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二話 練習

「おはいようございます。今日は天気がいいですね」


 昼の公園、今日も相変わらずハヌルがベンチに座って挨拶した。


「そうですね。今日は昨日より晴れですね」


 と言ってソラがハヌルの隣に座り、いつものマスクと帽子を外す。マスクのせいで息苦しかったソラはマスクを外して一度大きく息を吐いた。その後、自分の鞄からある本を取り出した。


「この本は何ですか」


 ハヌルはソラの手の本を尻目に見る。


「これですか。ドラマ台本ですよ」

「台本?」


 ハヌルが首を捻る。少し後、ハヌルが何か思い出したように手を叩く。


「あ、そういや、ソラさんは役者だと言いましたね」

「はい、今度オーディションを受けることになって。これはその作品の台本ですよ」


 ソラが誇らしげにハヌルに台本を見せた。台本には『学校行きたくない日』と書き込まれている。

 実はソラの職業は役者で、多くのドラマや映画などに出演した。中には大ヒットした作品も多いおかげで、日本内では誰でも知っている知名度高い女優になった。しかし、数ヶ月前まで韓国に住んでいたハヌルは女優としてのソラを全然知らない、聞いたこともないはずだ。それゆえ、ハヌルは未だにソラが本当の役者なのかさえ半信半疑だった。


「どうですか、ちょっと役者っぽく見えますか」

「ま、以前よりは?」

「以前よりは? ちょっと、こうやって台本まで見せたのに、そんな返事はひどすぎませんか。自分で言うのもなんですが、私かなり有名な女優なんですよ?!」

「だって僕はまだ直接にテレビでソラさんを見たことがありませんから」

「えっ? 待って、まさか先日私が言った映画とドラマまだ・・・」

「あ、まだ観てないんです。僕はドラマや映画はあまり見ないので」


 ハヌルが少し申し訳なさそうな顔でソラを見る。


「なるべく早いうちに見るようにします。確かタイトルが『世界よ来い!』でしたよね?」

「は!? 何ですか、その聞いたこともないタイトルは。『世界よ来い!』ではなく、『世界の恋』なんですよ」

「ああ、そうでしたよね。そして・・・・・・」


 その後、ハヌルはソラが言ったソラが主演に出る映画とドラマのタイトルを次々言ったが、全部どこか少し変なタイトルだった。ソラはその間違ったタイトルいちいち訂正してくれた。そして「今度は必ず見てなさい。かならず!」と頼み込んだ。


「これ全部わたしが主演に出るもんだから」

「うむ、そっか。わかりました。いつかきっと」


 ソラは「いつか」という単語がとっても耳障りだったが、とりあえず無視することにした。


「ちなみに今回のオーディションはどんな役で受けるんですか」

「・・・ヒック、え?」

「まさか主役なんですか? 本当に凄いですね」

「・・・・・・・んです」


 ソラは俯いて聞こえないほど小さな声で呟いた。


「はい?」


 聞こえなかったハヌルが聞き返した。するとソラは一度深く息を吸い込む。


「助演ですよ、助演! いえ、助演でもないかもしれません。オーディションに落ちたら、エキストラワンに転落するかもしれません」

「え? しかし、ソラさんさっきは本人の口で本人が有名な役者だって、なのにエキストをするんですか」


 ハヌルの悪意ない質問にソラが静かに頷いた。


「それじゃ有名なわけでは」

「いや、有名ですよ。私、街を歩いていると多くの人が一緒に写真撮ってもらえませんか、と声をかけてくるんですよ!」

「僕はそういう光景一度も見たことがないですけど」

「そそれはいつもマスクと帽子で顔を隠しているから」

「しかし、僕といるの時は全部外すじゃないですか。この公園にあまり人が来ないことを考慮しても」

「はいはい、そうです。私は有名じゃないことにしましょ」


 ソラは全てを諦めたように言った。ソラは拗ねた顔で台本の方へ視線を落とす。


「私について何もわからないくせに」


 ソラが小さく呟いた。ソラの呟言の後、ソラとハヌルの間に、静寂が流れた。ソラは台本に夢中しているし、ハヌルは公園の風景をじっと眺める。このように約二十分後、


「あの」


 ハヌルが静寂を破った。ソラが顔を上げてハヌルを見る。


「僕が手伝いましょうか」

「何を、ですか」

「・・・・・・演技を」

「えぇぇえぇ?!」


 ソラがびっくりしてつい声を上げてしまった。

 実は約十分前から、ハヌルはソラをずっと黙って見ていた。

 やっぱりさっきはやりすぎたかな? もし僕のせいで怒ったのでは、とハヌルは不安になり、いても立っても居られなくなった。

 大本に夢中している可能性もあったが、とこか普段とは雰囲気が違った。いつも先に話しかけてくれるソラなのに、さっきからハヌルの方へ目もくれないままずっと黙って台本ばかり見ている。

 どうすればソラの機嫌を直せるか数分間考え込んだ結果、ソラの演技を手伝おう、と結論が出たのだった。


「練習に相手がいない方よりはいる方がいいと思って」

「それはそうですけど、()さん演技できますか」


 ソラが心配そうに聞いた。


「演技はほぼ初めてで上手くできないと思いますが、台詞を読むだけなら」

「・・・・・・」


 ソラから何の反応もない。ただハヌルをじっと見つめる。


「やっぱりダメですよね? 練習の相手もある程度演技できる人じゃないと。邪魔してすみません。お先に失礼します」


 ハヌルがベンチから立ち上がる。足を一歩動こうとした瞬間、後ろから袖を掴むような感じがした。ハヌルが振り返る。袖を掴んでいるソラと目が合った。

 ソラが慌てて目を避ける。


「漢字読めますか」

「え?」

「この台本、漢字が多くて()さんには読みにくいと思って。だだって韓国では漢字使わないと言われて」


 ソラの声がだんだん小さくなった。


「じゃあ、僕が手伝ってもいいですか」

「はい、是非」


 ソラから許可が下りってハヌルはまたベンチに座った。そしてソラの台本を手に取る。


「そういや、韓国が漢字使わないってこと、知っていますね」


 ハヌルが台本をめくりながら言った。ソラがカッとなって反論した。


「私のことばかにするんですか。そのくらい一般常識ですよ」

「だが僕と初めて出会った時は韓国について何も知らなかったんじゃ」

「当然、あれは演技でした」

「いやいや演技というにはリアルすぎた気が」

「演技です」

「でも」

「演技です!」

「・・・・・・」


 ソラがかっと目開いてハヌルを睨んだ。これ以上の反論は受け付けないという意味だった。ハヌルは黙って視線を台本に逸らした。

 実はソラは韓国について何一つも知っていることがなかった。本来、ソラは韓国についてちっとも興味なかった。ただ隣の国ということだけ知っていたのだ。

 そんなソラだったのに、何時かハヌルと出会ってから、ソラはハヌルに関するものは全部知りたかった。

 ハヌルの好みとか好きな食べ物、好きな本など知りたいことがいっぱいできた。

 最初はやっぱりハヌルの国について知ることが先だと思い、生まれて初めて韓国うぃググってみた。それで、韓国が漢字をほぼ使わないことなど色んなことを知るようになった。

 だが、これをハヌルに言えるはずがなかった。だったハヌルのためにここまでやったのをハヌルが知るのは恥ずかしいから。絶対言えない。


「それで台本は読めるとおもいますか」


 さっきよりは柔らかな口調でソラが話を変えた。


「うーむ、全部は無理かもしれないが、大体読めると思います」


 ハヌルが台本をめくりながら言った。


「じゃあ、私の相手役してください」

「分かりました。では」


 ハヌルが大本を台詞を音読する。


「わたしがあなたのことが好きです」

「えっ」

「わたしと付き合ってください」

「・・・・・・」


 突然の告白の台詞にソラの顔色が赤くなった。


「い、()さん?! 急に何を」

「何って、ただ台本を読んだだけなんですよ。早く次の台詞を」

「え? ま待ってください。台本にあんな台詞ありますか?」

「はい、ここに」


 ハヌルが台本のソラに見せる。


「ここ、線が引いてあるところ」


 ハヌルが指で赤い線の部分を示した。ソラの瞳がハヌルの指をついて行った。ハヌルの指先には本当に告白の台詞が書き込まれていた。しかし、


「これ私の台詞じゃないですよ。しかも私が出るシーンでもないですし」


 ハヌルが示した台詞はソラとは全く関係ないシーンだった。


「え? じゃあ、この赤い線は?」


 その赤い線はソラが気に入ったシーンをマーカーで印をつけたのだ。


「すみません。そういや、私がまだ私の配役を教えてないですね」


 ソラが軽く頭を下げて謝った。そうしてソラは自分が出るシーンをハヌルに教えてくれた。


「この台詞から始めてください」

「あ、はい。分かりました。ところでこの漢字はどう読むんですか」

「これは・・・・・・」


 こうして彼らの練習は日が暮れるまで続いた。

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