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装備できる。その15

「ちょっと、遅れちゃったかな?」

 私が言うと、セレアイラさんは、無言で首を左右に振った。

「来てくれると、思ってなかった……から……死んじゃうんだって……怖かった……」

 まるで年下の少女のように、堅苦しさの抜けた飾らない言葉遣いで、心の内を吐露するセレアイラさんの言葉を、私は、「うん、うん」と、一つたりとて零さず、胸の内に仕舞い込むように、頷いた。

 そして最後に、セレアイラさんは、一番大事なその言葉を口にした。


「――助けて……」


「もちろん!」

 即答して、私は一度、ギュッと強く、セレアイラさんを抱きしめた。

「任せて」

 耳元で、安心させるようにそう囁いて、私は立ち上がった。


「ヘスティー様、セレアイラさんをお願いします!」

「はい!」


 私たちの敵に振り返り、見据えながら、ヘスティー様に恐れ多くも指示を出すと、いつもの可愛い声で返ってきた。その、重苦しい空気を爽やかにする清涼剤のような存在に、心が軽くなる。


 ――さて。


「待っていてくれてありがとうございます、ドゥラマ神殿長」

「いえいえ。警戒し、見極めていただけです。先程の手品のタネをね……。まったく、驚きですよ。ゼムキルを倒した実力というから、どれほどかと思えば……。――とんだ化け物がいたものです」

「ということは、タネは分からなかったんですね?」

「ええ、もう、さっぱりです。教えていただいても?」

「それは、企業秘密です」

「残念です。――さて、貴女方がここに居るということは、どこまで聞いてしまったのですかな?」

「聞くも何も、愛弟子を殺そうとしたのを見てるわけですし、敵対するにはそれで充分過ぎるのでは? まぁ、それでも聞きたいのなら答えますよ。――魔王と繋がってるだとかなんとか?」

「ははは! やはりそうですか。では、()()しなければなりませんね」

「――やれるものならどうぞ」

「……小娘が! ――いいでしょう。先程の手品も恐らく、対象と違うものに炸裂してしまったが故の不具合があっただけ。そうに違いありません。今度は、貴女を狙って、しっかりと焼き尽くして差し上げます」


 このまま戦闘を始めてもいいけど、もう少し情報が欲しい。録音も続けてるし、コイツを倒しても罪にならないような材料が欲しい。

 魔王と繋がってるってことは、そっち方面のことも何か聞き出せそうだし。

 あと、なんか口軽そうな気がするし、コイツ。


「どうでもいいですけど、こんな火気厳禁みたいな、木の椅子がたくさんあるところで、火の魔法を使うのはいかがなものかと?」

「我が聖なる魔法、フレイム・ジャッジメントは、罪深き生命のみを焼き尽くす魔法です。命なき石や木材には煤一つ付きませんよ。――御覧なさい」

 ドゥラマは私の足下を指さした。目線をやると、確かに床には、私を飲み込んでいた火柱の痕跡すら存在しなかった。


 だけど同時に、合点も入った。


「なるほど。便利な魔法ですね。これなら、出て行ったとか、追い出されたとか言われていた、他の神子魔術師のみなさんも、痕跡残さず消せるわけだ」

「ええそうです。椅子にでも縛り付ければ、椅子と縄と衣服しか残らない」

「それで、犯行現場はここ。かなり厳重な音漏れ対策をしているみたいですし……。一体、何人殺してきたのやら……」

「さて、何人でしたかね。数えるのを止めてからもう随分経ちましたから、覚えていません」


 吐き気を催す邪悪とは、こういう奴に使う形容詞なのだと実感した。


「とんだ下衆な司祭がいたものだね」

「当然です。なんと言っても、私は魔族ですからね」


 …………。


「――は?」

 何言ってるんだこいつ? という困惑が、そのまま声と顔に出た。

 魔族になりたくて、いつの日か、自分が魔族だと思い込み始めた系聖職者なの? 聖職者としてどうなのそれ……。

 いや、その憧れだけで魔王と繋がったのなら、いっそ凄みすら感じるけども……。


「ははは! やっと表情が崩れましたね! そうです。私は魔族なんですよ! この体は人間ですが、魂は魔族なのです!」


 ん? ん? つまり何だ?

 憑依とか、そういうやつかな?


「ドゥラマさんの体を、乗っ取っているの?」

「そう思うのも無理はありませんね。ですが違います。私は生まれたときからこの心でした。生まれて間もない頃から意識ははっきりしていた。つまり、所謂ところの、前世の記憶。とある魔族の転生体(リインカーネーション)。それが私だったのです!」


 くそ。有名ラノベのタイトルみたいなこと言いやがって。

 というか、転生とか前世の記憶とか、敵側のお前が使うなよ! それは主人公(こっち側)の専売特許だろうに! いや、私は主人公なんて、キャラでもガラでもないけども……。まず華が無いし。


 ――って、余計なこと考えてる場合じゃないか。


「それで、その転生魔族様が、人類のために聖職者にって、話なわけないよね……」

「無論です。なぜ私が下等生物に慈しみを抱かねばならないのですか? 忌々しくも、その下等生物になってしまった私は、その理由を考えました。――そして……ついに至ったのです! これは、神のお導きであると!」


 え? え? え? え? 何言ってるのかちょっと理解が追いつかない。神に仇なす魔族が人間に生まれて、神に感謝? 人類側の神に?


「本気で言ってるの……?」

「私は本気ですよ。我らにも勝つチャンスを与え給うた、神による思し召し。そう解釈しました。それ以外に解釈しようが無かった!」

「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず……みたいな、そういう機会を神がくれたと?」


 ドゥラマは、不気味に目を見開いた笑顔を顔に貼り付けて頷いた。狂信者って、こういう人のことを言うんだろうか?


「ですから始めたのです。魔王様を勝たせ、この世界を終焉へと導くための策略を!」


 あー、ちょっと見えてきた。


「それで神官廃止ってわけか……」

「その通りです。――私の実家は、経験な信徒の家で、父は村の司祭を務めている聖職者でした。ですので、私自身が神職に就くこと自体は、既定路線のようなものでした。そして――私は幼い頃、神童と呼ばれていました。それは、生前の経験や知識が、大いに役立ってくれたからなのですがね。……ッフフ、魔族の魂を持つ私が神童などと、実に滑稽ではありませんか?」


 こいつ、前世の記憶や知識チートみたいなことまでしてやがったのか!? その経験、私にくれよ!


「月日が経ち、十二歳という最年少で司祭になった私には、神官への道が拓けました。そして、修行をしている中で気づいたわけです。――神官こそが、魔王様を倒す要石。滅ぼさねばならぬ元凶であると」

「ははーん。それで、若き稀代の天才司祭の発言力を利用して、神官廃止を唱えたわけだ」


 私の導き出した結論を聞くと、ドゥラマは嬉しそうに、ゆっくりと手を叩いた。


 もう充分だろう。聞くべき情報は聞いたよね。これだけ証言があれば、罪に問われるなんてこともないだろうし、あとはこいつを倒すだけだ。


 あっと、そうだ。最後に聞いとかなきゃいけないことがあった。


「今代の魔王は、会ったことあるの?」

「いいえ。お声のみです。戴冠式には馳せ参じたかったのですが、人の身でこの歳になりますとそうもいかず。慚愧に堪えませんよ。まったく、下等な人間の体は不便なものです」

「そっか。いろいろと話してくれてありがとう」

「いえいえ。冥土の土産というものですよ。何も知らぬまま死ぬのも可哀想じゃないですか」

 冥土とかあるんだ、異世界。

「そうやって、殺してきた人たちにも全部明かしてたの?」

「それはもちろん。私への信頼が怒りに、怒りが絶望に切り替わっていく顔は、いつ見ても、最高の娯楽ですよ」

「おっけー、分かった。もう喋らなくていいよ……」


 私はポケットに手を入れてスマホを操作し、録音を止めた。

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