私は、戦闘・効果では破壊されず、相手の効果の対象にならない。②
「ごちそうさまでした!」
「はい! お粗末様でした!」
いやぁ~、食べた。
一汁三菜。バランスの取れた和食。最オブ高だな。
まさか異世界に来て最初に食べる食事が、和食になろうとは思わなんだ。
まぁ、タンパク質が……動物性の物が足りないとは思ったけど、空きっ腹こそ最高の調味料とはよく言ったものだ。最後まで飽きずに食べきった。
ヘスティー様が手を叩いたら、食材と調理道具一式が出現したのには驚いたけど、まぁ神様だしねと納得した。
そして、食後にまたヘスティー様が手を叩く――柏手を打つと、食器類や生ゴミも全てが消え去った。
「どうなってるんですか?」
「私もよく分からないんですけど、神様はみんな出来ますね」
神様にもよく分からないことはあるらしい。
きっとあれだ。現世で奉られた供物とか、そういうのから出てきてるんじゃないだろうかと、私は推測した。
さて、腹ごしらえも済んだことだし、これから必要になるだろう先立つものを調達しますか。
「ヘスティー様、そろそろ武器をもらいますね」
「え?」
突然何を言い出したんだこの人はと、キョトンとするヘスティー様に構わず、私は宣言する。
「私の装備魔法扱いの、『ヘスティアヌス命』の効果を発動します!」
「椿さん!? 効果ってなんですか!? わ、私の!?」
「すみません。ヘスティー様が料理を作っている間に書いておきました」
「聞いてないです!」
「言ってないので」
「椿さん! お話があるんですけど――」
「後でお願いします!」
「えぇ……」
咳払いをして、効果の発動宣言を続ける。
「『ヘスティアヌス命』の効果! 自分・相手ターンに発動できる。デッキから、『ヘスティアヌス命の工房』をフィールドに表側表示で置くか、デッキに戻す。ヘスティー様! 宣言を!」
「え? ……せ、宣言?」
「出でよ! 私の工房! とか、それっぽいことを言ってください。ヘスティー様の効果なので!」
「あーもう、なんかよく分からないですけど、分かりました! もう野となれ山となれ、自棄っぱちです! 来てください! 私の工房!」
ヘスティー様がそう宣言すると、その目の前に、古風な茅葺き屋根の日本建築が、瞬く間に出現した。
「――って、私の家じゃないですかあああ!?」
あ、ヘスティー様の家、中からしか見てなかったけど、こういう外観だったんだ……。日本の神様要素って感じ。まるで日本の原風景。侘び寂びだね〜。
私は早速、この工房にも『効果』を書き加えた。
書いている間、ヘスティー様は、内見をして、本当に自分の家だと確認していた。
余談だけど、書き加える言っても、実際に手を動かして文字を書き記しているわけじゃなくて、頭の中に思い浮かべた効果を、物体に転写するってイメージが近い。
「よし。こんなところかな。ヘスティー様。やりますよー!」
「え? はい……?」
「永続魔法、『ヘスティアヌス命の工房』の効果、発動!」
「また何か始まりました!?」
ヘスティー様のリアクション。可愛くて助かる命がここにある。
「フィールドに、『ヘスティアヌス命』が存在している場合に発動できる。『ヘスティアヌス命』のセンスに任せた、『ヘスティアヌス命』の銘が入った道具や装備などを『ヘスティアヌス命』が作成し、手札に加えるか、既に作成されている『ヘスティアヌス命』カードをデッキから手札に加える。」
「つまりこれ、無ければ私が作るんですか!?」
「私は鍛冶とか出来ないので、お願いします!」
「装備のあてがあるってこういうことですか!? だから私を引っ張ってきたと!」
「じゃあ、まずは……助けを呼ぶ方々を一度に助けられる、いい感じの武器をお願いします」
「しかも最初の発注が大雑把……。けど何故でしょう……返って燃えてきます。私の職人魂に火をつけましたね、椿さん? やってやろうじゃないですか!」
言うと、ヘスティー様は自宅に入って戸をピシャリと閉めた。
と思えば、すぐにまた開いた。
出てきたヘスティー様は、タンクトップ姿で、頭にバンダナを巻き、煤や油で汚れていて、その手には、一挺の弓が握られていた。
滴る汗が、とても扇情的で美しいと思いました……。ゴクリ。
「お待たせしました!」
いや、全然待っていない。どうやら、中と外で時間の流れが違うらしい。だけど、これは好都合だ。ヘスティー様が中に入って何かを作れば、ほぼ一瞬で出来上がるのだから、咄嗟の要り用にも困らないというわけだ。
ヘスティー様から弓を受け取ると、ずしりと重さを感じた。けれど今の私には持てない重さじゃない。
見た目は漆黒のただの和弓。矢は無い。銘は、『神弓・ヘスティー』
本名で銘を入れるのはどうしても嫌だったらしい……。まぁいいか。こっちでなんとかできるし。
私が使うために性能をヘスティー様に尋ねる。
「弦を引けば魔力矢が形成されます。最大で五本まで同時に番えられて、放たれた矢は、目標まで自動追尾しますけど、弦をちゃんと引ききっていないと、途中で誘導が切れますので注意してください!」
「射程は?」
「ありません。椿さんが顔まで思い浮かべられるなら、最悪目を瞑っていてもそこまで飛んでいきます」
うわーお……。さすがヘスティー様のっていうか、神様の作る武器。性能が頭おかしい。そりゃ、みんなこんな武器持って冒険したら無双しますわ。
私もこれから他人のこと言えなくなるんだけど……。
とりあえず、その性能を踏まえて効果を書き加えよう。
『通常魔法カード。このカードは、ルール上『ヘスティアヌス命』カードとしても扱う。』
これは入れておかないとね。あとは――。
『相手フィールドのモンスターカードを対象に(最大五体まで)発動できる。対象のカードを破壊する。このカードは使用後、墓地には行かず、デッキに戻る。』
こんなところかな。装備カードじゃなくて、通常魔法扱いにしたのは、なんとなく。
シンプルな除去効果をターン一回の制約無しで装備にしちゃいけないと思うんだ、私。まぁ、デッキに戻るから、工房の効果ですぐに持って来れるんだけどね。それはそれ。
ついでに私のスキルについても、この機会に解説をば。
私のスキル『O・C・T』は、私が戦うために使う、いろいろなモノに、私が自由に一度ずつ効果テキストを書き加えられるのだけど、書き加えていないものは、効果無しとして、本来の性能を発揮させられなくなるという欠点があるのだ。あと、本来の性能から逸脱した性能で効果を書くと、持つことすらできなくなる。
だからこの弓の性能を聞く必要があったんですね〜。
「あの、椿さん。……これ!」
私が効果を考えている間に作ったのか、ヘスティー様が防具や短剣を持って、私に突き出してきた。
まるでラブレターを意を決して手渡すみたいな、そんな雰囲気だった。
「さすがに、ずっと学生服のままじゃ……」
たしかにこの格好は無防備かもしれない。学生服は元は軍服とはよく言うけれど、今はその面影はデザインにしか残ってない……というか、ブレザーにそんな逸話があるかも知らない。
「あー、そうですね。このままじゃ無防備ですよ――」
「勇者っぽくないじゃないですか!」
そっち!?
「とにかく着替えてください! はい、脱いで脱いで! 脱がせろぉおお!!」
意外な理由に呆気に取られていると、ヘスティー様が追い剥ぎよろしく、私の服を剥ぎ取り出したではないか!? 目が怖い!
「ちょちょちょちょっと待って、ヘスティー様!? じ、自分で! 自分で着替えられるから……――!!?」
この日私は、生まれて初めて、声にならない悲鳴を上げたし、生まれたままの姿を家族以外の他人に晒したし、野外で露出させられた……。
なんか、勇者として戦う前から、一度負けた気がする。相手は神様だから……負けイベントだね! これ!
革鎧に金属プレートを貼ったタイプの、割かし軽めで動きを阻害しない防具と、護身用には最適な刃渡りの短剣を腰に差し、なんとか様になった私を見て、ヘスティー様が親指を立てた。
けれども私は、レギンスタイプのパンツとか、実は履いたことがないのです。スカート派の私なのです、はい。
うん……ピッチリしてるのが落ち着かない……。パンツラインとか浮いてない? これ。
スカートは下に短パンとか履けたけど、これはそうはいかない。下半身が落ち着かない……。
でも、勇者としてやっていくには必要なんだよね……。慣れよう、このピッチリフィット感に……。
はぁ〜。この防具と剣にも効果を入れるか……。
ヘスティー様に性能を聞くと、どちらも店で売ってるような性能ですよと言われた。なんかもう面倒くさいから、初期装備的なものを想像して書いた。
『レザープレートアーマー。装備カード。防御力を100上げる。』
まぁ、カードゲーム的にはこんなもんかな。さすがに上げ幅がゼロなのは違うと思うし。
――ギッギギギ……。
突如として、何かが軋む音がし始めた。
その音を追うと、どうも私かららしい。
「え、何? 何が軋んで――」
その時、パァン! と、何かが弾け飛ぶ音がした。
直後から、何やらお腹が冷える。
――あ。
いやいや。そんなまさか……。
「椿さん、スッポンポンですけど……」
無慈悲なヘスティー様の事実陳列。
まさかがまさかじゃなかった!?
下を見ると、貧相で、肋骨の浮き出た、色気の欠片もない色白の女体が顕になっていた。それは紛れもなく、私の体だった。
「ーー!? くぁwせdrftgyふじこlp――!?」
人生二度目の悲鳴を早速上げて、私は蹲った。
正直、泣いた……。