私は、自分フィールドのモンスターを、装備魔法カード扱いで装備できる。その11
ベッドに横になった私は、かれこれ三〇分超、なかなか寝付けずにいた。
隣のベッドで横になるヘスティー様のことを思って緊張して眠れないわけではない。……いや、それもちょっとはある。
けれどもそれよりも、別れ際のセレアイラさんの様子が頭から離れない。なぜかは分からない。ただただ気がかりなのだ。
目を瞑って、ゴロゴロと寝返りを打ちながらウンウンとモヤモヤを吐き出していると――
「さっきからどうしたんですか、椿さん?」
床ドンならぬ、ベッドドン――もとい、私に覆い被さるような姿勢で、ヘスティー様が覗き込んできた。そのあんまりの体勢に、夢女子性急性キュン死をするところだった……。
何を言っているのか自分でもよく分からないが、危なかったのだ。
薄着で、私を見下ろしながら、垂れてきた髪を、その細く靱やかな指でかき上げ、耳にかける。その仕草が、一場面が、もう色っぽすぎて、私にはもはや毒に等しい。甘すぎる毒。頭がどうにかなってしまいそうだった。ぷるんとした唇が、妖艶に目に写る。
キ、キキキキキスか!? 目を閉じてキス待ちでもすれば良いのだろうか!?
――パチン!
「椿さん!?」
私は、自分の頬をビンタした。
そういう事を考えている場合ではないのだ、冷静になれ私。
心配する瞳が潤んで、一層美人に拍車をかけるヘスティー様に、私は謝罪した。
「驚かせてすみません。ちょっと、自分に喝を入れないといけなくって……」
「はぁ……そうですか……。それで、さっきからどうしたんですか? 眠れないのなら、添い寝でもしてあげますか?」
そそそそそそそそそ添い寝!? そんなご褒美をいただけるんですか!? いったい、いくら払えば――
じゃない!
甘言に惑わされてはいけない。いや、敵じゃないんだ、ヘスティー様は。そのご提案はいずれ、晴れて恋人になったときにやってもらうとして、今はちゃんと、私のこのモヤモヤを吐き出さなければ。
私はまた両頬を自分の手で叩いて、ヘスティー様に向き直った。ついでに起き上がった。今の体勢は、私には刺激が強すぎるので……。
そうして、私は、胸のモヤモヤを、セレイアイラさんの様子について、ヘスティー様に吐露した。
私の話を黙って聞いてくれたヘスティー様は話を聞き終わると、うーんと唸った。
「お風呂での会話が気になっているのかもしれませんね。やっぱり、冗談でも言っていいことではありませんでした……」
そう言って目を伏せた。
お風呂で言ったこと。
ヘスティー様が、神官廃止についてドゥラマさんが声を上げなかったことに、お偉いさんと取引をしたのではないかといった発言をした、あれだ。
ずっとあれが引っかかっていたのではないだろうかという、ヘスティー様の推測だ。
その場では、形だけでは許しても、心に残り続けるしこりになるってことは間々ある。私の場合は、謝罪すら受けたことないから、全部がしこりどころか傷になってるけど、それは今は置いておく。
とにかくだ。ヘスティー様の発言が、セレイアイラさんにとっての、そういったしこりになってしまったのではないかと、ヘスティー様は後悔しているのだ。
「あのぅ、椿さん、もう一度謝りに行きたいんですけど……ついて来てくれませんか? 一人だと、ちょっと、心細くて……」
消沈したヘスティー様の顔は初めて見たなぁ。落ち込んでも可愛さを全く損ねていない、整った顔立ちに見惚れてしまう。
私は、ヘスティー様からのお願いを二つ返事で快諾した。
手早く着替えて、部屋を出た。なんとなく、短剣も持って来た。そうした方が良い気がしたのだ。
底冷えしそうな寒さの滝の裏を通り、礼拝所へ続く大廊下を横切って、神子魔術師たちが生活する棟へ入る。
セレアイラさんの部屋は覚えていると、ヘスティー様は迷いなく進んでいく。本当に心細いの?
そして、たどり着いた部屋の前で、私は独りごちた。
「よく考えてみれば、もし寝てたら、迷惑なんじゃ――あ」
思ったよりも廊下に響いて、その発言は、ヘスティー様の耳に入ってしまった。
「た、たしかに……。ここまで来ておいて、そっちのことを考えていなかったです……」
もうね、全部私が悪いんだ。私が言わなければ、ヘスティー様も罪悪感抱えて、こげなところまで来ることもなかったわけだし。
やっぱりもう帰って寝よう。謝罪とかはまた明日で――
「ですが、ここまで来たんですから、迷惑は承知で、謝ります! こんな時間に来てしまったことも含めて!」
もはや開き直りである。ヘスティー様、思い切りがいいのである。
言い終わるなり、ヘスティー様は、セレアイラさんの部屋の扉をノックした。
返事は無い。やっぱり寝ているのでは?
もう一度、少し強めに。やはり返事は無かった。
うん。きっとぐっすり眠ってるんだよ。
もう引き返しましょうと、ヘスティー様に声をかけようと口を開いたそのときであった。
「セレアイラさん、入りますね」
この神様、迷いがない。え、鍵とか大丈夫です?
そんな私の心配とは裏腹に、扉はスッと開いた。鍵は掛かっていなかったようだ。というか、鍵穴的な物も見当たらないドアだったと今気付いた。
乙女の部屋に無許可で上がり込む無礼に罪悪感を覚えながら、私たちはセレアイラさんの部屋に入った。――が。
「「え?」」
私たちは顔を見合わせて、首を傾げた。
部屋は、もぬけの殻だったのだ。




