装備できる。その17
沈黙。そして――
本日何度目かの「……はい?」が再び前後から聞こえてきた。
まぁ、気持ちはよく分かる。
だけど、「何言ってんだこいつ? 気でも触れたのか?」みたいな目で見るのは止めてくださいな、お二人さん。地味に傷つくから……。
そんな傷心を、勇者の使命感で覆い隠して、私は説明する。
「私の効果によって、セレアイラさんは、私の装備魔法扱いになっているんだよ!」
「それは先ほど聞きましたが……。会話ができないのですか?」
ぐうっ……!
ピンポイントでクリティカルなことを!! なかなかやるじゃない……。
「貴女の、その、効果? とやらで、セレアイラがどうなっているのかと、尋ねているのですよ、ツバキ殿」
凄い。顔がスンってしてる。素に戻ってるよ、ドゥラマ。
急に冷静にならないでよ。もっとさっきまでの悪役ムーブ続けて行こうよ。
まぁ、ね。私が禄に会話もしたことがなかった社会不適合者なのが全部悪いんだけどさ……。
いや頑張れ私! 勇者だぞ私! 勇者はへこたれない! 女の子だもん!
「今からそれを説明するところだったんだよ、人の話はちゃんと最後まで聞きなさい!」
そんな能書きを吐いて、咳払いを一つ。私は説明を続けた。
「――私の効果の一つ。『自分フィールドのモンスターを任意の数まで装備魔法カード扱いで自身に装備できる。』と、私のスキル『O・C・T』の合わせ技でね。装備したセレアイラさんに効果を書き加えたってわけ!」
「なんですってッ!? 貴女の言う効果とは、スキルと同じものではないのですか!?」
く、ちょっとリアクションしたくなるような反応を……。でも、私負けないよ!
「違う! じゃあ続きね――」
「自分の言いたいことだけを言おうとするなど……本当に会話ができないのですね、貴女」
敵に憐れまれた……。
ええい! 知らん知らん!
「敵の会話に乗る必要なんてありますか?」
「さっきまではしてたくせに……」
もういいです。レスバでは勝てません。社会経験的にもあちらの方が上手です、無理です。
自分を貫くと書いて、勇者と読みます! という精神で話を続けよう、そうしよう!
「私がセレアイラさんに書き加えた効果! 『このカードが装備魔法カード扱いの間、戦闘・効果では破壊されない。』つまり、セレアイラさんは、殺せない!」
「なにぃい!?」「ええ!?」
「そ、そもそも、そのようなことを、いつの間に……」
まぁ、ぶっちゃけフリーチェーンだから、いつでも好きなタイミングでできるんだけど、ちょっと、自分の行動に意味付けをしておこう。どこかで魔王側に見られてるかもしれないから、誤情報を流す意味合いでも。
「私がセレアイラさんを抱きしめたとき――」
「――ッ!? あのとき……ですと!?」
「だから私、言ったんですよ。「待っていてくれてありがとうございます」って」
「そ、そういうことだったのですか!!」
ニヤリと、不敵そうに笑ってみる。
まぁ、そういうことではないのだけど。情報戦というものだよ。フフフ。
「ですが解せませんね……。セレアイラがその効果とやらで不死身ならば、貴女と、貴女のお連れは……」
「私は、最初から椿さんの装備魔法扱いなので!」
底抜けに明るい声音で、あっけらかんと、ヘスティー様は言い放った。
「そして当然だけど、私にもその不死身効果がついてる。テーマ共通効果ってやつだね」
「何をわけの分からないことを……。不死身を付与するスキルに、自身も不死身にできる能力などと……そんなデタラメな……勇者のような力……。――勇者の……ような?」
お、気づいたかな?
「セレアイラ……。勇者は召喚されたのですよね? 魔法陣で、確かに!」
「はい」
「そして、死んだ。ゼムキルの手によって!」
「……はい」
「では……この娘は! この娘は何なのですか!?」
ツバを飛ばしながら、ドゥラマは、私に指を差して叫んだ。
不死身となったセレアイラさんが立ち上がる。
ヘスティー様の手を握るその手は、いまだ震えてはいるものの、その彼女の瞳には、さっきまでの恐怖は無かった。
そして、その口は告げる。ドゥラマにとっては残酷な真実を――
「ドゥラマ神殿長。私も、ツバキさんたちに街を案内する中で知ったのですが……。彼女は――ツバキさんは、勇者です!」
「ば、馬鹿な!? 勇者召喚は、五〇年かけて魔法陣が蓄えた魔力を使って行う大魔法ですよ!? セレアイラ、お前は今さっき確かに、勇者は召喚されたと、言ったじゃあないですか!」
「はい。私が召喚した勇者は――ウラセソーヤは、確かに存在していました。そして、帰りの道中、ゼムキル一派の襲撃を受けて、奮戦虚しくも亡くなりました……」
「では何故、もう一人の勇者がここにいるのです!?」
「ドゥラマ。貴女は知らなかったのです。そして、知らなかったからこそ、私たちはこの世界に降り立つことができた」
ヘスティー様が、セレアイラさんの前に出て、お言葉を発した。ドゥラマの荘厳な詠唱とは比べるべくもない、謳うような、神聖さを帯びた声音で。
セレアイラさんが思わず跪く。その姿は、まるで敬虔な信徒のように、祈りを捧げるように手を合わせたものだ。
ドゥラマも、ヘスティー様のその様子の変化と、本物の威厳と威容を前に、立ち尽くして言葉が出ないようだった。
自然と、私の目からは、須らく涙が零れた。
ああ――なんて、なんて、美しいのだろう……。この女神様は……。
後光さえ幻視する我が愛しき女神様は、託宣のように、言葉を私たちに届ける。
「ドゥラマ。まさかこのような方法で、勇者を始末するとは、我々としても誤算でした。ですが、勇者召喚という仕組みへの理解が、今少し足りませんでしたね。まぁ、それを教える義理もないのですが。――見ているのでしょう? 今代の魔王。ドゥラマの目を借りて。魔王というものはそういうものだと理解しています」
ヘスティー様が語りかけると、ドゥラマの様子が変化する。
突如として、ぐったりと項垂れ、それから大きく仰け反ったかと思うと、気を付けの姿勢でピタリと直立した。
そして、ドゥラマの口を借りて、それは話し始めた。
「看破お見事。まぁ、そのくらいのことはさすがに朝飯前と言ったところか。――やぁ、はじめまして……と言うべきかな? 女神の形代……ではなさそうだ。その威厳は、代替品では出せまいよな。まさか、女神御自らご降臨しているとは、思いもよりませんでした。」
「挨拶など結構。これは私たちからの宣戦布告です、魔王。私が召喚したこの勇者が、貴方を討ち滅ぼし、この世界を救います」
「カハハハ! 強い言葉をお使いになる。では返答をさせていただこう、どこぞの女神よ。――受けて立つ。やれるものならばやってみるがいい! 余はこの世界に過去現れた魔王の中で、最も強き力を得ている。そして、それは我が配下も同様。正規な手段で召喚しておらぬ、そこな急拵えのひ弱そうな勇者なぞ、何するものぞ! どれほど奮闘しようが、せいぜいがオークの慰み者かダイヤウルフどもの餌行きだと心得よ」
「ほざきなさい。彼女は私が選んだ最高の勇者です。貴方の方こそ、部屋の隅で震えて待つがいい」
言い終わると、ヘスティー様は指をパチンと鳴らした。すると、魔王が宿っていたドゥラマの体が一度大きく跳ねて、脱力するように膝を床に着いた。
「――ハッ!? 今、私は魔王様に体をお貸ししていた?」
「ドゥラマ。貴方と魔王の接続を切りました。もう覗き見などという破廉恥な真似はさせません」
「ふん……魔王様の目が届かないからなんだというのです。魔王様から力を得て戦っていたわけでもあるまいに。そんなことをしても私の強さは変わりませんよ?」
「何を勘違いしているのですか?」
「ひょ?」
「変わるのは椿さんの方です」
ひょ?
どういうこと?
「これまで椿さんは、魔王の目があるからと、必要最小限の力の開示しかしていませんでした。これからは、それを解放して戦うと言っているんです」
「これが能力の全貌ではなかった、ですと!?」
な、なんだってー!?
そもそも、魔王が見てることは知らなかったんだけど!?
まぁ、力のセーブはしてたけども、ただそれは、まだ使ってなかっただけで、普通にこれから使って倒すつもりだったんだよなぁ……。
不安な心を押し隠しながら、何言ってんのこの女神様と、ヘスティー様を見ると、後光を少し弱めて、私にウインクした。それでテレパシーか何かを使ったのか、声が頭の中に響いた。
――話を合わせてください。揺さぶりは基本戦術ですよ、椿さん!――
あ、盤外戦術ってことね。理解しましたヘスティー様。
私は頷いた。
さすがヘスティー様。ここで心理戦を仕掛けるとは!
しかし問題がある。頷いたは良いけれど、私ってば、根っからのソロカードゲームプレイヤー。紙のデッキを使ったときの対戦相手は、別のデッキを握った自分自身しかいなかったので、盤外戦術なんて、アニメのロールプレイ程度しかやったことがないんですよ!
ま、まぁ、要は、威勢の良いことを言って全力を使って倒すってこと……だよね?
頑張ってみよう。勇者だし。ヘスティー様に良いところも見せたいし。
でも、ドゥラマを倒すのは、私じゃなくて、セレアイラさんの方がいいと思う。因縁とかそういうのもあるだろうし。
それに、今のセレアイラさんならそれができる。私が与えた、破壊耐性とは別の効果で!
「セレアイラさん。立って! 一緒に、やっつけよう!」
「私? でも、私の力じゃ……」
「大丈夫! 今のセレアイラさんならできる! 私が付いてるから!」
正確には、私に付いてるからなんだけど、野暮なので言わない。
手を差し伸ばし、出来てるか分からない笑顔を向けると、セレアイラさんはいくらか逡巡してから手を取ってくれた。私はそれを引っ張り起こす。
あーあ。また全部終わってから後悔とかするんだろうなぁと、頭の隅で思う。
魔物のゼムキルですらあの様だったんだ。魂が魔族とはいえ、肉体は人間。しかも結構なお年寄りのドゥラマを倒したとなったら、何日か罪悪感で寝込むかもしれない。
けれどその思考も、上記の通り、頭の隅でほんのり考えている程度に、追いやられているんだよね。
今は、勇者としてアイツを倒さなきゃいけないという使命感の方が遥かに大きい。
そして、こんな思考も、している内にさらに希薄になっていく。
――悪を討て。勇者として。
そんな声が脳内を塗り潰していく。
セレアイラさんの手を握る。なぜ強く握ったのかは、ちょっと今は思い出せないけれど、一緒に立ち向かうという覚悟だけは確かにあった。
「ツバキさん、私……」
不安げに私を呼ぶセレアイラさん。普段ならば絶対できないであろう、相手の目を真っ直ぐ見るということをして、私は答える。
「大丈夫。魔法を使って、セレアイラさん。――絶対に勝てるから。仇を取ろう、みんなの!」
ぐっと両手を強く握ると、セレアイラさんは握り返して――
「……はい。やってみます!」
ずっとあった彼女の手の震えは、そこで消えた。




