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十三話 知らない女

 今日もいつもの変わらない普通な日だった。ハヌルはいつものように公園のベンチにじっと座ってぼーっと眺めていた。

 今日だけ変わったことといえば、今日はソラがこないってことだった。

 

「오늘은 좀 심심하네(今日はちょっと退屈だな)」


 ハヌルがため息をついた。

 昔は一人が楽だったのに、今は何となく寂しかった。


「그래도 이렇게 혼자 있는것도 오랜만이네(でも、こう一人でいるのも久々だね)」


 相変わらず、人がいない公園だ。たまに、散歩する人もいるが、とてもたまにだった。

 でも、ハヌルは人がいない方が好きだった。静かで、誰にも邪魔されずにいられるところだから。

 ハヌルは目を瞑って風が音に耳を傾けた。


「……심심하다. 오늘 그냥 빨리 들어갈까(・・・・・・退屈だな。今日は早く帰ろうか)」


 昔は一人でいても退屈とか寂しいではなかったのに、今は退屈すぎてあくびが出そうだった。ハヌルはポッケトから携帯を取り出して画面をつけた。ゲームでもしようか、と一瞬思ったが、すぐやめた。前にやったゲームはもう飽きてしまったし、最近は興味を持ってやるゲームがなかったので、やる気が出なかった。

 それで時刻でも確認した。二時三十二分だった。


「오늘은 빨리 집에 가자. 한 3시쯤에 가야겠다(今日は早く家に帰ろう。三時頃に出発しよう)」


 と言い、また携帯をポッケトに入れた。そして、また公園の風景をぼーっと眺めた。

 約二十分後、ベンチに座っているハヌルにある女が近づいていた。ハヌルは公園の風景に気を取られていたので、自分にある女が近づいていることすら気づかなかった。

 その女はハヌルの前に立ち止まった。


「ここの席、空いてますか」


 女が凄く冷たい声でハヌルに声をかけた。ハヌルは急に知らない女が声をかけてきてびっくりした。

 ハヌルが顔を上げてその女の顔を見上げた。

 黒髪ロングストレートで、冷たい目つき、白い肌の女だった。

 その知らない女がハヌルをじっと見下ろした。


「それで、ここ座ってもいいですか」


 その女がハヌルの隣を指さした。普段、ソラが座る席だった。

 ハヌルは少し悩んだあと、別に問題ないだろうと思って、「座ってもいいです」と返事した。


「ありがとうございます」


 とその女は言い、ハヌルの隣に座った。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ハヌルとその女の間には静寂が流れた。この女と話すことがなかった。あえて話したい気持ちもなかったし、この人とても冷たく見えて話しかけられなかった。結局、ハヌルはずっと口を閉ざしていた。

 そんな中、


「あの」


 その女の方から静寂を破り、先に話をかけてきた。


「もしかして、ライターありますか。もしあったらちょと借りてもいいですか」


 女の問いかけににハヌルが女に顔を向けた。女は手にタバコを持っていた。


「ごめんなさい。僕、タバコ吸わないので、ライター持ってません」

「あ、そうですか。それじゃ」


 と言い女は自分のポケットからライターを取り出した。突然、現れたライターの登場にハヌルの目が丸くなった。

 ライター持っているのに、どうして僕に聞いたんだ?、とハヌルは思った。

 だが、女はそんなハヌルを目もくれずにタバコに火をつけた。そして、携帯を取り出して何かを書き始めた。

 ハヌルは呆気に取られ、その女をぼーっと見つめた。少し後、やっと女が顔を向けた。


「あ、すいません。タバコが嫌なら今すぐ火を消しますから」


 女が口からタバコを離しながら言った。だが、ハヌルが「吸ってもいいです」と言ったので、またタバコを吸った。そして、また携帯に何かを書き込んだ。

 ハヌルが携帯を取り出して時刻を確認した。三時三分だった。さっき帰ろうと思った時間がすぎていた。

 ハヌルがベンチから立ち上がった。


「あら? どこに行くんっですか」


 女がベンチに座ったまま、ハヌルに聞いた。ハヌルが体を向けて返事した。


「あ、もう家に帰ろうと思って。じゃ、僕はお先に失礼っ」

「ダメです。あなたはわたくしの話し相手にならないといけないですから、また座りなさい」

「はい? なぜ僕があなたの話し相手を」

「とりあえず座ってみなさい。どうせ、家に行っても特にやることもないじゃないですか」

「それをあなたがどうやって」

()()()()()


 結局、ハヌルはその女の言う通りにまたベンチに座った。すると、女はタバコ煙を吐いた。そして、またハヌルに話しかけた。


「あなた、この公園にはどうしてくるんですか」

「時間潰しのためです」

「本当にそれだけ? 他の理由はありませんか、例えば好きな人を会うためにくるとか」

「・・・・・・ありません」


 ハヌルの返事に女が静かに「そっか」と呟いた。そういう女に今度はハヌルが女に聞いた。


「なら、あなたはどうしてここにいるんですか」

「ふーむ、わたくしの妹が最近この辺によく来るので、こいつ好きな人でもできたのかと思って一度来てみました」


 女がまたタバコを吸って煙を吐いた。


「多分、あそこのコンビニの前で会うようですか、今日は来なかったみたいです」


 女が公園の入り口の方を指さした。ハヌルはあそこにコンビニがあったかと思ったが、別に興味なかったので、聞き流した。


「それにしても、この公園なかなかいいですね。わたくしまた来てもいいですか、妹の好きな相手も見たいし」


 女が片手でタバコを持ち、ハヌルに顔を向けた。その問いかけにハヌルは簡単に返事できなかった。

 この公園はハヌルのものではなかったので、ここに来るのはハヌルの許可が入らなかった。だから、ハヌルが「ダメです」と言うことはできなかった。


「別に許可などいらないじゃないですか。この公園が僕のものでもないし」

「いいえ、わたくしはまたこのベンチに座ってもいいのかについて聞いてるですよ」

「はい?」

「わたくし、またこのベンチ、この席に座ってもいいですか」

「それはダメです」


 前の問いかけとは裏腹に、ハヌルが即答した。悩む必要がなかった。

 もちろん、このベンチ、この席の所有権はハヌルのものではなかったし、ハヌルが許可を下ろす権利などどこにもなかった。

 だが、ハヌルはどうしてもこの席はソラの席で置いて欲しかった。この席にはソラが座って欲しかった。他の誰かではなく、ソラがここに座って欲しかった。


「この席は、毎日ここに来る人の指定席なんです。そういうわけでこの席はダメです」


 ハヌルがはっきり言った。これに女も諦めたのか、顔を逸らしてタバコを吸った。


「もし、その人って、あなたが好きな人ですか」


 女が今までの会話中、一番真剣な声で言った。これにハヌルは返事を躊躇った。

 しばらくしてハヌルが口を開いた。


「いいえ、ただの・・・知り合いです。好きな人ではないです」

「そうですか」


 と女は相槌を打った。そして、また煙を吐きながら聞いた。


「もしその人のことが好きになったらどうするつもりですか」

「必死に隠します。その想いを必死に殺します。僕、恋愛など絶対したくないので」

「ふーむ、なんか理由でもあるんですか?」

「好きな気持ちが大きくなればなるほど、その人と付き合いたくなるし、もっと大きくなれば結婚までしたくなるんでしょ」


 女が静かに頷いた。ハヌルは真剣な声で話を続けた。


「だが、僕はですね、自身がないです。その人と付き合って結婚までして、その人の人生まで責任を負う自信がないです、その人を幸せにする自信も。だから僕はずっと独身で生きていくつもりです」


 ハヌルの返事に女が小さく「そっか」と呟いた。


「ま、思ったより真面目な理由でしたね」

「そう・・・ですか」

「少なくともわたくしはそう思います」


 と言い女はまた携帯に目を移った。すると、急に女がベンチから立ち上がった。


「わたくしはそろそろ帰ります。この席の主人も来るみたいだから」


 ハヌルが首を捻った。すると、女は公園の入り口の方を指さした。女の指先が指すところにはソラの姿が見えた。


「あれ? ソラさんがなぜ今ここに」


 ハヌルは見間違えたと思って目を擦ってまた見たが、やっぱりそれは紛れもなくソラだった。


「よかった、まだいて」


 ソラはハヌルの前に立ち止まった。まだ状況が理解できなかったハヌルは呆然とソラを見つめていた。ソラがそういうハヌルに手を振った。


「おはいようございます」

「あ、はい。おはいようございます。それにしても、今日の撮影は?」


 昨日、確かに撮影があると聞いたハヌルだった。それで今日は公園に来られないと言ったはずなのに。


「あ、撮影は今日じゃなくて明日だったです。私も勘違いして放送局まで行ってきました」

「公園にはなぜ?」

「帰り途中、まだ()さんいるのかな、一度立ち寄ってみようか、と思って一度寄ってみたんですが、まだいてよかったです」


 ソラが笑顔を浮かべた。そして、いつものようにハヌルの隣に座った。


「そんなことより、何していたんですか」

「あ、突然、知らない人が来て・・・뭐야, 어디갔지(なんだ、どこ行ったんだ?)」


 ハヌルがさっきまで女がいたところに指さしたが、そこには誰もいなかった。ハヌルはちょっと戸惑ったが、ま、もう帰ったのかと思って、探そうとしなかった。


「そんなことより、その人って女でしたか」


 ソラがいつもと違う雰囲気で言った。


「はい、女でした」

「ふぅ〜む、そうですか」


 ソラが冷ややかな目でハヌルをじっと睨んだ。ハヌルは視線に背筋が寒くなる気がした。


「とても楽しかっったでしょうね」


 ソラに今まで聞いたことない冷たい言い方だった。これにハヌルは何か間違っていることを気づいたが、その時はもう遅かった。


******


「ただいま」

「おかえり、どこに行ってきたの」

「この近くの公園にちょっと」

「公園? 珍しいね、(ゆい)姉は公園あまり行かないじゃん」


 ソファーに座っている莉里(りり)が驚いたような表情で(ゆい)を見つめる。


「ま、ちょっと確かめたいことがあってさ」


 (ゆい)は大したことではない風に言った。これに、莉里(りり)もこれ以上詮索せず、ただ「あ、そう」と相槌を打った。

 (ゆい)が水を飲みに台所に行こうと後ろに回った瞬間、


「ちょっと待って」


 と莉里(りり)(ゆい)を呼び止めた。いきなりの呼び声に、(ゆい)は反射的に振り向いた。

 莉里(りり)が怪しげな表情で(ゆい)を睨みつけていた。


「姉さん、まさかタバコ吸ったんじゃないよね?」

「・・・・・・吸ってないよ」


 (ゆい)が顔を逸らした。これに、莉里(りり)(ゆい)に一歩近づいた。


「じゃ、手出してみて」


 莉里(りり)が手を差し出した。早く手を出せという意味だった。

 (ゆい)は素早く手を後ろに隠した。その行動だけですでに返事したのと同じだった。


(ゆい)姉ぇー! タバコは健康に悪いからやめてって言ってたよね!」

「一本だけ吸ったよ、一本だけ」

「もし今一本はセーフと思ってるの?! 一本でもダメ! (ゆい)姉、あたしたちと約束したじゃん! 完全にやめるに」

「そんな約束をしたっけ。わたくし記憶が」

「ゆぅーいぃねえぇー!」


 莉里(りり)が火がついたように怒った。この後、(ゆい)への説教は約二時間続いた。二時間後、(ゆい)はやっと終わったと喜んだが、その喜びはすぐ挫折に変わった。

 莉里(りり)の次の説教者(ソラ)が家に帰ったのだった。莉里(りり)に全ての事情を聞いたソラからの説教がまた二時間以上続いた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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どうぞよろしくお願いします!

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