当だよ」


 お姉さんと別れ、転移者を探し始めると、目撃情報はすぐ集まった。やはり転移者は悪い意味でよく目立つらしい。私は情報を頼りに街の中心へ向かった。

 人通りは増え、にぎやかになる。あちこちに変な建物やオブジェがなければ、綺麗でいい街だと思う。


「——!」

「————!!」


 前方で怒鳴り声のような声が聞こえてきた。広場では男一人と複数人が揉めているらしい。街の人たちも、そのあまりの剣幕に遠巻きに野次馬している。とりあえず、私もその中に混ざって野次馬しておく。

 男が興奮した様子で叫んだ。


「だからぁ! 俺がこの街をこうやって発展させてやってんだろ! 何が問題なんだよ!!」


 おお、やっぱりこいつが転移者か。じゃあ、転移者とやり合ってるのは、


「何度も言ってるだろ! 建築には街の許可が必要なんだよ! 訳の分からないものを勝手に建てるな! 人の土地を奪うな! 住人もみんな怖がってる!」


 職人っぽい人たちは建築ギルドとかかな? その中にちょっと身なりがいい人たちも混ざってる。町長とか、役所の人間もいるのかもしれない。

 転移者は髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。


「意味わかんねぇ……なんで文句言われなきゃなんねぇんだよ! この街、ボロ家ばっかじゃん! 俺が現代的な家を無料で建ててやってんのに、なんでお前ら感謝しねーんだよ! なんでこの俺が文句言われなきゃなんねーんだよ!!」

「頼んでねぇんだよ、まず! 住人に相談もなく勝手に土地を占拠して、得体の知れねぇ建物を建てて、誰がそれに住みたいと思う!? 普通に怖えだろ!」


 うーん。見事な平行線だ。これは話し合いでは解決しないだろう。

 それでも、ののしり合いはヒートアップする一方で、全く終わる気配を見せない。……これ、いつまで続くのかな。今日中に終わる? もう日が傾いてきてるんだけど。てのりクジラはあくびしている。


「……あー。これ、『追放ルート』ってやつ? そういう感じね? テンプレ展開キター! ……じゃあいいよ、出てってやるよ。俺の町、俺の国、俺の世界……ここよりずっとすごいもんをつくってやる。後悔しても遅いからな」


 急に何かに納得したように、転移者は地面を見つめてぶつぶつとつぶやく。

 私の願いが届いたのか、転移者は冷静になってくれたようだ。明後日の方向にではあるが。

 そしてそのまま転移者はふらふらと路地の向こうに消えた。

 私も慌てて追いかけようとしたが、人混みで見失った。



 そこからまた転移者探し。だが、今度はほとんど目撃情報がなく、全然見つからない。

 日はどんどん落ちてきている。

 これはまずい。人目に付くとか考えず、さっき広場にいるときに始末しておくべきだったか。

 私は焦りながら、人通りの少ない路地裏を手当たり次第に探していく。

 やがて日とっぷりとくれた頃、街灯一つない町はずれの寂れた通りでようやく見つけた。

 転移者は、人気のない小路にぽつんと立ち尽くしていた。私は建物の影に身を潜め、様子をうかがう。

 転移者は独り言をブツブツとつぶやいている。


「……都心みたいな高層ビル街とか……いや、もっと俺のすごさがわかるように巨大な銅像を建てて……」


 自分の世界に一直線のようだ。広場からいなくなった後、ずっとこうしていたのだろうか?


「……よし、これならこの街なんか比べ物にならない、最高の都市をつくれる……これでこの街のバカどもにさっさとざまぁして……、あれ?」


 急に転移者が固まった。


「いや、そんなまどろっこしい流れにしなくても、俺のチートで今すぐこんな街ぶっ潰せるよな? その後に、ここにおれが新しい街をつくればいいんじゃん」


 おっと。急によくない流れになってきた。


「そうと決まれば、今すぐこの街を全部更地に——」


 言いながら、両手を前に突き出した。その手からは白い光が漏れている。


「アイス」


 その瞬間、音もなく小さな氷が転移者の首筋をかすめる。そこからわずかに遅れて、頸部から凄まじい勢いで血が吹きでた。


 ——どしゃっ


 転移者が地面に崩れ落ち、血だまりに沈む。


「ふぅー、どーにかこーにか」

「ほえーる」


 お仕事完了。さぁ帰ろう。


「あのー」


 ……この邪悪な気は……。

 担当官だということは声で分かっているが、振り向きたくない。絶対に面倒ごとだから。


「転移者が作った建物とかオブジェの撤去ってできます?」


 ほらぁ。


「それは、本当に私の仕事じゃないよね?」

「謝礼は出ますので……」

「……仕方ないな……」


 謝礼が出るならやるしかあるまい。……なんか昨日も同じことを思った気がするが。

 こうして私は夜の街を回って、転移者が好き勝手に作った建物やら変なオブジェやらをひとつずつ破壊する羽目になったのだった。



 数時間後。

 世界は完全に闇の中。ライトの魔法がなければ足元すら見えない。

 そんな中で、私は最後のオブジェを破壊して、息を吐いた。


「やぁっとおわった……。それにしても、」


 私はたった今破壊した謎オブジェの残骸を足先で軽くつつく。


「『ちーと』、『てんぷれ』、『ざまぁ』……転移者って、みーんな言うこと一緒なんだよね。よくわかんないけど、転移者の世界ではなんかそういう決まりでもあるのかな?」

「ほえーる」


 てのりクジラは興味なさそうに返事をした。


「それに、あの遺跡にいるモンスターは『すらいむ』なんて名前じゃないのに。なぜかみんな同じように間違えるよね。本当の名前は——」

「ほえーーーーーーる」


 急に大きな声で遮られた。


「……なんで遮るのさ」

「ほえーる」


 わけが分からない。それにしても、


「……お前はなかなかノリがいいね。看板クジラに任命かな」

「ほえーーーる」


 てのりクジラは喜んだ……ような気がした。

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