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十五話 撮影(2)

 そこにいるのはどう見てもハヌルだった。最初は見間違ったじゃないか目を疑ったが、いくら見直してもあの顔はハヌルだった。

 ソラはびっくりして思わずパッと立ち上がった。そして、ソラはすぐハヌルの方に歩き、後ろからハヌルの腕を掴んだ。


()さん、ですよね?」


 ソラの声が少し震えていた。ハヌルが振り返った。


「あ! ソラさん、こんなところで会うとは、予想もしてなかったんです」

「はい、私もです。ところで、なんでここにいるんですか、今日は日曜日じゃ」


 ソラは少し理解できなかった。前に聞いたところでは、ハヌルはキリスト教であり、日曜日ごとに教会に行くと聞いた。

 なのに、日曜日の今日ハヌルは教会じゃなく、自分の前に立っていた。


「ちょっとお昼ごはん食べにきました。このお店美味しいとネットで話題になって一度食べてみたかったんです」


 ハヌルが照れくさそうに笑いながら、後頭部を掻いた。


「だが、どういうわけか入れませんね」


 ハヌルが横の人を指さした。番組のスタッフだった。撮影のために人の出入りを制限したみたいだ。


「ところで、ソラさんはどうしてここにいるんですか、確かに今日撮影があると」

「はい、その撮影のためにここにいるんです。今回のテーマがネットに話題になったお店についてなので」

「え? じゃあ、この」

「はい、私はこのお店に割り当てられて、こう撮影しに来たんです」


 ソラの返事に、やっとハヌルが周りを見回した。前には見えなかったカメラや撮影装置が目に入った。


「じゃあ、ソラさんはこんなに多くのカメラの前に立つんですか。僕にはそんなの絶対無理です、やっぱりソラさんは凄いですね」

「いいえ、全然そうじゃありません」


 ソラが俯いた。


「私、怖くてもうカメラの前に立つことはできなません」


 またカメラの前に立つのが怖かった。またテレビに出て、人々と向き合うのが怖かった。また人たちに悪口を言われると思うと、今にも倒れそうだった。

 人が怖い、人の視線が怖い、多くの人たちの声が怖くて、怖くて、もうカメラの前に立つことができなかった。


「だって、どうせみんなは私のこと嫌いだから、もうカメラの前に立つ仕事などやめる方が」


 ソラが言葉を濁した。言い続けると涙が出そうだった。いや、実はもう目に涙が留まっていた、涙のせいで視界がぼやけていた。

 そんな中、突然ぼやけた視界の中へ手が一つ入ってきた。その手はソラの頬を撫でながら、目の涙を拭ってやった。

 ソラが顔を上げて手の持ち主の顔を見上げた。ハヌルは前にも見たような微笑をしていた。


「また泣くんですか」

「いっ、いえ、違います。これはちょっと目にゴミが入って」


 ソラはびっくりしてハヌルの手を振り切って目を擦った。ソラはこんなに多くの人の前だったので、少し照れかった。また一方では、多くの人の前で堂々とあんなことするハヌルがすごいと思った。


「大丈夫ですよ」


 ハヌルがソラの頭を撫でた。ソラはびっくりして目を丸くしてハヌルを見上げた。すると、ハヌルが笑顔を見せた。


「みんながあなたのことを嫌いなわけではないから」

「でも」

「前にも言った気があるけど、僕はあなたのこと嫌いじゃないですよ」

「・・・・・・」

「前にも言いましたよね。そういう時は自分のことを愛してくれる人といる方がいいだと」


 ソラは無言に首を縦に振った。


「そして、もしそういう人があなたの周りにいないなら、僕がそういう人になってあげるって」


 ハヌルがソラの目を真っ直ぐに見つめた。


「僕があなたのそばにいるから、何の心配もなくまたカメラの前に立ってください」


 ハヌルが柔らかい微笑みを浮かべた。その微笑みをじっと見ると、不思議にも心の闇が消えていくような気がした。この人がそばにいてくれれば、勇気を持って再び撮影に臨めそうな気がした。


「でも、()さんは午後にはまた教会に行かないといけないのでは」

「午前に行ったから、今日だけ午後はさぶることに」

「え? それでも大丈夫ですか」

「はい、大丈夫ですよ」


 ソラは本当に大丈夫なのかわからなかったが、ハヌルがああ言ってくれれて少し安心できた。


「じゃあ、ぜひお願いします」


 ソラがハヌルに頭を下げて頼んだ。ハヌルは「はい」と短く返事した。

 ソラは頭を上げてさっきより明るい顔でハヌルを見つめた。そして、今日の撮影しにきた店を指さした。


「あと、()さん、この店のラーメンが食べたいんですよね」

「はい、そうですけど」

「私がこの店のラーメン奢りますから、この撮影が終わったら一緒に食べましょう」

「じゃ、遠慮なく」


 ソラはハヌルも返事に更に気分がよくなった。早くこの仕事を済ましてハヌルと一緒にラーメン食べたくなった。


「まもなく撮影再開します!」


 そんな中、向こうからスタッフの声が聞こえてきた。


「それじゃ僕はこの辺で待ってい」

「待ってください」


 ソラがどこか行こうとするハヌルの腕を掴んで立ち止めた。


()さんは私の席で待ちなさい」

「え? それでもいいですか」

「いいですよ」


 ソラは片手を上げて大声で「(みお)姉さん〜」と(みお)を呼んだ。すると、向こうから(みお)がソラの方に近づいた


「どうして呼んだの?」

「この人を私の席に連れて行ってくれる?」


 ソラがハヌルを(みお)に見せた。(みお)はいきなり初めて見る人を自分の席に連れて行ってほしいというソラを、怪訝な表情を無言でじっと見た。

 この人は誰だか、どんな関係の人なのか、聞きたいのは多いが、撮影再開まで時間があまり残っていなかったので、そんなの聞く余裕はなかった。それで一旦ソラの言う通りにすることにした。

 (みお)は返事の代わりに無言で首を縦に振り、ハヌルの腕を掴んだ。そして、ハヌルをソラの席に連れて言った。

 ソラは視界から遠ざかるハヌルの姿を見ながら、深呼吸をした。


「よし、今度はきっとうまくできる、うまくできるんだぞ」


 とソラは決意を固めた。そんな中、あるスタッフがソラに「愛田(あいだ)さん、もう時間です。そろそろ戻ってください」と告げて、ソラも自分の位置に行った。ソラは多くのカメラの前に立ち、マイクを持った。

 まだ人は怖かった、街の人々がひそひそ話す気がした。またさっきみたいに嫌な記憶と感情が込み上げるような感じがした。カメラが怖い、人が怖い、人の視線が怖い、自分への悪口が怖い、全てが怖くて怖くて堪らなかった。

 しかし、今は前とは状況が違った。

 ソラは顔を横に向けてハヌルの方に視線を移した。ハヌルが椅子に座ってソラを見据えていた。ソラと目が合ったハヌルは大きく口を開けて何かを言い出した。


「が・ん・ば・って」


 遠くて声は聞こえなかったが、ソラは口の動きで何を言っているのかわかった。すると不思議にもよくなった。さっきみたいな暗い感情は全部どこかに消えたし、なんか勇気が出た、もう大丈夫という感情が心に満たされた。

 ソラはハヌルに「ありがとう」と言い、またカメラを向けて立った。しばらくして、監督の合図を送った。これにソラは頭の中にあるセリフをすらすらと読み進めた。

お待ちいただきありがとうございます。インフルエンザもほとんど治りました。

これからは毎日投稿できるように頑張ります。(流石に日曜日はむりですけど)

とにたく、読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ブックマックの追加と下のポイント評価もしていただけると嬉しいです。(とっても励みになります)

どうぞよろしくお願いします!

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