私が異世界に召喚・特殊召喚された場合、スキルを得て、世界から女神を装備する。④
「それで、どうしますか? 私の分霊を連れて行くのなら、オリジナルスキルじゃなくて、勇者に最低限必要なステータスとスキルを見繕いますけど?」
「ヘスティー様とは一緒にいたいけど、私専用のオリジナルスキルも欲しい……。どうにか一挙両得出来ないものか……」
「全部口に出てますね」
「あ……」
やってしまった……。
慌てて口を両手で覆ったけれど、もう遅い。放言は戻ってこないし、言わなかったことにはならないのだ……。
「どうして、私とそんなに一緒にいたいんですか?」
え?
何、その質問?
「やっぱり、なんでも道具が作れるから……便利屋ってことでしょうか?」
「違いましゅ!」
噛んだ……。だけど構うもんか!
このまま勢いで行く! 言ってやる! 半ば自棄だ!
「ヘスティー様に一目惚れしたからです!! 好きな人と一緒にいたいんです!!」
「え!?」
「確かに、とても魅力的で超有能な力をお持ちですけど、そんなものが無くたって、私は、ヘスティー様と一緒にいたいと思っていました! ぶっちゃけ、めっちゃ美人だからっていうのが、好きになった最初の大きな理由ですけど……とても俗っぽいですけど……。でも! 私、それでも、一目惚れって、生まれて初めてなんです!! しかも相手は、これまでの人生で全く興味無かったはずの同性ですよ!! 声も可愛いし、さっき囁かれたときは、耳が幸せすぎて死ぬかと思いました! 本名も、日本っぽさのミコトって響きが可愛いですし、愛称のヘスティーももちろん可愛いです。ヘスティアヌスって部分も、ギリシャ神話って感じですごい威厳があってかっこいいです! 「はい!」って、元気な返事も、可愛さマックスで身悶えしたくなります! 本当に少ししか一緒にいないですけど、それでも、大好きなんです!! 人生を終えるその日まで、ずっと一緒にいたいくらいに!!」
言い切った。
言い切ってしまった。
呼吸、荒い。
とんでもなくキモい告白をしたのではないか、私。
一方的で、主観的で、ほとんど外面にしか向けていない好意。
内面を見ている時間も機会もほとんどなかったとは言え、流石にこれは無い。
キモいと吐き捨てられて、「やっぱ勇者の話、無しで」と、ロードローラーにペシャンコにされる運命に戻されるかもしれない。
でも――
それでも――
後悔だけはしていない――。
もういっそ清々しいまであるな、私。
私史上、最も脳がクリアな気がする。クリアすぎてボーっとするまである。
あ、酸欠か、これ。こんなになるまで大きな声で感情と想いを口にしたのも初めてだ。
本気なんだな、私……。
ちゃんと息をしよう。
呼吸を整えるため。
そして――彼女の答えを聞くために。
ヘスティー様はポカンとしていた。
まぁ、いきなり愛の告白とか、何言ってんだコイツ案件だしね。
そして、しばらく待っていると、ゼンマイが回りだした人形のようにカクカクとした動きでソワソワしだした。
「え、えと……あの……その……ま、まだ……飲み込めていないというか……あ、いえ、言葉の意味はよく分かっているんですけど……えと……発生してから四千年の神生ですけど……今日まで、そんなストレートに告白されたことが無かったので……驚いてしまって……」
こんな美人――美神に告白した神も人も居ない!? 嘘でしょ!?
「あの……そうですね……まずは、ありがとうございます! 私を好きと言ってくれて……。素直に嬉しいです。名前のことも、好きって言ってくれて……そんなふうに褒めてもらったこと、無かったので……。ええっと……えへへ……顔、熱いです……」
沈黙。
私は次の言葉をただ待つ。
そして――
「嬉しい……。とっても嬉しいんですけど……でもやっぱり、ルールは守らないといけないので……」
そうですよね……。
両方なんて、虫がいい話はない。
そもそも、オリジナルスキルを得るか、そこそこの汎用スキルとヘスティー様の分霊を得るかという話だったのに、突然愛の告白をしてヘスティー様を困惑させてる私がどうかしてるわけで……。
無理なものは無理なのだから、大人しくオリジナルスキルを貰うべきだろう。
あーでも、やっぱり一緒にいたい。こんなに好きなのに……。せめて何か、ヘスティー様お手製の武器とかお役立ち道具、御守り……最悪、髪の毛の一本でもなんでも……ん?
武器……道具……装備……。
「ヘスティー様」
「……あ、はい!」
まだ赤く火照った顔を両手でパタパタと扇いでいた、可愛いヘスティー様が、慌てて返事をした。
「はい!」と言ったあと、私が返事を褒めていたことを思い出したのか、また顔を赤くして、左側だけを小さくみずら結いにした髪を、恥ずかしそうに、撫でるように弄った。
「で、でー、な、なんですか?」
もじもじとする、ヘスティー様の可愛らしさに耐えながら、尋ねる。
「オリジナルスキルを貰う人って、それとは別に武器とか貰ったりするんです?」
「え? はい。戦う以上は、武器も必要ですし、相手は世界を滅ぼすレベルですので、それ相応の武器や防具は普通にお渡ししますね」
「分霊を選んだ人もですか?」
「はい。そこは分け隔てなくって感じです」
「じゃあ、それ、私には無しでお願いします!」
「ええ!?」
驚くヘスティー様に構わず、私は続ける。
「私、オリジナルスキルを貰います」
「え? あ、はい……」
言って、水晶玉に再び手を乗せる。
困惑するヘスティー様を尻目に、能力を考える。
考えながら、ちらりと、水晶を見るヘスティー様の顔を見ると、おちょぼ口で眉間にシワを寄せても可愛い顔で眉をピクピクさせていた。
「で、出来ましたけど……本当にこれで良いんですか?」
そうしてついに完成したスキルを前に、最終確認をされた。
私はもちろんと頷く。じゃないと最終調整が出来ないし。
「じゃ、じゃあ、行きますよ! スキル付与! あと、勇者共通ステータスも持ってけえ!」
ヘスティー様が、両手の平を私に向けてかざすと、眩い光が放たれて、それが私の中に吸い込まれていった。
そして、これまで感じたことのない力が、体の奥から溢れてくるのを感じた。
光が収まり、付与が終わったとき、私は私のスキルの最終調整を行った。それが終わってから、再び異世界へと転移される運びとなる。
結構な時間、考えながらスキルの最終調整を終えた私は、いよいよ出発と相成った。
「ヘスティー様、長居してすみません」
「いえいえ、納得できたのでしたら、良かったです! ……それで……本当に装備品は貰っていかなくて大丈夫なんですか?」
「はい。現地調達できるアテがあるので!」
「知らない世界のはずなのに!? そ、それに、本当にあのスキルで良かったんですか? もっと見るからに強いスキルだって、考えたら作れたのに……」
「いいえ、あれで良いんです。ありがとうございました!」
ヘスティー様が見たのは、私が調整する前の状態。バニラ環境のスキルだ。そして、私が最終調整をした後の完成形のスキルは見せていない。
これには、後でびっくりさせてあげたいという、私の悪戯心が少し入っている。
まぁ、そもそもの話、スキルを本人が最終調整できるって点で既におかしいと気づくべきなんだけど、いろいろなとんでもオリジナルスキルを見てきたへスティー様には、それがおかしいと思える感覚が既に無かったみたいだ。慣れって怖いね。
「じゃあ、行ってらっしゃい! 勇者、黒咲椿さんよ!」
名前に敬称が入って、微妙に締まらない言葉をかけられながら、私の足下に魔法陣のようなものが出現した。
「それじゃあ、へスティー様。行ってきます。またすぐ会いましょうね!」
「はい! 行ってらっしゃい! ……え? またすぐ?」
再びの急転直下。
こうして、困惑するへスティー様の顔を拝みながら、私は旅立った。
ワープとかそういうのを期待してたけど、へスティー様の部屋に来たときと同じ直滑降式で、私が救うことになるらしい世界に落とされたのだった。