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その16 父さんとパズル
「う~ん、う~ん、う~ん」
お父さんがちゃぶ台で唸ること一時間。
夕食後、お父さんはずっと一冊の本をにらんでいた。
「おーい、冬が付く四字熟語知らないか。最後のひとつがどうしても埋まらない」
お父さんが開いているのは、兄さんが飽きて放置した懸賞つきパズル本だ。
お父さんは何の気なしにそれを開き、はまってしまった。
鉛筆でこめかみをグリグリして考えている。
兄さんがゲームで二足歩行の猫と狩りをしながら答える。
「今ボスと戦ってんだから黙ってくれ!」
お母さんが健康番組を見ながら答える。
「冬虫夏草じゃない?」
お父さんが笑顔でマスをうめる。
「よし。答えは冬虫夏草だな。このマッサージ機が当たったら皆で使おう」
(冬虫夏草は四字熟語じゃなくて、漢方薬だよ)
私は心のなかだけで突っ込む。
そして何より。
それ、二年前のパズル本だよ。