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装備できる。その16

「じゃあ、意趣返しってやつをしようか? アンタの顔を絶望に染めてやる。――来なよ」


「ッフ! ほざきなさい、たかだか冒険者の分際で。生憎ですが、ゼムキルよりも私は強いですよ。前世では魔王軍の七宝が一つと謳われていましたからね、同じようにいくとは思わないことです!」


 何だ、七宝って? 四天王みたいなものかな? なら、現代減ってるじゃん。頑張ったんだな、前の勇者。コイツというイレギュラーは出たみたいだけど……。


「参りますよ。小手調べです。 炎よ! 我が手に番い、敵を射よ!『火焔の弓矢(フレイム・アロー)』!」

「――ふん!」


 手の平で受けて、振り払うように腕を振った。


「さすがにこの程度は雑作もありませんか。想定内です」


 ドゥラマが次の詠唱をしている間に、私はふと考えた。

 あれ? 私、効果の対象に取れないはずじゃ? なんで炎の矢で狙えたんだ? と。


「これならどうですか? 『火焔の大槍(フレイム・ランス)』」


 そしてドゥラマの次の魔法攻撃。炎で出来た大きな槍が、頭上から落ちてくる。

 うん。私目がけて飛んでくるな……。なんだろう? この世界の魔法は全部対象を取らないのかな? なら、私が最初に設定した対象にならない効果が死文化するんだけど?

 まぁ、戦闘、効果では破壊されないから、困らないと言えば、困らないんだけど……。


 おっと、考えてないで受け止めなきゃ……。とりあえず、今度は両手でも伸ばしてみるか。

 大槍は、私が両手で受け止めるのと同時に霧散した。残熱でちょっと熱い。


「ほう、中級魔法(これ)も、防ぎますか……。それほど高度な防御術(シールド)を発動の瞬間すら見せずに……」

「さっきから炎ばっかり撃ってるけど、大丈夫なの? 火事とか」

「ははは! 問題ありません。この程度であれば通じないだろうと想定してのものですので」


 効かないだろうと分かってて、あえて撃ってたのか。結構慎重だな。口は軽いくせに。


「では再び、最上級火焔魔法を食らいなさい!」

「受けて立つよ!」


 再び荘厳な声音の詠唱が、礼拝堂中に響き渡った。ミサでも聞いているみたいなそれは、私を殺そうとしているものなのだけれど、私の心は凪いでいる。効かないと分かっているから。ただ、なぜ私に向けて撃てるのかが謎なだけで。


「――『断罪の火刑フレイム・ジャッジメント


 放たれた炎の奔流が、私に向かってくることに、心の中で首を傾げながら、それを手刀で切り裂いた。


「……あ゙……あ゙……あ゙り゙え゙な゙ぁ゙ぃ゙い゙い゙! こんな事があっていいはずがない! 神聖属性も含めた複合属性の最上級攻撃魔法ですよ!? 今度は確かに貴女を狙ったものだった! 不具合が出るなんて、起こり得ない! ましてや、手刀で切り裂くなど! どんな防御魔法でもそんな芸当、出来るわけがない!! こんな事が出来る人間が、一廉(ひとかど)の冒険者であるはずがない! もしそうであるならば、名が知れ渡っているはずです! ――貴女! いったい、何者なのですか!?」

「さぁ、誰でしょう? 私はその辺、口が硬いんだよね。アンタと違って」


 言って、私はアカンベーをした。教えてやらないよーだ!

 個人情報っていうのは、隠している間はなんでもないけど、一度敵に回れば、自分を刺してくる剣になるって、身を以て知ってるからさ、私。


 懐かしいなぁ。友達と思ってた子に、趣味だとか、色々いじめっ子たちにバラされて、いじめがエスカレートしたの……。なんで私、不登校にならなかったんだろ……。あ、家にも居場所がなかったからだわ……。ははは……。


 っと、素の私に戻ってしまったじゃないか! おのれドゥラマ! 嫌なこと思い出させやがって! ゆ゙る゙ざん゙!


「くっ……小賢しい小娘ですね。まぁいいでしょう。貴女の正体など、今は重要ではありません。何者であろうと、勇者でもない人間が、魔王様に勝てるわけがない。ここで私が尽きようと、今はせめて、後ろのセレアイラたちを屠ればいいのです!」

「や、止めろ! 私が相手でしょう! まずは私を倒すのが筋ってものでしょうよ、卑怯者!」

「ははは! さすがの貴女でも、自分はどうあれ、他人を守り切るのは苦手なようだ! 卑怯? 卑怯で結構。私は魔族ですからね。殺せるところから殺すまでです。……あー、人の体の聖職者で良かったことが一つだけありました。聖属性魔法の大部分を――無詠唱で撃てることです!」

「止めろぉぉぉおおお!!」


 (かざ)された手の平から、光が杭のように伸び、文字通り、光の速度で放たれた。

 さすがの勇者()の力でも、光に追いつくことは敵わないと、直感で悟った。

 そして、その直感が働く頃には、光の杭は、セレアイラさんに達することも、理解できていた。


 したり顔でニヤけるドゥラマの顔と、悲壮を映すセレアイラさんの顔。

 ごめんね、セレアイラさん。そんな顔をさせて。ゴメンね。と、心の内で謝罪する。


 でも、すぐにその顔を変えてあげるから、見ていてね!



「――なーんちゃって☆」

 我が人生で一番可愛い声が出たと思う。そして、我が人生で一番キモい声でもあっただろう。今鏡を見たら、間違いなく悪い顔で笑っているに違いない。勇者なのに……。


「「……は?」」


 男女の困惑する声が、前後から重なる。

「な、ななな……何故!? どういうことですか!?」

 ドゥラマのニヤけ面が、困惑と驚愕の色に塗り潰されている。

 そして――

「え……私……生きて……?」

 悲壮な表情がキョトン顔へとシフトしたセレアイラさん。その隣で、後方腕組み彼女面をしてウンウンと頷いているヘスティー様。さすがに彼女にはお見通しだったみたい。


「そんな……そんなはず!」

 自分の目を疑ったドゥラマが連続で光の杭を放つも、その(ことごと)くはセレアイラさんに届くなり、光の粒に散乱して消えた。ダイアモンドダストを見ているみたいで綺麗だった。本物は見たことないけど。


「ぁ゙あ゙り゙ぃ゙え゙ぇな゙ぁ゙い゙ぃ゙い゙い゙!? こうなれば! 光あれ――」

 ドゥラマは、もはやなりふり構わず、無詠唱で撃てることを誇っていた聖魔法の詠唱を始めた。

「――罪深き彼の者らに、神なる罰をお恵みください。降り注ぎ、その罪を(そそ)げ! 『神光降磔(フォトン・クロス)』!」


 そうして、礼拝堂の中空に、眩い光とともに、輝く大きな十字架が現れた。――二つ。

「――なっ!? 二つ!? 何故!? 確かに三人を狙ったはずなのに!」


 なるほど。私が対象に取れてないからってことか、これ。でも、なんで今更?


 そして私の方にも、目の前にアナウンスが表示された。


【相手の効果が発動しました。チェーンしますか? 《YES/NO》 発動可能効果:『相手の効果が発動した場合に発動できる、その効果を無効にし、破壊する。』】


「こっちもなんで今!? さっきの戦闘時にも、相手は魔法使ってたでしょうに、そのときにも出てよ!」


 いや待って……戦闘時……?


 ――あ!


 そこで私は合点が入った。

 さっきまでは、一対一で、カードゲームで言うところのバトルフェイズ。そこで使われた魔法は、モンスターカードによる攻撃扱い。つまるところ、カードゲームアニメにおける、モンスターの必殺技のようなもので、どんな魔法を使おうと、文脈的には「ダークネスマジック!」とか、「鏖殺のバーストウェイブ!」と叫んでモンスターが攻撃してるのと一緒ということだ。


 そして今回は、私を含めた三人を対象にした魔法。

 攻撃ではあるんだけど、()()()()()()()()()()()()()ことはカードゲーム的にはあり得ないので、魔法効果の発動扱いということになったのだろう。


 あ、なんか、謎が解けてスッキリした。


 さて、スッキリしたところで、このチェーン確認だけど……今回はそのまま魔法を受けることにする。

 あんまり手の内を見せたくないっていうのも理由の一つであるけど、やっぱり一番は――


 悪者にも、もう少し希望を持たせてあげたいじゃん?

 それから、底しれぬ絶望の淵に沈んでもらいたいのよ、私は。


 だって、セレアイラさんだけじゃない。過去、こいつに殺された人たちの無念を、未練を、少しでも晴らせるように、こいつには苦しんでもらわなくちゃ、犠牲者のみんなが浮かばれない。でしょ?

 それを私ごときが烏滸がましいと思わなくもないけれど、でも、それでも――今、それが出来るのは、曲がりなりにも勇者である、私だけだから!


 チェーン確認ウインドウに念じる。『キャンセル』と。すると、それは消えた。


 光の十字架が、セレアイラさんとヘスティー様に向かって行く。やっぱり私を対象にはできていないみたいだ。


「一つ足りないですが、まぁ、今はいいでしょう。見なさいこの威光! 威容! 恐ろしくて身動きもできませんか!? できないでしょう! そこで今度こそ、二人が死ぬ様を、怯えながら見ているが良いのですッ!!」


 勝つ前から勝った気で勝ち誇っているドゥラマの声を、左から右に聞き流しながら、光十字の軌道を目で追う。

 軌道の予測先には、今度こそもうダメかと涙を瞳に溜めて、ヘスティー様にしがみつくセレアイラさんと、私の方を見て、モナリザのような余裕の表情で笑うヘスティー様がいた。

 ヘスティー様は、もう少し怯える演技とかしても良いのでは? 私が言えたことじゃないんだけど。


 そして、激突まで二秒、一秒。


 現れたときよりも一段と強い光を放って、光の十字が二つ、この広い礼拝堂の天井まで届くほどに巨大化し、そして消えた。


「……はあ?」


 ドゥラマの間の抜けたような声が響く。

 それもそのはず。なにせ、セレアイラさんもヘスティー様も、傷一つ無く、生きてそこにいるのだから。


「そ、そんな……馬鹿な……」


 目の前の光景が信じられず、開いた口が塞がらないといった心情であろうドゥラマに、そろそろ種明かしをしてあげようと思う。


「何度やっても、何をやっても無駄だよ。二人は死なない。私がいる限り!」

「な!? これは、お前の仕業ですか!? いやしかし、あり得ません! 聖魔法の上位術(ハイスペル)ですよ!? 無効化するなど!」


 本当は無効化もできるけど、言わないでおこう。


「無効化はしてないんだよ。効いてないだけ」

「効いていない!?」

「そう。なぜなら二人は――私の装備魔法扱いだからね!」

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