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その9 父さんと宿題
お父さんはすごく影響されやすい。
行動の五割は人か本、テレビの受け売りだ。
さっき、同僚は子どもの勉強を見てやってると言い出した。
そんなわけで、私の現国の教科書を手に胸を張っている。
「機械音痴だってこれくらいできるんだぞ」
カラオケでいいとこ無しだったのが悔しかったらしい。お父さんは老眼鏡を指で押して眉間に皺を寄せる。
「で、今やってるのはどこだ」
「三十六ページ。羅生門だよ」
お父さんはうんうん唸りあたまを捻っている。
「ならばおれがひはぎをしようとうらむまじいぞ……なぜこの下人はこのタイミングで皮ハギの話題を」
「知らんよ」
さっきまで釣り番組を見ていたからか。お父さんの勘違いは方向がおかしい。
「ひはぎは追い剥ぎだよ、お父さん」
「なら追い剥ぎと書けばいいだろ」
「私に言うな」
お父さん。気づいてくれ。
教えるどころか邪魔してるということに。