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その15 わが家のバレンタイン
「いやぁ疲れたな。なにか甘いものが食べたいな」
夕食の時、兄さんが本日十回目の甘いものが欲しい発言をした。
「冷凍庫に買い置きのアイスが残ってるわよ」
お母さんはしなびた大根で作った味噌汁をすすりながら答える。
アイスって、一箱十本入の特売バニラアイスだ。
兄さんが欲しい甘いものはたぶんそれじゃない。
「宿題をみてやろう。わからないところはないか?」
お父さんが皿を流し台に片付けて私のところに来た。
英語の教科書を片手にやる気をみせる。
お父さんと兄さんは、毎年この時期になるとむやみやたらと家事やその他の手伝いしたがり、甘いものを欲しがる。
プライドが邪魔して言えないんだろう。さりげないアピールのつもりなのかもしれないけど露骨すぎてあれだ。
(いっそチョコをくれとはっきりいってくれた方が清清しい)
そう思い、私も二人を尻目に味噌汁をすすった。