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記憶の一片 貴方は誰?


魔王城付近の荒野

積雪のように積もる魔物の死体とボロボロの仲間たちを横目に見るたびに


ああ俺たちはきっと


全世界の人々のありふれた笑顔を守るために、ただただ死ぬまで辛いのだろうと悟った


国中のどうでもいい顔も知らない奴等が笑い

飯をくらい

暖かい布団で寝ている間に

俺の隣にいる同じ釜の飯を食った仲間達が羽虫を潰すかの如く死んでいく


......


俺は何のため、誰のために剣を振るうのだろうか


日に日にそう強く思う


そうなるたびに、始めた理由を思い出しては耐え続ける


いったい


このストーリーのエンドロールに待っているのは誰にとってのハッピーエンドなのだろうか


......


......


......



ブレるな


*******************************************************************************************



チュンチュン


平原に全身鎧で覆われた男が大岩に腰をかけて眠っている


「眩しー......」

日の光に起こされた男は小声で眠たそうに呟き

ゆっくりと腰を起こして

両手を重ねぐっと体を縦に伸ばす


「んーよく寝た」


......


......


......


「て、どこだここぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!?!?!?!」


いやいや待て待てほんとにどこなんだてか体

クソ重っ!えっ何で鎧着てんのフルプレートアーマーなの!?


あたふたしている男の後ろに人影が近づいてくる


「どうしたんですか?勇者様」


そこには庶民的な服を着た茶色い獣人が首を傾げて立っていた


「うわっっびっくりした!て誰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


わめ散らかす男に


「はぁ、またですか勇者様」


やれやれという顔をして獣人の少女は語りだす


「いいですか?さっき私の村に勇者様がいらっしゃったから皆んなで歓迎しようと話しかけたり作物を渡しても、うんともすんとも言わず、気まずそうな顔をしてこっそり裏口から抜け出していったんです」


「だから呼び戻そうと私が勇者様の後をつけて行って話しかけたら全く今と同じこと言ってましたよね......そこから色々お話しして少し眠たいから寝るっていって今に至ります」


簡潔な応答を受けて男は軽く頭を整理する


「あー......思い出した思い出した!

だったらさっき説明したよね?俺は勇者なんてたいそうなもんじゃないんだって!」


「それも先ほど聞きましたけど、どうみても勇者様は勇者様ですよ。語らずともその鎧が貴方であることを物語っています!」


「それに。私には勇者様が勇者様だって絶対にわかります!!!」


「え?なんで?てかこの変な模様が入ってる鎧?重いし臭いしいらないよ脱ぎたいー!」


ガチャガチャと鎧をいじり出す男


「ちょ?!何してるんですか!!!」


慌てていじるのをやめさせる獣人


「もう......私が思うに勇者様はいわゆる記憶が無くなる呪いがかけられてると思います!」


ドヤ顔でそういう獣人は続ける


「恐らく魔王を倒した時か、それ以前の戦いで受けたのでしょうね!でも安心してください。冒険者の間でも特別珍しい事ではないので、魔王と戦った勇者様であればそういう事があっても皆んな受け入れてくれますよ」


「いや、うーん。なんか自分が何もしてないのにチヤホヤされて贅沢するのってなんか気持ちのいいものじゃないんだよね。みんな俺に普通に接して欲しいんだけど......」


「記憶がなくても勇者様のした事は偉業中の偉業。普通に接するなんて無理ですよ」


「とにかく村に来てください!」


「嫌だあー」


小柄な獣人にフルプレートの男が引きずられる


ぐぅぅぅ


「ほら勇者様お腹空いてるじゃないですか。普通にいてくださいッ」




横並びでゆっくりと村へ向かう二人


「そう言えば勇者様のお名前は何て言うんですか?新聞でも勇者様の二つな 名や通り名は見たり聞いた事はありますがお名前は一度もないと思いまして」


「前聞いた時も濁されたし......」


「ん?俺の名前はねー......あー、えーと、うーん?なんて言うんだっけ」


「......そうですか。ご自身のお名前も忘れてるんですね。」


少し獣人が考えてから発言する


「ご自身の事は幼少期含め何一つ覚えていないけど、世間一般の常識等は覚えている。そんな感じですか?」


「うーん。多分そんな感じ。でも自分の事もそうだけど、自分に関わった人についても何も覚えてないかも」


「なるほど......あ、私の名前は覚えていますか?ついさっき自己紹介したんですけど」


......


「それもちょっと呪いで思い出せないかな笑」


「単純に覚えてないだけですよね!?」


「もう!私はアランですよ!さっき言いました!それと私達の村は大戦時に勇者様に助けていただいた事があってみんな勇者様のことを慕ってるんですよ?」


「思い出した思い出したアランね!」


「もう!忘れてるなんてひどいですよ、」


他愛もない会話を交えて彼らは村へ到着する


「おお勇者様が戻ってこられた!」


村の人々が一気にこちらへと向かってくる


「私がみんなに説明してきますからここで待っていてくださいね」


何やらゴニョゴニョとアランが村の人々に話しかけている


話を聞いている村の住民がこちらをチラチラ見ては悲しそうな顔をしている


男は気まずそうに目を逸らす


話を終えたのかアランと村人がこちらに近づいてきた


「勇者様。事情は聞きました。どうかお気になさらないでください。私どもはどんな勇者様でもお慕いしておりますのでゆっくりとこの村で旅の疲れを癒してください」


村長と思わしき老人がそう微笑みかけてきた


この人はなんて優しい顔をするのだろうか

思わずこちらも微笑みかけてしまいそうな暖かい顔。俺はこの人を知っている気がする。


「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」


それから村長とアランと共に村を周り、宿を紹介してもらった


特に目立ったものもない、小さな村だったが料理が美味しいし、何より村の人がとても優しかった


晩御飯を食べ、アランをうちへ返し、二人で村長の家で軽くティータイムだ


「勇者様。この村はお気に召しましたでしょうか?」


「ああ。俺が過ごした中で一番過ごしやすい村だよ」


「ふぉっふぉっふぉっ。またそのような事をおっしゃってくれるのですね」


「え?俺前もこんな事言っていたんですか?」


「ええ。」


この人といると時間を忘れてつい喋りすぎてしまう気がする。聞き上手ここに見参っ!て感じだ。まぁ喋るネタや思い出話は全部忘れちゃってるけど。


「アランは何か失礼をはたらいていないでしょうか?」


「そんな事ないですよ。でも何であんなに俺に話しかけてくれるんですかね?まだ会って数時間なのに。俺が一回村を離れた時に呼び戻してくれたのもアランですし」


紅茶を啜りながら話す


「勇者様は忘れておられるのでしょうが。まだ小さかったアランの面倒を見ていたのは勇者様なんですよ?」


「え!?」


ちょっ!急展開


「アランはこの村の出身じゃないんですよ」


「アランの両親は魔物に殺されてね。家族で旅の途中だったのでしょう。アランも殺されるはずだったのを勇者様が助けて、この村まで運んできてくださった」


「そこから勇者様が発つまでつきっきりでアランの面倒を見てくださったのですよ。だから久しぶりに会えて嬉しいのでしょう。敬語は使えと何度もいったんですがね」


申し訳なさそうに髭を触りながらそう語る


アランは俺にそんなそぶり見せず、てっきり俺は面倒見のいい町娘としか思っていなかった


俺を一目見た時から事情を察してくれて、混乱させない様に初対面を装っていたのだろうか


「アランとはこれからも仲良くしてやってください。これからの旅にも連れて行くんですか?」


「これからの......旅」


正直つい先刻からの記憶しかないし、どこかに旅に出るなんて考えもしなかったな


でもそうだな

いつまでもここにいるわけにはいかないし、いつかはここを発って仕事を探したりしなきゃな


「今のところ宛がないので、しばらくここにいてもいいでしょうか?」


少し申し訳なさそうにいう男


「ええ。勇者様ならいつでもいつまででもいてくださってかまわんですよ。ふぉっふぉっふぉっ」


何ていい人なんだろうか グスんっ


その後しばらく雑談を交えて俺は宿に戻った


ベッドに横たわりながら今日の事を振り返る

まさかアランと俺が昔に会っていたなんてなぁ


でも外見的にアランと俺に年齢の大差があるとは思えない。体感5歳差くらいか?

俺何歳から勇者やってんだよ


俺は俺が怖いよトホホ


にしても

混乱してたとは言えアランには情けないとこ見せちゃったなぁー


......


ぐぁぁぁぁ恥ずかしい!!!!


数時間前のことを思い出して恥ずかしくなり足をバタバタさせる






ーーーふふふ。まったくぅ〇〇は情けないなぁー!!!ま。それも君の良いところでもあるんだけどね?ーーーーーーーーーーーーーーーー


いッッッ!?


頭に突発的な激痛が走り

頭にモヤがかかったように何かが写り聞こえる


はぁはぁはぁ


なんだ?

誰?だ......


頭が熱くなりそのまま眠りに落ちる


*******************************************************************************************


宿にて朝に出されたコーヒーを飲みながら考える。時計を見た感じまだ結構朝早いな

村長やアランはまだ寝てる?いや、村長は早起きなタイプっぽいしもう起きてるか


さてと


昨日のは俺の記憶か?

俺にとっての何だったんだ?話しかけてきた女らしき人の後ろにも数人はいた気がする


くそ頭いてぇー

まぁ何にせよ思い出した事が少なすぎて何にもならないし気にしなくて良いか


今日は何をしよう

やはり一文無しだからお金を稼ぐほうほ


勢いよく宿の扉が開けられる

ガチャッッ


「勇者様おきてる!?今大変なことになってるから早くきて!」

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