第1話 「決闘」
「やはり男は使いモノになりませんわね」
美しいブロンドの髪をなびかせながら、俺の目の前に立つ女騎士はレイピアに付着したモンスターの血を振り払った。
その血が俺の顔に飛び散ったが彼女は微塵も気にした様子は見せず、レイピアを鞘に収めると同時に冷ややかな目線を俺に送る。
「貴方、この魔物の死体を片付けておきなさい。幾らグズな男でもそれくらいならできるでしょう?」
「は、はい……」
あまりに高圧的な態度に、俺はなんとか返事を絞り出した。
俺がいるこの村は最近立て続けにモンスターの襲撃にあっており、それに耐えかねた村長が王都の騎士に調査依頼を出したのだ。
辺境の村かつ『とある理由』で期待していなかったが、騎士が派遣されるという知らせが届いた時はそりゃ嬉しかった。
だが喜びも束の間、派遣されてきた騎士は開口一番にこう呟いた。
「……男くさい」
整った顔立ちの女騎士が不快そうに顔を歪ませたあの表情を、俺は生涯忘れられないだろう。
だが彼女の反応は当然だ。
この村はほとんどの女が王都へと出ていっており、残っているのは男しかいない。
これが俺の言った『とある理由』である。
「これで依頼にあった魔物討伐は終了ですわね。サッサと報酬を出していただけるかしら」
まずい。どうやら彼女は依頼内容を勘違いしているようだ。
「あ、あの。騎士様。依頼は魔物襲撃の原因を突き止めることで、討伐では無いのですが……」
「はぁ? だからその原因である魔物をこうして討伐したでしょう」
苛立った様子の女騎士はずいっと俺に歩み寄ると、俺の胸ぐらを掴んだ。
同時に彼女のたわわに実った胸が俺の体に押し当てられる。
だが、怖い。
今の俺にその感触を楽しむ余裕なんか無い。
足なんてもうガックガク。
「い、いえ。魔物自体は俺が何度か倒してるんです。でも奴らは何回も村を襲ってきて……」
「……貴方が? 魔物を?」
ジロリと俺を見る女騎士。
「貴方、名前は?」
「レ、レドリックです」
「そう。ではレドリック。わたくしの名前はご存知かしら?」
こ、この人の名前か。
田舎者の俺は当然騎士には詳しく無いけど、この『フェリアンナ大陸』に住む人間ならば絶対に知っている騎士が6人いる。
その6人の騎士は聖騎士と呼ばれ、最も優れた能力と称号を持ち、この大陸で頂点に立つ6人だ。
その中に確か、ブロンドの髪の騎士がいたハズだ。
『最速の聖騎士』の異名を持ち、名前は確か……。
「ア、アリシア・フォン・ベルヘルム様……?」
瞬間、空気が変わった。
厳密には目の前の女騎士を中心に、ピリついた空気が周囲を支配した。
そして俺はすぐに理解する事となる。
間違いを犯したのだと。
「良いですわレドリック! チンケな能力しか与えられない下等生物の男がどうやって魔物を倒したのか、このトリーシャ!! トリーシャ・フォン・ベルヘルムが確かめて差し上げます!」
「はっ? えっ!?」
怒りの形相を浮かべたトリーシャがレイピアを抜きその剣先を俺へと向ける。
そこには嘘偽りのない殺意が宿っていた。
突然の事態に混乱しながらも、俺は腰に下げていた護身用の剣を引き抜いた。
とはいっても、この決闘の結果は火を見るよりも明らかだ。
『男は女より弱い』
これはこの世界で定められた絶対にして、不変の摂理。
たとえ世界がひっくり返ったとて覆らない、永遠のルール。
天は女の下に、男を創られたのだ。
刹那、トリーシャは音を置き去りにした。
文字通り、彼女は尋常ならざる速さで移動したのだ。
振るわれたレイピアは俺の喉めがけて容赦なく迫る。
きっとトリーシャはその一撃で終わると思ったのだろう。自分より圧倒的に弱者である男を相手に、自身のレイピアが二度も振るわれる事は無い、と。
ガキィン!!
けたたましい金属音と激しく散る火花。
「なっ!?」
「うぐっ!!」
トリーシャは驚愕の、そして俺は必死な色を瞳に浮かべた。
「な、なぜわたくしの攻撃を防いで……!?」
額から汗を流すトリーシャは、生まれて初めて男と剣による鍔迫り合いをしたのだろう。
抵抗する力は余りにか弱く──
「うおぉっ!!」
「きゃあっ!」
──あっさりとその場で膝を着いた。




