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その6 父さんと身だしなみ
「なんだその寝癖は。ちゃんと直しなさい」
学校に行こうと靴をつっかけたら、お父さんが珍しくまともなことを言い出した。
寝癖放置の私とシャツのボタンをかけちがえた兄さんの前で腕組みして、せつせつと語る。
「父さんの同僚の佐藤さんが言っていたんだ。高校生の息子が金に染めた頭とピアスのままでスーパーのレジ面接にいって落ちたと。いいか、よく聞け。人間どれだけ性格がよくても、結局世の中見た目が……」
話が長いから残り三十分は聞こえないふりした。
兄さんは講釈開始三分で飽きてスマホアプリに興じている。
少なくとも私は、金髪に染めてピアスしてからバイト面接に向かう予定はない。
要点だけ言ってくれないかな。途中四回も同じ話が出てるのに、本人は気づいていない。
今ほど私達兄妹の心がシンクロしたことはないだろう。
――お父さん。ステテコ一枚で説教されても、説得力皆無だよ。