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私は、自分フィールドのモンスターを、装備魔法カード扱いで装備できる。その6

「またどうぞアル〜! ()使い様たち〜!」

 最後に杏仁豆腐と胡麻団子を頼み、甘さで口内を鎮火してから、私たちは神殿に戻った。


 神殿に着くと、神殿長が入り口の前に立っていた。

「神殿長! 申し訳ございません……帰りが遅くなり……」

「いえ、それは良いのです、セレアイラ。お二人の世話をするようにと言ったのは私です。お二人の案内をしていたのであれば、それは貴方の仕事の範疇。門限を遅れた程度で罰することはいたしませんよ」

「……え?」

「戻ってきたときも言った通り、水垢離(みずごり)も不要です。お二人がお帰りになるまで、貴女はお二人に付いていなさい。いいですね?」

「……は、はい……」

 セレアイラさんの声が、やり取りを重ねるごとに、だんだんと沈んでいったのが分かった。

「神殿長さんは、どうしてこちらに?」

 明るい声でヘスティー様が尋ねる。

「私は、先ほど水垢離を終えたところでして。たまたまですよ。今日は報告やら、そのまま会議やらと忙しかったものですから、神事も遅れてしまいました。情けの無いことです。――お二人は、この町を楽しめましたかな? セレアイラに不足はございませんでしたか?」

「はい! とても良くしていただきました! 申し分無しです! ね? 椿さん!」

「え!? あ……は、はい! だ、だいじょびでした……」

 まだ神殿長には慣れてないから、声に緊張が出てしまった。情けの無いことです。

「そうですか。セレアイラ。今後もお二人のことは頼みますよ?」

「……はぃ……」

「では、私はこれで――」

「あの、神殿長……!」

 踵を返そうとした神殿長を、セレアイラさんが呼び止めた。

「なんですか? セレアイラ」

「あの……私……やっぱり、神事を――お務めをしたいのですが……ダメ、でしょうか?」

 そのとき、神殿長の眉間がピクリと動いた気がした。

「セレアイラ――」

 いや、気がしたのではなく、事実だった。セレアイラさんの名前を発した声からは、明確にこれまでの柔和さとはかけ離れた威圧的な感情を感じた。

「――ひっ……」

 その圧に思わず後退るセレアイラさん。

「私は言いましたよ。神事は不要だと」

「し、しかし……ず、ずっと日課だったので……やらないのは違和感がありまして……そ、それに、やはり、神様への崇敬は途絶えさせてはいけないと――」

「セレアイラ――」

 また威圧的な声音で、神殿長はセレアイラさんの名前を呼んで、その話を断ち切った。

「――ひっ!?」

「二度も言わせないでください。貴女は、もう、神事をする必要はありません。よいですね?」

「…………はぃ……申し訳、ございませんでした……」

 ガクリと肩を落として、セレアイラさんはその場にへたり込んだ。

 神殿長は私たちに向き直って、深々と頭を下げた。

「いやいや、これはお二人とも、お見苦しいところをお見せいたしました。大変申し訳ございません。――どうか、今のことはお気になさらず、このままごゆるりとご滞在してください。では改めまして、失礼いたします」

 そうして、崩れ落ちたセレアイラさんを一瞥もせず、神殿長は去って行った。

 私は、神殿長が見えなくなったことを確認してから、セレアイラさんに駆け寄った。


 しかし、どう声をかけたものか。

 大丈夫なワケがないので、「大丈夫?」などと言えるはずがないし、「気にするな」なんてのも無理がある。だって本人はもうとっくに気にしてるわけだし。

 かける言葉を考えあぐねていると、ヘスティー様が私の肩を叩いた。

 そして耳元で囁く。

「今は、そっとしておいてあげましょう?」

 なるほど。そっちの選択肢か。

 しかし、このまま外に放置して行くのは心苦しい。夜と滝の相乗効果でかなり冷えるし、ここ。

 せめて自室にでも戻れないだろうか? そこまで付き添ってあげるくらいなら差し障りないのでは?

「えっと……立てますか? セレアイラさん……。ここは冷えますし、せめて部屋に戻りませんか? 送っていきますよ」

 そう言って覗き込んだセレアイラさんの横顔には、見覚えがあった。


 これは、中学の頃、私以外でいじめられていた男の子が、最後の日にしてた顔だ。凄く悲しそうで、凄く辛そうで、それでも涙はもう出なくって、どうしたら良いか分からない――そんな顔。

 あの時は、私もいじめられていたから、自分のことで精一杯で、何もしてあげられなかった。居なくなってしまった彼に、涙を流してあげることすらも……。


 だから――今、彼女にしてあげなきゃいけないことは、そっとしておくことじゃない。そう、私の直感が働いた。

 あのとき何もしてあげられなかった罪滅ぼしとか、代償行為とか、そういうことを言う人もいるだろうけど、偽善と吐き捨てる人もいるだろうけど、それでも私は、今、セレアイラさんをこのままにしておきたくない。


 ――そう、ただ、一緒にいてあげたい。


 そばに寄り添って居てくれる人がいるだけで、救われる心もあるって、私は信じたいんだ。

 あのとき出来ていれば、結末は変わったかもしれない。でももう遅い。それははるか昔の話だ。でもセレアイラさんは、今ここにいる。そして私は、手を伸ばせる場所にいるのだから……。


 ――だから!


「セレアイラさん、女子会をしましょう!」

「え?」


 ……んん?

 思ってたのと違う提案をしてしまう私がいた。

 言葉選びが下手くそ!

 コミュ障!

 全部が台無し!

 ほら、セレアイラさんまで、困惑してキョトン顔になってるし、「この状況で何言ってんの?」って顔に書いてあるよ!


「うわ〜、楽しそうですね! 女子会!」


 うん。ヘスティー様が楽しみにしてくれるのなら、まぁいいか……。

 と、なぜか私たちは、女子会をするために、セレアイラさんの部屋にお邪魔することになったのだった。どうしてこうなった?

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