こんなに好きになるなんて聞いてない!!
「嫌ばい!あんなデブス!!」
大きな声とともに
【美咲可哀想ー】とクスクス笑う複数人の声が聞こえる。
忘れ物を取りに戻った美咲は教室のドアを開けることができないまま立ち尽くしてしまった。
「デブス…」
消えてしまいそうな小さな声で呟くと同時にポタポタと大粒の涙が溢れた────
教室に入ることが出来ず走り出す。
『嫌ばい!あんなデブス!!』
頭から離れずに思い出す言葉。
よく知っている声
安心する声
私の一番大好きな声…
私の初恋の男の子の声…あれは、慶ちゃんの声だ。
ギュッと胸が締め付けられる────
小6の夏───
私の初恋は終わった。
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ピッピピピピッピピピピッー
「うーっ」
重たい目をなんとか開けスマホを探しアラームを止める
「嫌な夢見たな…。忘れてたのにー」
はぁ…とため息をつきながらベットから起き上がる。
「あれから10年かぁ…思い出しても…へこむな…。」
すっかり忘れていた記憶を夢で思い出してしまい朝からテンションが下がっていくが今日も仕事だ。
重い腰をあげて身支度を始める───
「テンション上げるために…昨日買った新作のワンピースにしよう…。」
クローゼットから買ったばかりのワンピースを取り出して着替える。
全身を鏡でチェックしながらアクセサリーや髪型を決め、最後にワンピースの色に合わせて化粧を整えるー
「よし完璧!いってきます!!」
鏡の自分に笑顔で笑いかけ出勤────
22歳になった私は大好きなアパレルブランドで働いている。
あの失恋した日に聞いた言葉を耳にした時
悔しくて悲しくて苦しくて…
消えてしまいたかった。
帰宅しながら大泣きする私を慰めてくれたのは近所にあるキラキラしたショップのお姉さんだった。
お姉さんは私の話を聞いてくれ、
優しく涙を拭いてくれたあと魔法をかけてくれた。
「もう大丈夫。美咲ちゃんはとっても可愛いかよ!」
お姉さんは私を鏡の前に連れていき
頭を優しく撫でてくれた。
着ていた服も髪飾りも全部同じなのにお姉さんが手を加えただけで印象がガラリと変わった自分がいた。
その日から私はオシャレをするのが楽しくなったと同時にお姉さんみたいに人に魔法をかけたい───。
そう思うようになった。
「朝からやな夢みたおかげで、オシャレを始めたきっかけもおもいだしたなぁ…」
ふと独り言を呟いた
「なになにー?出勤早々どうしたの?」
同期の仁美が顔を覗き込む───
「あっ仁美!昔の嫌な思い出を夢で見ちゃって…新作ワンピで気分高めてたらオシャレを始めたきっかけまで思い出しちゃったなぁって思って」
『あー!それで今日は気合い入ってるんだ!!』
「そんなに気合い入ってる!?」
『かなり!でもめっちゃ可愛いから気合い入れて正解だね!!そうだ!せっかくオシャレしてるんだし、美咲今日の夜、合コン行かない!?』
「えっ合コン…?」
『そう!合コン!美咲可愛いのに全く男性と関わんないじゃん…?初めは男性が苦手なのかと思ってだけどお客さんとは普通に話しているし…なんならよくlameのIDも渡されてるよね??』
「うーん…渡されるけど返事は返したことないし…男性が苦手ってわけじゃないんだけど…仲良くなりたいって気持ちにならなくて。昔から恋バナよりもファッションとかコスメの話の方が楽しかったし…恋をしてる子を可愛くする手伝いの方が楽しかったし…。」
失恋した小6の夏───
あれから私は恋を忘れてしまった。
ドキドキすることもときめくのも男の子ではなくファッションにだけ───。
『もー!もったいないなぁ!こんなに可愛くてオシャレを楽しんでるんだから、恋も楽しもうよ!!よしっ!今日は絶対に連れていく!!美玲の初彼ゲットしに行こー!』
「えっ仁美!?私やっぱり合コンな『いらっしゃいませー』
合コンなんて無理!そう言いかけた時お客様の来店があり仁美は行ってしまった───
「合コンなんて…無理だよ…」
はぁ…っと深いため息をつきながら品出しをしていく
お客様の入店も増える時間帯になり
美咲も接客をしながらバタバタと過ごすうちに憂鬱な気持ちがすっかり消えていた。
「「お疲れ様でした」」
1日の勤務時間が終わり仁美と一緒にお店を出る。
『美咲ー。合コンに行く前にコスメ見に行ってもいい??』
仁美が私の腕を組みながらニコニコと話しかけてくる
「いいんだけど…コスメだけ見に行って合コンはやっぱりやめにしない??」
『ダメ!却下!!!』
プイッと顔を背けながら仁美は合コンの不参加を許してくれない───
『美咲ー。何事も経験だよ!!それに今日…私の気になる佐伯さんが来るの!!美咲にも紹介したいし…』
「仁美が一目惚れしたあの佐伯さん…!!今日くるの!?」
『そうなの!!同じ会社で働いている先輩に頼んで合コンをセッティングしてもらったんだけど…1人じゃ心細いし…』
「なんだ…そういうこと。何が美咲の初彼ゲット!だよ!素直にそう言ってくれればいいのに。」
『違うの!美咲の初彼もゲットしたいのは本当だよ!!ただ自分の恋バナばかりじゃなくて美咲と恋バナしたいし…』
仁美はしゅんっと肩を小さく落として『ごめんね…』
っと呟いた
「やだなぁ…怒ってないよ!!仁美の気になる佐伯さん気になるし!」
『美咲ー!!ありがとう♪今日はお互い頑張ろうねー!』
「えー!私は頑張んないよ…。」
キャッキャはしゃぎ回る仁美を見ながら恋ってそんなにいいものかなぁ…っと思ってしまう。
幼い頃に感じた恋心は悲しくて悔しくい気持ちしか覚えていない…。
私はオシャレ以上になにかを好きになることなんてないと思う───
ぼんやり考えているうちに
気がつけばコスメ選びも終えて合コンの集合場所の居酒屋についていた。
「「かんぱーい」」
「今日はみんな集まってくれてありがとう!じゃぁ、まずは自己紹介…まずは幹事の俺から、小平翔平24歳よろしく!」
『俺は、佐伯拓人翔平と同じ24歳!よろしく』
「次は俺ね!平井勇太23歳!翔平さんの後輩です。よろしくね!」
男性側の自己紹介が終わった所で幹事の小平さんが
「もう1人会社の後輩がくるんだけど、少し遅れるから、先に女の子も自己紹介やっちゃって!」
っと爽やかに笑う。
『じゃあ私から…水木仁美22歳です!翔平さんとは学生時代の部活で一緒でした!よろしくお願いします。』
「私は、鈴木美春22歳です!美咲と同じく翔平さんと学生時代同じ部活で後輩です。よろしくお願いします」
『初めまして。私は美春と同じ会社で働いてる佐久間柚です。年は23です!よろしくお願いします。』
「初めまして…。仁美の同僚の長谷部美咲です。年齢はー『長谷部…美咲?』
自己紹介の途中で名前を呼ばれて声がした方へ目を向けた───。
「おー!思ったより早かったな!所でお前、美咲ちゃんと知り合い?」
翔平さんがスーツ姿で立つ男性へ声をかけた。
『あっ、話遮ってしまってすみません。知り合いと同じ名前でびっくりしてしまって…』
男性は謝りながら私の前の空いている席へ座る
翔平さんが続きを…と場を戻してくれたので挨拶を軽く済ませ、男性へと改めて視線を向ける───
「遅れてすみません。翔平さんの会社の後輩の村上慶一です。年は22歳です」
『えっ…』
「美咲どうかした?」
思わず漏れてしまった声に仁美が不思議そうに声をかけてくる──
「ううん。なんでもない!」
慌てて目の前のグラスを手に取りお酒に口をつける。
村上慶一
その名前を聞いて今朝の夢を思い出す…
(まさか…あの慶ちゃん?私の名前にも反応してたし…いやいや…地元からかなり離れてるし、たまたまお互い知り合いの名前が同じだっただけの無関係…かも!きっとそう!偶然同じ名前なだけ!)
そう思いながらお酒を飲み干した。
「美咲ちゃん、いい飲みっぷりだね!次何頼む?」
翔平さんがメニュー表を差し出してくれた
「あっありがとうございます…じゃぁ…柚サワーで。」
翔平さんはみんなはー?と聞きながらグラスが空いている人の分を注文してくれている───。
「翔平さんって面倒見いいんだね。」
『美咲から男性の話題珍しい!!翔平さんは昔っから面倒見凄くいいんだよねー!いろんな細かいとこまで気づいてくれるの!』
興味でてきた!?っと目をキラキラさせながら仁美が翔平さんについて教えてくれる
「仁美ちゃんも美咲ちゃんも翔平みたいな奴がやっぱ好みー?」
2人で翔平さんの話をしていたせいか、佐伯さんが声をかけてきた。
「そっそんなんじゃありません!私は佐伯さんがタイプです!!!」
一目惚れした佐伯さんに突然話を振られた仁美は
誤解を解きたい気持ちとびっくりした気持ちでつい本音を口走ってしまった
「えっ俺!?まじで?ありがとー!じゃぁ、せっかくだしlame交換しちゃう?」
『えっ?いいんですか!?是非!』
仁美は嬉しそうにキャッキャとはしゃぎながら佐伯さんの元へ行ってしまった。
他のみんなもそれぞれが盛り上がっており、楽しそうだ。
私は1人お酒を楽しもう───
そう思いながらメニュー表を見ようと手に取った時
「あの…長谷部さんはご出身どちらなんですか?」
私の前の席で飲んでいた村上さんが声をかけてきた
「えっ…福岡ですけど…。」
『もしかして…東小…だったりする?』
「えっ?」
ドクンー。
出身校の名前を出されて胸がザワつく
「どうしてそれを…?」
『やっぱり!美咲ちゃんだよね?俺のこと覚えてない?村上慶一!慶ちゃんって昔は呼んでくれてたけど…』
「慶ちゃん」
忘れてたよ。朝夢に見るまでは…
本当にあの慶ちゃんだとは思わなかった。
地元から遠く離れた場所で再開するなんて思わなかった。
忘れたはずの悲しみが胸を締め付ける───
「覚えてるよ…村上くん。久しぶりだね。」
『村上くんかー。そうだよな!もう10年前だもんな。慶ちゃんなんて呼び方しないか!美咲ちゃん中学も一緒かと思っていたけど、1人進学校へ行ったから本当小学校ぶりだよな!』
慶ちゃんは私があの言葉を聞いていたなんて思いもしないんだろうな。
私自身あの言葉を聞くまで慶ちゃんから嫌われているなんて、思いもしなかった。
親同士も仲が良く、小さい頃は家族ぐるみで付き合いのある仲だった。
どこに行くにも慶ちゃんと一緒だった。
そう───
小6の夏までは。
「なんだ!やっぱり2人は知り合いだったのか?」
しみじみと話をする慶ちゃんの横へやってきた翔平さんが話に入ってくる
『そうなんすよ!10年ぶりに会ったんですが、幼馴染なんです。最初名前聞いた時、地元から離れてるし同姓同名かと思ったんですが、本人でビックリしちゃいました!!』
「へー!そんな偶然ってあるんだな。こんな可愛い子と幼馴染で10年ぶりに遠く離れた場所で再会なんて運命じゃねーの!ねっ美咲ちゃん!」
翔平さんは茶化すように慶ちゃんの頭をワシワシ撫でながら私に話を振ってくる
「運命なはずありません!村上くんは私のこと嫌っていたので」
お酒が入っていることもあってついキツく声を上げてしまった。
「えっ…俺が美咲を嫌ってる…?」
慶ちゃんがビックリした顔で私を見つめている
「あっ…ごめんなさい。お酒飲みすぎちゃったみたいです。私今日はこれで失礼します…。仁美ゴメン!先に帰るね…これ私の分」
『美咲!?どうしたの?何が…あっ美咲!?』
仁美にお金を渡して私は急いでお店を後にした
忘れていた感情が込み上げてくる
「夢のせいかな…お酒もいっぱい飲んじゃったから…10年も前のことなのに涙もろくなっちゃったかな」
溢れる涙をぐっと堪えながら歩き続ける
グイッ────
「美咲ちゃんっ」
突然後ろから腕を掴まれて振り返るとそこには慶ちゃんがいた
「村上くん…なんで…?」
『俺が…美咲ちゃんを嫌ってたって何…?』
「痛い…離して!」
『あっ…ごめん…でもきちんと聞きたくて…。もしかして急に目も合わさなくなったり話す機会が減ったのもそのせい…だった?』
「村上くんが一番わかってるんじゃない?私が嫌いだったこと。全然気づかなくてついて回ってたしね…私。だから村上くんの気持ちを知ったとき離れようと思ったの」
『俺の気持ちを知った…?なんの事…?』
「夏休み前の日…教室で笑ってたでしょ!『ドブス』って…。もういいかな?2度と会う事もないし!」
慶ちゃんはショックを受けた顔をしたまま立ち尽くしていたけど私は慶ちゃんを1人残してその場を離れた。
自宅についてスマホを見ると仁美からのlameがきていた
「仁美…ビックリしちゃったよね…。謝らないと…電話の方がいいかな…」
♪〜・♪〜…
『もしもし美咲ー!!大丈夫?急に帰っちゃうからびっくりしちゃったよ…』
「突然ごめんね…嫌な事一気に思い出しちゃって。せっかく佐伯さんと盛り上がってたのに邪魔しちゃったよね…」
『私のことは大丈夫だよ!!lameもゲットできたし…それより、村上くん…だっけ?知り合いだったの?なんか嫌なことされた!?』
「あっ…うん…村上くんとは小学校の同級生で、幼馴染なんだ…。10年ぶりに会ったから最初は全然わかんなかったんだけどね…。」
私は慶ちゃんとの関係から何があったかを仁美に話をした。
仁美は静かに話を聞いてくれた。
『そっか…10年前そんなことがあったんだ…。美咲はそれで恋愛に蓋をしちゃったんだね…。』
「大人気ないよね…。もう10年前の事で、子供の頃の話なのに…。今日夢で思い出すまで私自身もすっかり忘れてたのに…」
『それほど小6の美咲にとって村上くんの存在が大きかったんじゃないかな…。信頼していたからこそ裏切られた気持ちが大きくて…好きだからこそ傷が大きくて…まだ小さかった美咲は村上くんへのやりようのない気持ちに蓋をする事で心を守るしかなかったんだよ…』
「心を守るため…か。オシャレが楽しくていつのまにか忘れたんだと思っていたけど…そうだったのかな…。慶ちゃんへの気持ち…覚えてるのは悲しみと苦しみと悔しいしか思い出さなくて…」
『うーん。今すぐ無理に思い出す必要はないと思うけど…いつかは向き合わないといけない日がくると思うな。美咲が本当の意味で前に進むためには。まぁ…可愛い美咲にドブスなんて言った村上くんむかつくけど!!』
「仁美…。ありがとう!気持ちが凄く軽くなったよ!小6の私は言い返す事もできず泣いて逃げちゃったけど…機会があれば次はきちんと立ち向かってみる!!」
『それでこそ美咲だよ〜!!!ちなみになんだけど…翔平さんからlameがきてて、村上くんが美咲の連絡先を知りたがってるって…美咲が嫌ならキッパリお断りするんだけど…どうする?』
「えっ…村上くんが…?」
『無理はしないでね。美咲の気持ちが大事だから』
「仁美…ありがとう。…うん。教えていいよ!」
『えっいいの?無理してない?』
「うん!大丈夫。もう10年前の事だし…いつまでもひきずりたくないし!仁美、本当にありがとう。」
『美咲…。わかった!じゃあ、教えるね。美咲、がんばれ!』
仁美との電話を終えた数分後、lameに通知がきた
【村上慶一です。いきなりの連絡ごめん、きちんと話がしたくて】
慶ちゃんからのメッセージだ…。
すぐに返事を返すことができずにただただ画面を見つめてしまった。
「返信しなきゃ…」
ふーっと息を吐いて画面をタップする
【話ってなに?】
どう返事をしていいかわからず、冷たい返事になってしまった。
【今から会って話せないかな?】
「えっ!?今から?!」
思わず声を上げてしまう
「会うのは気まずいな…だけどこのまま引きずり続けるのもやだし。うん。決着…?つけよう!」
【わかった】
っと返信をするとすぐ慶ちゃんから自宅付近に来るから住所を教えて欲しいっと連絡がきた。
近くにある公園を指定して慶ちゃんが来るのを待つことになった───
夜の公園は日中と違ってシンッと静まりかえている。
慶ちゃんの気持ちを知る前は良く、家族ぐるみで公園で花火をしたり、お花見に出かけたりしていた。
だけど小6の夏以降私は慶ちゃんを避けた。
学校ではもちろんお互いの家族での集まりにも参加するのをやめた。
あれから10年…まさか今更再会するなんて思いもしなかった
『美咲ちゃんっ』
慶ちゃんが息を切らしながら走ってくる。
「村上くん…」
『こんな時間にゴメン。どうしてもきちんと話したくて。』
「別に…話ってなに?」
どうしていいかわからず、思わず素っ気ない返事をしてしまう
『あっ…うん。さっきの話なんだけどさ…俺が美咲ちゃんにドブスって言ったて…そのことについて…』
「いいよ。10年前の話だし。私も大人気なくてごめんね。」
じゃぁっと立ち去ろうとしたときギュッと慶ちゃんに抱きしめられた。
「はっ…?なに?!ちょっと離してよ!」
『美咲ちゃん!本当にゴメン。小6の夏休み以降から美咲ちゃんが変わってしまって俺…何かしたんかってずっとずっと悩んどった。けど原因がわからんくて。そしたら今まで美咲ちゃんに見向きもせんやった奴らが日に日に可愛くなっていく美咲ちゃんを気にするようになっていって余計に焦って…。今まで気軽に話していたのに話しかけるタイミングがわからんくなって…気がつけば美咲ちゃん、中学は別に進学してしまって…原因がわからんまま今になってしまった。やけん今日、美咲ちゃんに再会したとき本当に嬉しくて…」
「慶ちゃん…嫌って言ったやん…あんなドブスって言ったやん。やけん、離れたのに。やけん忘れたのに。今更なんなん…」
ポロポロと涙が溢れてくる…
あの時の私が泣いている。
子供だった私が言えなかった言葉────
『あの日美咲ちゃんが聞いとるって思わんやった…。美咲ちゃん、俺と仲がいいけんって一部の女子から嫌がらせされよったやろ…?あの日そいつらに呼び出されて告られたんよ…。断ったら美咲ちゃんのせいやろって怒り始めて…俺、美咲ちゃんがいじめられるんじゃないかと思ってつい…』
「えっ…」
慶ちゃんの話を聞いて思い出した。
いじめまではいかないが、確かに小さな嫌がらせはあった。
【男好き】【ぶりっこ!】ってすれ違いざまに小声で言われたりこっちを見ながらクスクス笑われたり…
だけど気にも留めてなかった…慶ちゃんを避けるようになってから嫌がらせもピタッとなくなっていた。
だけどオシャレをし始めてから女の子同士で固まることが増えた事もあって嫌がらせが無くなっていた事に気が付かなかった…。
「慶ちゃんは…私のこと嫌いじゃなかったと…?」
『嫌いやら一度も思ったことない。俺は…美咲がずっと好きやった。離れた後も忘れた事やらない…今も昔も…美咲が好き』
慶ちゃんが顔を真っ赤にしながら思いを伝えてくれている
「慶ちゃんが私を好き…?今も昔も…?私慶ちゃんの気持ちはあの日聞いたのが本音なっちゃんって、思ってすごい悲しかった…辛かった…だって…私も慶ちゃんが大好きやったけん…やけん…忘れなって…離れなって…」
閉じた気持ちの蓋が開いたように
涙が溢れてくる
慶ちゃんへの気持ちが戻ってくる───
あっ…私慶ちゃんが本当に本当に好きだったんだ。
小さい頃から当たり前に隣にいてくれた慶ちゃん
何をするにも一緒だった慶ちゃん
どんどんかっこよくなっていく慶ちゃん
正義感の強い慶ちゃん
みんなに優しい慶ちゃん
忘れていた気持ちが流れ出す───
『美咲も俺のこと好きやった…?俺…嫌われてなかった…?』
慶ちゃんの目にも涙が溜まっている───
「うん。慶ちゃんが好きやった。ううん…私今でも慶ちゃんが好きなんやと思う。だけん、気持ちにずっと蓋をしとったんやと思う…好きで好きで仕方なくて…嫌いになれんけん蓋をすることで逃げてた…」
慶ちゃんは私の言葉を聞いた後すぐにギュッと私を抱きしめた。
離れていた10年の期間を取り戻すように
恋がこんなに幸せなんて知らなかった…
オシャレ以外に好きな気持ちがあるなんて思わなかった
人を…慶ちゃんをこんなに好きになるなんて───
聞いてない…