六話 通話
ハヌルと電話番号を交換した日の夜、パジャマ姿のソラがさっきから携帯をいじっている。
ソラはベッドでゴロゴロしながら携帯の画面に目を離さずにいた。いつかこの暗い画面から通話画面が出るのを待っていた。
「李さん、電話まだかな」
今日の午後、ハヌルに「毎晩、ゲームばかりやるつもりなら、いっそ私に電話しなさい」と言ったので、今ハヌルから電話が来るのを待っている。
「返事は聞けなかったけどさ」
実はハヌルからは確答を聞けなかった。その時のソラには返事を聞く余裕がなかった。その時、ハヌルにそう提案するのが精一杯だった。そして、もし断られたらどうしよう、という思いでソラの頭はいっぱいだった。そのため、ソラはハヌルに言ってすぐ逃げるように家に帰ってきた。
「やっぱ、あの時返事を聞くべきだった」
ソラは後悔した。せめてあの時、ハヌルから肯定か否定かだけでも聞いた方がよかった。そしたら今、こう馬鹿みたいに待っている必要はないのい。
ソラが携帯をつけて時計を見た。画面には十時五十五分と出ていた。
「もう十一時なの?!」
シャワーを浴びたからずっと待っていたから、二時間近く待った。
「本当に来ないのかな、そろそろ寝る時間なのに」
ソラは普段十一時や十二時には寝た。どうりでさっきからずっと目が閉じた。
「今日はもう寝るか、どうせ李さんから電話も来ないみたいし」
ソラが仰向けになった、そして携帯の暗い画面を見る。そう三分ぐらい待ってみたが、やっぱり電話は来なかった。これにソラがため息をついた。
「もう寝よう、いつまでこうしているわけにはいかないから」
結局、ソラは携帯を横のテーブルに置いて部屋の明かりを消した。その後、ソラはまたベットに横になった。
電話なんて来なくても明日会えばいいから、大丈夫だった。
「そういや、明日は何曜日だっけ。今日が土曜日だったから」
ソラがベットからぱっと立ち上がった。
「明日まさか日曜日なの?!」
ソラがハヌルと会ったから二週間〜三週間という時間が経った間、ソラは毎日公園に行ってわかったことが一つあった。それは日曜日にはハヌルが公園に来ないってことだった。理由はソラもわからなかった。
「じゃあ、明日は会えないという訳なの?」
という事実にソラはぱっと目が覚めた。ソラはテーブルに手を伸ばして携帯を握った。
「やっぱり今電話しないと」
ソラは携帯をつけてすぐ連絡先でハヌルの番号うぃ探した。
だが、ソラの連絡先にはハヌルは登録されていなかった。
「一体どういうっ」
その瞬間、ある記憶がソラの脳裏によぎった。
ハヌルの携帯に自分の電話番号を登録したが、自分の携帯にはハヌルの電話番号を登録しなかった。つまり、今ソラの連絡先にはハヌルの電話番号がない。ソラの方から電話をかけられないということだ。
「ああぁー! 私ってバカ、ほーんとバカ!」
ソラが枕に顔を埋めて叫んだ。
「あの時、通話ボタンさえ押してたら」
絶叫に近い叫び声がソラの部屋に響く。
そんな中、突然携帯の着信音が鳴った。部屋を満たされていた叫び声が嘘みたいに消えた。
ソラは慌てて携帯を見た。知らない番号だ。
しかし、ソラはすぐ電話に出た。
「もしもし、誰ですか」
「あ、もしもし、僕ですよ」
携帯向こうの声はソラが知っている声だった。だが、ちょっといじわryしたくなった。
「僕って、誰ですか。私は僕という人は知りません」
「ハヌルですよ、李ハヌル」
「なんだ~、李さんでしたか。すいません、まだ連絡先に登録をしてませんので」
「そうでしたか。じゃあ、今でもやってください」
ソラが思った反応とはずいぶん違ったが、今はそんなのどうでもよかった。
「ところで、何をしていまいしたか」
「うむ、悩んでいました」
ソラが意味のわからない言葉に首を傾げた。
「実は僕、人と電話するのが苦手で、本当に電話してもいいなのかなとさっきまで悩んでいまいした」
「どうしてそんな余計な心配を」
「僕はもともと人との連絡は電話よりメッセージ派ですので、まだ電話かけることに慣れてないません。
「ちなみに、どのくらい悩みましたか」
「うむ、僕がシャワーを浴びたからだから、二時間? いや、三時間? 多分そのくらいだと思います」
「・・・・・・」
「え? もしもし?」
ソラは驚いて開いた口が塞がらなかった。悩んだとしても二十〜三十分ぐらいだと思った。だが、二〜三時間とは思いもよらなかった。
「もしもし、聞こえますか」
「・・・あっ、はい」
やっと正気に戻ったソラが言った。
「ふぅ、よかった。瞬間、電話が切れたと思いました」
「ごめんなさい、ちょっと驚いちゃって」
「はは、大丈夫ですよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
この後、ハヌルとソラの会話が途切れた。ハヌルとソラの間に気まずい沈黙が流れた。お互い何を言えばいいかわからなかった。
ソラはハヌルとの電話を無駄にしたくなかった。そのため、必死に会話のネタを頭の中から探した。
普段、ハヌルと話したかったこととか、聞きたかったことを探した。そんな中、ある一つが頭に浮かんだ。
「李さん、私一つだけ聞いたもいいですか」
「もちろん、いいですよ。何ですか」
幸いハヌルも快く承諾してあげた。ソラは一回深呼吸した後、口を開いた。
「李さんって日曜日の除いて毎日公園に来ますよね?」
「どうしてわかったんですか。はい、日曜日には行きません」
「では、日曜日にはなぜ来ないんですか」
「もしかして聞きたいことってこれでしたか」
「はい、どうしても気になって」
ソラの声は真剣だった。毎週日曜にハヌルがどこへ行って、誰に会うのか、日曜日の公園に一人でいると気になって耐えられなかった。もしかして、女に会いに行くのではないか、とふと不安になったりした。もちろん、ソラがそれで何か言える立場ではなかったが、嫌なのは仕方がなかった。
「もし彼女がいるとか、そういうのではないですよね?」
『はい? いえいえ、彼女なんていませんよ。特に作りたいとも思わないし」
ソラはハヌルに彼女がいないと聞いてひとまず安心した。しかし、ひたすら喜ぶわけにはいかなかった。
彼女を作りたくないって、よく考えるともう彼女のいるかどうかで頭を痛める心配はもうしなくてもいい。しかし、裏返して言えば、ソラ自分自身もハヌルの彼女になれないということだった。
なんとなく泣きたくなった。だが、今泣くわけにはいかないから、必死に堪えた。
そしてハヌルの返事に耳を向けた。
「ま、大したことではありません。日曜日には教会に行かなきゃいかないので、行けなかっただけですよ。その日は朝早く起きなきゃいかないので」
「教会?」
「そういや、僕まだ言ってなかったですね。実は僕キリスト教です。それで毎週日曜日には教会に行っています」
全然知らなかった、ハヌルがキリスト教とは。だから日曜日は公園に来なかったのか。
「ちなみに、ソラさんの宗教は何ですか」
今度はハヌルが尋ねた。
「私は無宗教ですよ。そもそも鎌様っているのかもよくわかりません。あ、もしかしてこれ、キリスト教の人の前で言っちゃダメな言葉でしたか」
「ま、そうかもしれないが、僕は大丈夫ですよ」
ソラが小さく安堵のため息をついた。ハヌルに失礼な言葉ではないかと心配したが幸いだった。
「じゃあ、これからも日曜日には」
「はい、多分行けないと思います。だから、あえてソラさんも公園に来る必要はありません」
「はい?」
ソラは驚いて思わず聞き返した。
「ソラさん、僕に会うために毎日公園に来るんじゃないですか。僕、日曜日は行けないから、ソラさんも」
「そそんなわけないでしょ! 前にも言ったけど、私はあなたじゃなくて、桜を会いに行くだけですよ。そそして、たまに演技の練習しも」
ソラが慌ててとぼけた。すると、ハヌルが笑い出した。
「あはは、冗談ですよ、冗談」
「そそんなの私も知ってますよ。念のために言ったんですよ」
「はいはい」
ハヌルが適当に相槌を打った。
「じゃあ、明日はちょっと寂しいかもしれないけど、一人で過ごしてください」
「もちろんです。私一人でもぉ、ふぁー」
話をしている途中、ソラの口からあくびが出た。ソラが耳から携帯を少し離して時計を見た。もう十一時四十分だった。普段ならもう寝る時間だった。
「ソラさん、もしかして眠いですか」
「いえ、大丈夫です」
大丈夫じゃなかった。寝ようとすればいつでも眠れるほど眠かった。だが、ソラはもっとハヌルと電話したかったので、一所懸命眠気を抑えた。
「もし眠いなら無理せず寝てください。電話はいつでもやればいいから」
「はい、でも本当に大丈夫です」
ソラが両手で両頬を叩いた。少しは目が覚めた。
「そういや、オーディションの結果は出ましたか」
ハヌルが聞いた。
「それを今聞くんですか? 結果はとっくに出たんですよ」
オーディションの結果は今週の月曜日に出た。
「え? そうだったんですね。じゃあ、結果はどうなりましたか」
「・・・・ました」
「はい?」
「落ちました」
「・・・・・・」
結果を言うソラの声はいつもより元気ない。ハヌルは慰めてあげたかったが、どう慰めばいいかわからなかった。
「あ、私なら大丈夫ですよ。もう落ちるのは慣れましたので」
ソラはいつもより元気よく言った。でも、ハヌルはどうしてもソラを慰めてあげたい気持ちに、口を開いた。
「大丈夫ですよ、次もあるから。次はきっともっといい役で受かるから、元気だしてください」
「・・・本当にそうだったらいいですね」
さっきとは違う声でソラが言った。
「李さん、私もう寝ます。そろそろ眠いですね」
ソラがふぁーとあくびをした。
「あ、はい。じゃあ、もう切りますね」
「電話切ったからといって、一晩中ゲームをしちゃダメですよ。李さんも早く寝なさい」
「はいはい、わかりました。じゃあ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
と言うなり電話が切れた。その後、ソラは寝るために携帯を横のテーブルに置いて、ベットに横になった。
だが、すぐ眠られなかった。
Merry christmas!