十二話 家族
唯と莉里に話した翌日、午後の公園、いつものようにハヌルがベンチに座っている。公園の風景もほんとんど変わらなかった。相変わらず人はいないし、前には芝生が広がっていた。
一つ変わったことと言えば、桜が全部散ったことだった。
「ま、もう五月だから」
ハヌルが上を仰いだ。そこにはピンク色の花の代わりに緑の葉っぱが風に揺られていた。
そんな中、遠くから聞き覚えのある足音が聞こえてきた。ハヌルはゆっくり音がした方へ顔を向けた。
「おはいようございます、今日はいつもより少し遅くきましたね」
ハヌルが前に立って息を整えているソラに手を振った。ソラは自然にハヌルの横に座った。
「す、すいません。ちょっと寝坊しちゃって」
「大丈夫ですよ、別に待ち合わせではないですから」
ハヌルが微笑みながら言った。
「昨日、とても疲れたので、早く寝ましたが、目が覚めたら、お昼の十二時でした。本当にすみません」
「いやいやいや、こちらこそごめんなさい」
ハヌルが両手をあげて右左に振った。すると、ソラが首を捻った。
「あら? なんで李さんが謝るんですか。昨日、李さんのせいで疲れたのではないですよ」
「え? 昨日のお花見の準備で疲れたんじゃ」
今度はハヌルが首を捻った。てっきりお花見の準備で疲れたと思った。だって、料理、ゲーム、一人で全部準備したから。
しかし、ソラの返事はそうじゃなかった。
「そんなわけないでしょう。むしろ、お花見の準備は楽しかったんですよ」
ソラが人差し指を立てた。
「じゃあ、他に何があったのですか」
ハヌルが聞いた。すると、ソラが俯いて深いため息をついた。
「それがですね、実は昨日、姉さんと妹にっ、あ、そういや李さん、昨日、私の料理どうでしたか」
「え? あ、それが、お、美味しかったですよ」
ハヌルが苦笑いをした。だが、ソラの目には全然見えなかった。
「やっぱり、姉さんと莉里ちゃんが私の金を狙って嘘をついたんだ」
ソラが手を顎に当てて独り言を言った。これにハヌルが「はい?」と聞いたが、ソラは「いえ、なんでもないです」と誤魔化した。
「それで、昨日何があったんですか」
「あ、そういや、私たちその話していましたよね」
話の途中、ちょっと別の話をしたが、ハヌルのおかげでやっともどの話題に戻った。
ソラが元気ない声で話を口を開いた。
「実は昨日、姉さんと妹にちょっといじめられて、はは・・・」
「え?! いじめといういえば?」
「金取られたり、二人でチーム組んで私だけをいじめたり」
ソラが涙も出ないのに、涙を拭うふりをした。
嘘をついたわけではなかった。実際、昨日ほぼ半強制的にピザをソラの金で払ったし、二人で力を合わせてソラを追い詰めたから、ある程度は真実だった。
「それかなり深刻なことではないですか」
ハヌルが深刻な表情でソラの肩を掴んだ。
「なんで僕にもっと早く言ってくれなかったんですか」
「え・・・・え?!」
ハヌルはソラの言うことをそのまま受け取ったみたいだ。だから、今こう興奮して深刻な表情をしているのだった。
「僕がもっと早く気づいたら、何とか」
「いっ、いえ? 待ってください。李さんが心配するほど深刻な問題ではないから、とりあえず落ち着いてください」
ソラが自分の肩の手を離しながら言った。すると、ハヌルは「あ、そうですか。ごめんなさい」と言い、ソラから手を離した。
「それにしても、ソラさん姉妹がいたんですね。僕はてっきり一人っ子だと思ったんです」
「あ、姉妹じゃないですよ、私たち、兄妹ですよ。姉さんの上にお兄ちゃんがもう一人いますよ。もう結婚して同じ家に住んでいないです」
「え? じゃ、全部で四人なんですか? 兄様と姉様、ソラさん、妹さんまでして」
「そこに母さん、父さんもいるから、全部で六人ですね」
ハヌルが驚いて口が開いた。
「本当に多いですね。僕の家も結構多いと思ったんですけど、ソラさんの家の方がもっと多いです」
「え? 李さんも兄弟とかいますか」
「はい、います」
「へぇ、言ってください、気になりますよ」
ソラがハヌルに目をキラキラさせて顔を突き出した。ハヌルが「近いです」と言い、ソラと少し距離を広げた。これに、ソラが口を尖らせた。
「早く言ってください、李さんの家族」
「あ、はい。僕は妹が二人います」
「へー、そうなんだ。じゃあ、李さんが長男なんですか」
ソラの質問にハヌルがしばらく仰いだ。口から「아, 글고보니 내가 장남이구나(あ! そういや、ぼく、長男なんだ)」と小さく独り言した。
「ま、そういうことになりますね」
ハヌルがソラに顔を向けた。これにソラは頷きながら「なるほど」と小さく呟いた。
「あの」
そんな中、急にハヌルがソラに言った。これにソラは顔を上げてハヌルの目を合わせた。
「ソラさんは兄弟と仲良いですか」
「ふーむ、割といいと思います。もちろん、喧嘩とか言い争いとよくあるけど、ま、でも仲は良いと思います」
ソラが真剣な声で返事した。
「あなたは? 李さんは妹さんたちと仲良いですか」
「僕ですか。僕はそうですね、あまり仲良くないですね」
ハヌルが少し上を見上げながら返事した。そうして、すぐ笑顔でソラに顔を向けた。
「っていうか、最後に会ったのがほぼ二ヶ月ですから」
「え? 二ヶ月前?!」
ソラがびっくりしてつい大声を出してしまった。
「今、一緒に住んでないんですか」
「あ、はい。僕の家族はみんな韓国に住んで、僕だけ日本に住んでいるんです」
「それなら今、李さん一人暮らししてるんですか」
「はい、この近くで一人暮らししています」
ハヌルがあるところを指差したが、ソラはどこを指しているのかわからなかった。
でも、ハヌルがこの近くに住んでいるということは自分の家とあまり遠くないということだった。それともすごく近いのかもしれない。
「それじゃ、あと遊びに行っても」
「ダメです」
ハヌルがきっぱり断った。
「えぇ?! どうして?」
「ダメに決まってるでしょ。女が男一人暮らす部屋に来るのは危険です。だからダメです」
「今、李さん、自分の口で自分は危険な人だと言ってるんじゃ」
「いっ、いや、僕はそういう意味で言ったじゃなくて、だからぁ・・・」
ハヌルが戸惑って言葉がうまく出なかった。ソラはその姿が少し可愛く見えてついふふと笑ってしまった。もういたずらはここまでにしよう、とソラは思い、口を開いた。
「わかってますよ。李さん私のことが心配でああ言ったんですよね?」
「あ、はい、そうです。僕が言いたいことでした」
「ふふ、でも私、李さんは信じるから、いつかきっと家に招待してください」
「うーむ、考えてみます」
確答ではなかったが、それなりに満足のいく返事だった。
自分なりに望む答えを得たソラはベンチから立ち上がった。
「それでは今日は私がお先に失礼します」
「もう帰るんですか」
いつもより早く帰ろうとするソラの姿に、ハヌルが少し呆気に取られた。
「はい、明日、撮影があるので」
「撮影?」
「もう忘れたんですか。昨日、私が言ったじゃないですか。私、ある番組のレポーターになったと。その撮影が明日です」
言われてみるとそう聞いた覚えがあった。昨日花見の時、そのレポーターの撮影のためにダイエットすると聞いたことを思い出した。
「それじゃ、明日はここに来ないんですか」
「多分・・・」
「明日はちょっと寂しくなりますね」
ハヌルが普段より元気ない声で言った。ソラはその姿が可愛すぎて勝手に口角が上がろうとした。必死に堪えたが、そろそろ限界だった。このままじゃハヌルにバレてしまう、と思い、
「これじゃ、私はお先に失礼します。またあしっ、明日じゃなく、また明後日、は日曜日か、じゃ来週会いましょう」
とソラは逸早くお辞儀して逃げるように公園を出た。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ、ブックマックの追加と下のポイント評価もしていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!
あと皆さん、明けましておめでとうございます!




