私が異世界に召喚・特殊召喚された場合、スキルを得て、世界から女神を装備する。③
「それで、私を呼んだのは何故ですか?」
私が尋ねると、「はい!」と元気な返事をして (可愛い)、ヘスティー様は答えた。
「それはもちろん! 勇者です! 椿さんには、異世界の勇者となって世界を救ってもらいます!」
おお……本当にこういう話あるんだ。
私が……勇者か……。
いやいや、落ち着き払ってる場合ではない。何かリアクションしないと。そういうのを期待してこんな元気いっぱい可愛さ満点で発表してくれたんだろうし。
少し大袈裟に驚いてあげた方が喜んでくれるだろうか?
よし。
「な、なんだってえええ!!? 私が勇者あああ!!?」
自分でやっといてなんだけど、結構恥ずかしいなこれ……。
まぁでも、ヘスティー様の、驚いてる驚いてるって感じの満面の笑みを見たら、やった甲斐があったというものだろう。
「どうして、こんなカードゲームしか趣味のない、陰キャ四白眼女子を?」
それはそれとして、理由は気になるので尋ねる。
美少女ではないと自覚もあるし、友達もいないし、瞳孔小さいし、それで目つきが怖いと子供の頃から言われている、こんな華もない女を勇者にする理由とは。
そして、ヘスティー様の答えは……。
「えっと……怒らないでほしいんですけど……」
怒る? こんな可愛い女神様に怒る人なんて、むしろ私が怒るんだけど?
怖ず怖ずと、ヘスティー様が言葉を続ける。
「えっと……。勇者を誰にしようかなぁ〜って、下界を探してたら、あとちょっとで死にそうだった椿さんを見つけたので……です……」
え? 今のが理由? 死にそうだったっていうのが本当なら、むしろ私は命を救ってくれてありがとうと、お礼を言うところじゃないの?
「どうしてその話で怒ると思ったんです?」
「え? えっとぉ……勇者は誰でも良かった、みたいな探し方だったじゃないですか……そういう扱いが嫌じゃなかったかなって……」
いい子過ぎる!!
「あと、それと、死ぬ運命を捻じ曲げちゃったのが失礼で悪かったなって……」
それはちょっとよく分からない。神様の価値観だと、死の運命を捻じ曲げるのが失礼なんだ……。
生きていられるのならその方がいいですよ、私たち人間は。
私はその辺を説明して、怒っていないことと、感謝を伝えた。
ヘスティー様は安心したようで、強張った顔を緩ませた。可愛い可愛い。
「そういえば、あとちょっとで死にそうだったみたいですけど、私ってどういう死に方する予定だったんですか?」
ちょっと気になったので聞いてみる。
「はい。えと……あの後、交差点でタンクローリーが爆発します。そして、その爆風でふっ飛ばされた椿さんは、工事運転中だったロードローラーに轢かれてペチャンコになって死にます」
「まじ?」
「まじです」
それ、私以外もかなりの数死んでないか? とは思いつつも、神様が助ける命の餞別を恣意的にするくらい、普通のことかと、無理やり納得した。
あと、自分自身の死に様の不運っぷりと無惨さがあんまりにもあんまりなので、爆発だけで死ねたならまだ他の犠牲者はマシだろうと思った。
その不運っぷりときたら、バイト代十万円をはたいて、激烈に欲しかった絵柄違いのカードが、一枚しか出なかったとき以上の不運だろう。
え? 本当の不運は一枚も出ない?
馬鹿を言いなさんな。一枚出て少しの希望を持って突っ込んだ追加八万円が無駄になったんだぞ!!? 一枚も出てないよりか、感情の下げ幅が大きいでしょうよ!! 希望から絶望への相転移が一番エネルギーが大きいって、どこぞのゲスコットも言っていたでしょう!
くそ、どうして一枚出た時点でやめなかったんだ、あのときの私は……!
「あのぅ……大丈夫ですか? やっぱり怒ってますか? 死ぬ運命を変えてしまって……」
「あ! 全然怒ってないです! ちょっと連想ゲームで嫌なこと思い出しちゃっただけで……へへへ……」
「そうですかぁ。なら、いいんですけど……」
いかんいかん。ついネガティブ思考ループのドツボにはまっていくところだった。陰キャの悪い癖だよね、というか習性?
無理やり話を本筋に戻さないと、また余計なことを考えてしまうに違いない!
「えっと、それで、勇者……でしたよね? 私はこれからどうしたらいいんですか?」
尋ねると、また「はい!」と元気で可愛い返事をして、ヘスティー様がお話し遊ばれました。
この「はい!」がたまらなく可愛いんだよなぁ……これだけで崇め奉れる。
私の主神にしちゃう。
そうだ、宗教を興そう!
そんなことを考えていることも露知らず、ヘスティー様は話し続けていた。
しまった。最初の方全然聞いてなかった。信徒失格です……。今からちゃんと聞きます。
「これから、私から椿さんに、スキルを授けます」
お、なんか、ちょうど良いところっぽいぞ?
「自分の中でこういうのが強いなぁって思うものを考えてみてください。……あ、これに手を乗せながらでお願いします!」
そう言ってヘスティー様は、ラメシールみたいなものやらでデコった盛り盛り水晶玉みたいな、元玉を私の目の前に置いた。
これに手を乗せるのか、どこに? と、少し躊躇いながら手を乗せて考えた。
こういうのが強いなぁとはまた抽象的過ぎるけど……。
うーん。他の人は最強の剣術とか、剣とか、そういうことを考えるのだろうか?
「そうですね。そういう人は多いらしいです」
あぇ!? 心読まれてる!?
「あああ、すみませんすみません! 水晶に心の声が出るんです!」
ああ、そういうことか……びっくりした……。
まぁ、出会ったときに戻っただけだなこれ。慌てない慌てない。
さて、強い力か……。
私がやってるカードゲーム的には、最強効果は『相手のカードの効果を受けない』だけど、それはなんかつまらないなぁ……。
無難に、『対象に取られない』あたりかなぁ。あとは『戦闘、効果による破壊耐性』に、『なんでも無効、後に破壊、もしくは裏側除外』、『名称指定、ターン一回が無い』とか?
あ、『攻撃力倍加』とか『守備表示相手への攻撃は貫通ダメージを与える』も結構好き。ワンキルはロマンだよねぇ。
となると、『全体攻撃』もなかなかに乙なものだけど、カードゲーム的全体攻撃は、タイマンを敵の数だけやるってことだから、面倒だな。だからといって、『全体一括除去』みたいなものも、実際に私が戦うのなら興醒めかもしれない。
バトルジャンキーではないけど、やっぱり楽しむ要素はないと。
義務感だけじゃ、戦いの虚無の中をやっていけない気がするし。
こんな考え方で大丈夫か? と少し不安になってちらりとヘスティー様を見ると、ウンウンと頷いている。私のそんな視線に気づいて、大丈夫ですよと、笑顔で手を振ってくれた。可愛い!
あ、顔が赤くなった。
あ、今、心の声、聞かれてるんだった……。
私は一度、玉から手を離して考える。
「どうしました?」
「ちょっとタイムです」
「りょーかいでーす♪」
くそ、一々可愛いなあ! 東山奈央さんみたいな声が悪い! いや、良い!
勇者とか能力とか、もうこの際どうでもいいから、ヘスティー様と一緒にいたい!
いや待てよ私。それではないか? ヘスティー様と一緒にいられるスキル! これだ! 神様だしきっとなんでも出来――
いや、ヘスティー様って、そもそも何の神様なんだ? 芸能の神様だったら、一緒にいてもお金稼ぎくらいしか出来ないのでは? いや、それはそれで重要だけども。
たとえ読心術以外が何も出来なくても一緒にいてほしいけども。
それはそれ。聞くだけ聞いてみよう。どんな神様でも愛せるけども。
「つかぬことを聞いても?」
「はい? どうぞどうぞ」
「ヘスティー様は、何を司っていらっしゃる神様なんでしょうか?」
「なんですかぁ、その話し方。畏まりすぎですよ〜。……えーっとですねぇ〜」
――ごくり。
たしか、ヘファイストスと加具土命の末裔って話だったよね。なら、鍛冶とか、炎?
でも、末裔っていうくらいだし、それそのものとは限らないか。間に他の神様もいるだろうし……。
「私は、『文明』を司る神様です」
「文明?」
意外な答えに、私はヘスティー様の言葉を鸚鵡返しする。
今までで一番優しい声音でヘスティー様は「はい」と返事をした。まるで聖母のような響きだった。
ヘスティー様は、その聖母のような声音で続ける。
「正確には、私は火と金床、金槌。つまり、炉と鍛冶の神で、加具土命とヘファイストスの相乗先祖返りみたいな感じでして。人間が初めて扱うようになった道具の火と、そこから生まれてきた数々道具。文明の礎となったものを司っているからと、文明の女神を名乗ることを許されました」
「つまり、何がお得意なので?」
「火を扱うことと、道具作成全般ですね!」
「それには武器も含まれていたりとか……?」
「もちろんです! もとは鍛冶ですから、むしろそっちの方が大得意です!」
んんんんんんん!! 大当たりも大当たり!! 一緒に行きたい!!
よし、思い切って提案してみよう!
「あの、その……スキルは最低限で、ヘスティー様と一緒に行きたいって言ったら――」
「あー、ごめんなさい。それは出来ない決まりで……」
ガーン!
まぁ、予想はできてたけど……。
「神が一緒に行くのは、昔はできたんですけど、こっちの世界の神手が不足したり、下界に神の子が増えたりと、問題が大きくなりまして……最近禁止になったんですよね……。抜け道はなくはないんですけど……」
「え!? 抜け道!?」
「えっとですね……」
ヘスティー様のお顔が、ご尊顔が、私のガチ恋距離まで近づいて、ASMRよろしく、耳元でお囁きになられた!!
あー、ダメです! 好きになります! もうなってる!!
けれど! 脳が蕩けないように、頑張って話は聞いた!
「神の力だけを持っていくという建前であれば、その身一代限りで、神の力が使える人間の体の分霊を作成して一緒に降りられます」
脳が震える……。蕩ける……。好き……。
頑張れ。戻ってこい私の理性!
「分霊ってことは、ヘスティー様本体はこちらで?」
「いつも通り仕事をしますよ。記憶とかは、分霊が眠ったタイミングで、本体側にフィードバックがあります」
「なる程。神様の子供が増える問題が発生って言いましたけど、私たち同性ですし、問題なくないですか?」
「神様に性別や種族の垣根なんてあるわけ無いじゃないですか。何言ってるんですか、椿さんったらもう〜、おかしい〜」
そんなの基礎の基礎の常識ですよ〜、みたいなニュアンスで笑われたんだけど……。え? 神様、同性でも普通に子供作るの?
「男同士でも? 動物や魔物相手でも?」
「そうですけど?」
神……生きる世界が文字通り違う……。だからわざわざ人間の体の分霊を作るんだ……。じゃないと好き勝手に子供作れちゃうから……。そういうのに奔放過ぎる神様が下界に降りたから禁止になったのかなぁ……。