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私は、自分フィールドのモンスターを、装備魔法カード扱いで装備できる。その4

『水龍のヒゲ』

 そう看板に書いてあるお店に入った。

 中は中華風の装いで、入った瞬間から町中華的な匂いが漂ってきて、鼻腔から胃袋に問答無用に攻撃を加えてきた。

 こういうので良いんだよ、こういうので……。


 カツンカツン、ジャージャーと、厨房から聞こえる、鍋を振って何かを炒める音をBGMに、席を探す。

 仕事帰りか、酒を煽りながら料理をつついているガタイの良い男のお客さんが多い。とても繁盛している。いい店なのだと思う。

「イラッシャイヨ〜」

 なぜ異世界にこんな衣装が……と思った。

 ケモノ耳でチャイナ服を着た給仕の女の子がやって来た。たぶんこの形は熊の耳……かな?

 それにしても、背が……高い……。

 ヘスティー様よりも頭二つ分くらい。そして、よく見ると、人の顔の横についてるはずの耳が無いから……ひょっとしてその熊耳本物か!?

 ふぇ〜、異世界〜。と、魔法を見たときぶりに実感した。

 言うまでもないけど、彼女も美少女だった。そばかすがチャームポイントの元気っ娘である。


「何名様ネ? って、()使い様じゃナイネ!?」

 やはりセレアイラさんだ。顔が見えないように帽子を被っていても、町の人には知り尽くされている。衣装が唯一無二で目立つというのもあるのだろうけど。

「えっと……三人です。空いてますか?」

「任せるネ!」

 そう言って(きびす)を返したクマ娘は、すでに席についていた男客たちに――

「ホラホラ野郎共! 席を詰めるネ! 水使い様一行が座れないヨ!」

 と、引っ叩いて退かしていった……。その様子を見た私の感想は……パワフル。

 こんなことをして、客から怒られないのかと不安になったけれど、引っ叩かれたお客さんたちは少し嬉しそうにしていたし、それを見ていた周りのお客さんたちも、なんだか羨ましそうに見つめていた。どうやら、()()が行き届いているらしい……。


 客が退いたテーブルを手早く片付けると、ドウゾドウゾと、クマ娘ちゃんが案内してくれた。

「ゴチューモンが決まったら呼ぶがイイネ! 水はセルフサービスネ! ごゆっくり!」


「あ! 私、水持ってきますね!」

 ヘスティー様が水の配膳を名乗り出たが、さすがに神様にそんなことをさせるわけにはいかないと、私たちは立ち上がった。

「私が、やってみたいんですぅ〜!」

 ヘスティー様は、頬をぷくっと膨らませて、私たちの制止を拒んだ。可愛いので私の負けです。と、私は席に座り直した。そんな私を見て、セレアイラさんは困惑していた。


 ヘスティー様は、どこかで給仕の仕事をやったことでもあるのかと思うほど、堂に入った身のこなしで、水を持ってきた。

「凄いです、ヘスティー様! まるでやったことがあるみたいです!」

 私が言うのに、セレアイラさんが横で全力で頷いた。

「そ、そーですかぁ〜? えへへ~。あの給仕さんがやってるのを真似しただけなんですけど〜」

 と、クマ娘ちゃんが酒の注がれたグラスを、片手に何個も持って提供している姿を指差して言った。


 天才……いや、正しく神がここに居た! いや実際神じゃないかというツッコミは野暮だよ、君!

 ほら、心なしか、ヘスティー様が運んできたこの水も、格別に美味しい気がする……やはり神がなさることだ……。

 っと、しみじみと水を啜っていて、すっかり注文を忘れるところだった。お腹はペコちゃんのままなのだ。


 メニューの冊子に目を通す。

 普通に紙が使われているが、そういう細かいところは、今後スルーしていくことにしよう。以前にも、いっぱい私の世界から人が来てたっぽいしね。そういうこともあるんだと受け入れよう。

「あ、ラミネート加工されてますね、これ」

 ヘスティー様、それは指摘しないお約束です。今そうなったんです。と、小声でツッコむと、分かりましたと耳元で囁いてくださった。眼福もとい、耳福である。

 さてさて気を取り直して、異世界の中華風料理店、何があるやら……。


『回鍋肉』

『青椒肉絲』

『麻婆豆腐』

『炒飯』

『餃子』...etc. 


 町中華だった……。

 日本のそこらにある、至って普通の町中華のメニューだった。

 むしろ今じゃ、ノスタルジーすら感じる人も年齢によってはあるかもしれない、そんなバリエーション。

 ツッコみたい。さっきツッコまないと決めた手前、スルーしたいのだけど、許容量というものが人間誰しもあるのですよ……。

 いや、耐えろ私。名前が同じだけで中身は別物かもしれないし、異世界(イセカ)ナライズ的なそういうことになっているのかもしれないし!

 よし、ここは無難に、麻婆豆腐を……。


「カライヨ? シビれるネ。大丈夫?」

 クマ娘ちゃんを呼んで、注文すると、警告を受けた。まさかの四川風って……コト!?

「あ、アト、単品だと量が多いヨ? 定食なら、一人前チョードネ。ドースル?」

 単品だと量も本格中華になるのか……。定食? あ、ホントだ。下の方に定食化ってある。同じ値段でご飯とスープが付くのね。さらに課金するとご飯が炒飯に……。


 白米あるの!? 普通に!?


 いや、チャーハンの時点で気づくべきだったけど!

 いーや! 私はスルーするって決めたんだ! 普通に食事を楽しみますよ!


 ふぅ。と、ひとまず注文を終えて息をついた。水が美味しい。さすが水の町。

 それにしても、食べ物を注文するだけなのに、やけに気疲れした……。

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