七話 花見
ソラとハヌルが会ったから、ずいぶん時間が経った。初めて会った隅、公園をピンク色に染めた桜の花が散り始める時期になった。
「桜もそろそろ散りますね」
ソラが上を仰ぎ見た。ある花はもう散って緑の葉っぱが出ている。
「そうですね、そろそろ四月も終わりに向かいますね」
ハヌルもソラについて上を仰ぎ見た。
「桜が全部散る前にお花見したいな」
ソラが独り言を呟いた。これを聞いたハヌルが首を傾げながらソラに顔を向けた。
「お花見・・・ですか」
「はい、李さん、したことありますか」
「ありませんね」
ソラがびっくりして目が大きくなった。
「一度もですか?! 韓国でもしたことありませんか」
「はい、そうですけど。ソラさんはしたことありますか」
ハヌルの衝撃的な返事にソラがハヌルをボーッと見惚れる。ハヌルはソラのそんな反応が理解できなかった。
「お花見ってそんなに楽しいものですか」
「そりゃ当たり前でしょ!」
ソラの大声にハヌルが圧倒された。
ソラは手を顎に当てて何かを悩んでいるふりをした。しばらく後、ソラは笑顔で手を叩いた。
「じゃあ、私と一緒にしましょう、お花見」
「お、お花見をですか?」
「はい」
「・・・・・・」
ハヌルは驚きのあまり、言葉も出なかった。
実はハヌルはお花見が嫌いだった。したことはないけど、テレビやアニメで見たことはあった。レジャーシートを敷いて桜を見ながら一緒に来た人たちと話したり、遊んだり、ハヌルが嫌いなものばかりだった。
そのため、今の誘いもあまり気が進まなかった。これにハヌルはどうしても断ろうとした。
「だが、僕はお花見したこともないし、やり方も知らないんですよ」
「大丈夫ですよ。李さんは何も心配しなくてもいいですよ。準備は全部私がやるから」
「いや、でも」
「明日時間大丈夫ですよね? 日曜日でもないから。明日しましょ」
ソラが期待に満ちた明るい笑顔を浮かべた。それを見ても嫌だときっぱり断るほどハヌルは冷たい人ではなかった。
結局、仕方なくハヌルは承諾の意味で首を縦に振った。
「じゃあ、私は準備のために先に帰りませすよ。また明日会いましょ」
ソラは最後まで明るい笑顔を浮かべたまま、ハヌルに手を振りながら家に帰った。
そして花見の当日になった今、
「李さん〜」
あそこからソラが駆けつける姿がハヌルの視界に入ってきた。両手でバスケットを持ったまま走ってきていた。その元気いっぱいな姿見ると、早くも疲れた気がした。
ソラはハヌルの前に立っだ。
「天気が晴れてよかったですね」
ソラの言う通り今日の天気は花見にちょうど良い天気だった。ソラはいつもより高揚したようだ。
ソラがバスケットからレジャーシートを取り出し、ベンチ前の野原にレジャーシートを敷いた。ソラはレジャーシートに座り、自分の隣を指さして手招きをした。
ハヌルは仕方なく、ソラの要求に従い、ベンチから立ち上がってレジャーシートに向かって歩いた。そして、ハヌルの隣に座った。
「それじゃ、今から楽しいお花見を始めますよ」
ソラが楽しそうに拍手しながら、自ら呼応した。ハヌルはやる気なさそうに小さい声で呼応した。
ソラがバスケットから弁当を取りたした。
「まずはお弁当食べましょ」
ソラが取り出した弁当は一個ではなかった。弁当と水筒まで全部六個だった。
ソラが弁当の蓋を開けた。中にはおにぎりから、唐揚げ、数種類のサンドイッチ、卵焼きなど色々あった。
「もしかして、これ全部ソラさんが作ったんですか」
「そうですよ、李が何が好きかわからなくて、昨日家に帰って色々作ってみたら、量がこんなに多くなりました」
「これを全部・・・
「なかなか大変でした。だからこれ全部残したらダメですよ」
ハヌルが前に広がっている弁当を見下ろす。幸い、今は腹が減っていた。しかし、この量を二人で食べるには流石に多すぎた。これ全部食べたら、お腹いっぱいで明日まではご飯いらないだろう。
でも、昨日から頑張って作ったソラのためにも、残すわけにはいかなかった。一人なら無理かも知れないが、二人ならなんとかなるだろう、とハヌルは思った。しかし、
「ちなみに、私は食べられません」
ソラが信じられないことを言った。突然の衝撃発言にハヌルがびっくりした。
「え、なんで?」
「実は私、明後日撮影があります。それでダイエットしないといけません」
「撮影ってドラマの撮影ですか。しかし前に通話した時、確かに落ちたと」
「あれは確実に落ちました。しかし、何日か前にある番組からリポーターを頼まれて、今はダイエットしています」
ソラが指を立てて真剣な顔をした。
レポーターって役者もできるものか、とハヌルは疑問を抱いた。だが、芸能界はよく知らない分野だったので、ひとまず口をつぐむことにした。
「それゆえに私は食べられませんよ。だから私の分まで李さんが食べでください」
とソラが明るい笑顔で言った。
「でもせっかくのお花見なのに、僕一人だけ食うのは量も多いし、ちょっと寂しいです。だから、ソラさんも少しでも食べてくれませんか」
「言われてみればそうですね。それじゃ」
ソラが箸を取った。そして弁当の隅にあるものを箸で掴んだ。
「私はこのこんにゃくだけ食べます」
ソラはこんにゃくを口に運んだ。その姿にハヌルは一度深く息を吐い、箸を取った。最初は唐揚げを箸で握ってそのまま口に運んだ。その瞬間、うっという声が漏らした。
「どうですか、美味しいですか」
ソラが期待に目を輝かせて尋ねてきた。
「お、美味しいです」
ハヌルが手で口を隠して返事した。ソラは満足そうな笑みを顔に浮かべた。
食べている最中、ソラが咳払いをして声を整えた。
「次に私たちがやることは李さんが大好きなゲームの時間ですよ」
ソラが拍手して雰囲気を盛り上げた。
「でも食べ物が」
ハヌルが箸で弁当を指した。最初よりは量がたいぶ減ったが、多いのは変わりなかった。
「大丈夫ですよ。食べながらやればいいですから」
だが、ソラは全く問題ないというように微笑んだ。ソラがバスケットに手を伸ばして何かを取り出した。
「今度やるゲームは・・・・これっ!」
ソラがハヌルに手を伸ばしてトランプカードを見せた。ハヌルが好きなゲームはこういうのではなかったが、一旦やるしかなかった。
「ちなみに、トランプでどんなゲームをするんですか」
「それは内緒です。まず、これ混ぜてください」
ソラがハヌルにトランプを手渡した。ハヌルがカードを混ぜてまたソラに手渡した。
「さ、私たちがやるゲームはババ抜きです!」
ソラがまあ拍手で雰囲気を盛り上がろうとした。だが、ハヌルは呆気に取られていた。
「ババ抜き・・・ですか?」
「はい」
「僕たち二人で?」
「た確かに」
ソラはここまで考えていなかった。二人でババ抜きなんて、ゲームの進行はできるが、これが面白いかどうかはよくわからなかった。
最初から誰がばばを持っているのか知っている状態で開始するのも問題だが、最初始める際、お互いのペアのカードを捨てるだ気で、ずいぶん時間がかかるはずだった。
「そ、それでも一度やってみましょ。案外面白いかもしれませんから」
とソラは言い、カードを一枚ずつ分けはじめた。ハヌルとソラはペアのカードを捨て、ゲームが始めた。
結果はハヌルの勝ちだった。
「はい、これで終わりですね」
ハヌルが最後の二枚のカードを捨てた。
「やっぱり、二人でババ抜きは面白くないです」
ソラが自分の手に残されているジョーカーを見ながら言った。
「やっぱりそうですよね? だから他のゲームをするのはどうですか。他にはどんなゲームがありますか」
「申し訳ありません、他に用意したゲームはないです」
「え?」
「バスケットにスペースがなかったので、トランプカードしか持ってきませんでした」
ソラがまた頭を下げて謝った。
「大丈夫ですよ。このトランプで他のゲームやれば大丈夫ですから」
ハヌルの言葉にソラが頭を上げた。
「たとえば?」
「うーむ、そうですね、たとえば・・・あ! ワンカードはどうですか。ワンカード知ってますか」
「ルールくらいなら知ってます」
「じゃ、ワンカードやりましょう」
ハヌルがカードをまとめてまた混ぜ始めた。
「五枚と七枚、どっちにしますか」
「うーむ、まずは五枚で」
「わかりました、では」
ハヌルが五枚をソラと自分の前に置いた。そしてハヌルとソラはゲームを始めた。
最初は互いのルールの違いのせいで、ゲームに少し難航があったが、その部分は互いに合意してプレーした。
「今回は僕の勝ちですね」
大体ハブルが勝ったが、
「今回は私の勝ちです」
ソラもたまには勝利した。
こうして、ハヌルとソラは時が経つのも忘れて楽しくワンカードをした。
「はい、僕の勝ちです」
最後のガードを捨てるのに成功したハヌルが言った。
「もー、次は私が勝つから、もう一回しましょう」
ソラがカードをまとめながら言った。
「もう勘弁してください、僕もう疲れました」
「ふーむ、そうですか。ならゲームはここまでにしましょう」
ソラがまとめたカードをバスケットに入れた。そしてソラはポケットから携帯を取り出して時間を確認した。
「え? もう六時なの? 時間はや」
「もう六時ですか。ではそろそろ帰らないといけない時間ですね」
「そうですね、それじゃお花見はここで終わりにします」
こうしてハヌルとソラのお花見が終わった。
その後、ソラとハヌルは後片付けをした。ハヌルは弁当の閉めてソラに手渡した。幸い、一個の唐揚げを除いたら、残さずに全部食べた。ハヌルは弁当に残っされている最後の唐揚げ一個を口に入れた。腹がいっぱいだったせいか、喉が飲み込むのを拒絶したが、何となく飲み込ませた。
しばらく後、ソラがレジャーシートまで畳んでバスケットに入れることで後片付けが終わった。
「今日のお花見どうでしたか」
バスケットを持ったソラがハヌルに感想を聞いた。
「ソラさん、それ知ってますか。実は僕、お花見なんてあまり好きじゃないですよ」
ハヌルが真剣な声でそう言った。ソラには衝撃を与える言葉だった。だが、ハヌルの話はまだ終わっていなかった。
「でも、今日のお花見は凄くいいでした。こんなお花見を経験させてくれてありがとうございます」
ハヌルが少し頭を下げて感謝した。
「いえいえ、むしろこっちらこそ、お付き合ってくださってありがとうございます」
今度はソラが頭を下げて感謝した。
「それじゃ、また明日会いましょ」
と言ってハヌルが手を振った。そして先に帰った。ソラはハヌルの姿が見えなくなるまでじっと立っていた。
数分後、ソラは両手にバスケットを持ったまま、家の玄関のドアの前に立った。ソラはバスケットを地面い置いて、ポケットから鍵を取り出した。ソラは玄関のドアを鍵で開けて、またバスケットを持って家に入った。
「ただいま」
ソラが玄関で靴を抜きながら言った。しかし、家の中からには「おかえり」の言葉がなかった。これにソラは何かおかしいだと思いながら中に入った。
「誰もいないの? 姉さん? 母さん?」
もう一度、声を出してみたが、やっぱり反応はなかった。
「何だ、誰もいないのか」
と思ったソラはとりあえずバスケットを台所に置くためにリビングのドアを開けて中に入った。リビングは電気がつけてないので、暗かった。
「一体みんなどこに行ったんだ」
ソラは電気をつけるために電気スウィッチを押した。
「あと電話をぉ・・・・・・きゃあああああああ!」
ソラはソラの電気がつけたリビングを見て悲鳴を上げた。二人が床に倒れているのがソラの視界に入った。