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その17 父さんと手袋
「ただいま~。おーい、母さん。手ぶくろ買っといてくれ」
夕方、お父さんが帰ってくるなり切り出した。
お母さんはフライ返し片手に渋面をつくる。
「ええー、またー?」
「そこをなんとか」
お父さんは両手を擦り合わせて拝み倒す。
「お母さん。またって?」
手ぶくろなんて、一度買えばワンシーズン使えるのに。
しかもお父さんが愛用している手ぶくろは、滑り止めつきでいいお値段のやつだ。
私が聞くと、お母さんはタンスの一番下を引き出して言った。
「見てよこれ。父さんてば仕事中どこかに落としてきちゃうのよ」
「仕方ないだろ。外回りなんだから」
お父さんは言い訳するが、私は引き出しの中を見てお母さんの味方についた。
「仕方なくないよお父さん。もう一〇〇均の使ってなよ!」
理由は単純明快。
引き出しの中はお父さん愛用の手ぶくろ(右手だけ)がたくさんあった。