孤独なる弓使い(アーチェリー)
えっと、第五弾と言いつつこれが一番はじめに出たお題w
期日に間に合いそうになかったんで、ハイアはぱくりました。はい。すみません;
ジャンル:戦記+冒険
キーワード:隊長 細布 能ある鷹は爪を隠す
標準を定めて、射つ。
一直線に伸びていくあたしの弓矢は標的の頸動脈をしっかりと射抜く。
獲物は数歩そのままの状態で駆けるも、糸が切れたように突然に肢体を傾けて地面へと倒れる。
「やったっ!」
木のしっかりとした枝から飛び降りながら、あたしは仕留めた獲物へと近づいていく。
鬱蒼と木々が生い茂るこの森の中、芝生も弾力がありあたしの体重も優しく受け止めてくれる。
「よっと。これは点数高いな~♪」
鼻歌交じりに巨大なイノシシのような獣を見やって笑みを深める。
「うわっ!?」
突如、地面が震え出して動き出す。
うそ、何、地震!?
あたしは近くの木の幹にしがみついて、大地の揺れが治まるのを待った。地響きは時間が経つにつれて段々と静まり、あたしは安堵の息をひとつ漏らして立ち上がる。
「地震なんて、珍しいな。まあいっか、とっととこれを持って帰って―――!?」
突然、あたしが捕えた獲物が激しく炎上しだした。
「なっ!」
背中に担ぐ矢入れの内一本の矢尻の羽がチリチリと煙を上げる。
攻撃してきたのは、後ろからっ?!
あたしは咄嗟に弓を地面と平行に構え、素早く背中から矢を取り出す。その時間、わずかにしてコンマ数秒……あたしが長年特訓をしてきた早撃ちの賜物だ。ま、隊長の訓練のおかげでもあるけどね。
「おっと、わの獲物に手出すんじゃないぞ?」
右手でスナップを繰り広げ、その先端からボッと炎の残影が浮かび上がる。
「手出したのはあんたの方でしょ! あたしが最初に仕留めたのに、なによ!!」
あたしの視界に移るのは長いローブに身を包んだ長身の男。紅蓮の長髪に、鋭い鳥類のような目……そして、燃え盛る炎のような瞳。
「確かにな。だがしかーし、止めを刺したのはこのわや」
けど外見からは似ても似つかないほどの調子こいていて、それでいておどけた口調。
「何言ってんのよ! 仕留めたのも止め刺したのも、ちゃんと頸動脈射抜いたあたしの技よ!」
「何熱くなってんで?」
「あんたのせいだっての!!」
なんなのよこの男!? 人間じゃなかったら心臓をこの矢でブチ抜いてるのにっ!
「とにかく、そいつから手引いてな?」
「誰がっ!」
あたしの獲物だっつの!
ギリギリと弓の弦が悲鳴を上げていく。それほどまでにあたしの手には力が入ってきていた。
「なら勝負すーか?」
「望むところ!!」
そして瞬時にあたしは矢を放つ。空を裂き、回転までもかかったことにより速度を上げた矢が一直線に男を狙う。
「矢なんて所詮木だがん」
得意げな表情でまたもスナップ。
一瞬にしてあたしの矢は炎上。ポトリと矢先部分が地面へと落ちる。
「っ~~~!!」
あたしは自棄になって、無言で怒鳴り散らしながら五本の矢を射る。
「あたれーーー!」
「増えても同じことや。所詮、木は木……って、なんだ、外れだが。能ある鷹は爪を隠すって言うが、お前の場合猪突猛進やのう」
あたしが射た矢は見事に男から外れて後ろの木々に刺さる。
「うっさいわよ! それに、あんたも同じ都市なんじゃないの?!」
「わ、か? わは都市ハイアだけん」
「……敵? なら、容赦しないわよ! なおさらね!」
やっぱりね……! 聞いたことのない喋り方に、あたしの都市に魔法使いなんてそうそういないし!!
「さっきから全然容赦も何もないような気もすーが?」
「うっさい!」
背中の矢籠から矢を取り出して男目掛けて射出する。
「気性の荒い女やな」
右手をパチンとスナップ。またしても炎があたしの矢は包んで消し炭に変えてしまう。
でも!!
「吹き飛びなさいよ!」
「な!?」
バン!!
前に射た五本の矢の尾に見えないぐらいの透明な糸をつけておいて、その五本の糸に爆薬の入った瓶の取っ手を通してさっきの矢で男目掛けて放つ。
案の定、矢を迎えた男が出した炎で飛来していった爆薬に引火。巨大な爆発を生み出す。
見たか、あたしの隠し仕込み芸!
あたしは勝利の笑みを浮かべつつ、不埒な男に燃やされてしまった獲物の方へと振り返る。
燃えちゃったから仕方ないけど、これでも狩猟祭には十分な獲物だし……早速持って帰ろっ。懐から爆薬の入っている瓶とは違う、青白くて透明な液体の入った瓶をそのまま獲物の上に振りまく。
弓を背中に担いで、帰り仕度をしようと思っていた矢先、背後で声がする。
「よくもやってくれたなー、右手が使いものにならんで」
「あんたの負けよ。とっととどっかいってくんない?」
あの爆発でまだ生きてるっていうの? どんだけなのよ、魔法使いって……。
驚きは隠せないけど、ここでそれを見せたら相手のペースに流されるし。
「そげか……。まあ、いいわ。今日のところはひいとくけん」
「うわぁ、負け犬の遠吠えとはこのことねー。しっし」
男に手の甲を振って追い払いながら、あたしは勝ち取った獣に特殊な液体を投げかける。
「この狩猟祭、勝つのはわ達だけんな」
「誰があんた達みたいな魔法使いに負けるもんですか」
お互いに最後に一言皮肉を交わしあって、男の体は一瞬にして炎上……場所移動の魔法で消えていく。
その時男が見せた意味あり気な笑みはなぜかあたしの頭の中でひっかっかった。
「まったく……それにしてもここの森にまで来るってことは、結構危ないかもね……」
五年に一度行われる国のリーダーを決める狩猟祭……それはこの国に存在する数々の強力な街達による大きな催し。それぞれの街に住む狩猟家が街の外へと赴いてこの国に古くから巣食う怪物達を狩っていく。
人と人との争いに国自体が疲弊して、怪物達に襲われる危険も増していた国の主導権を握る為の戦争はなくなり……どれだけの怪物達を狩猟できたかによる評価でこの国を統括するリーダーを決める。もちろん、狩猟祭に優勝した街のトップが国のリーダーとなる。
この国に存在する五大都市の間には距離があって、ハイアはいうなればあたしの住む都市からは結構近い。
「まったく、人のもん盗みとろうなんてえげつないんだから」
と愚痴をはたいている内に森の奥からもぞもぞとした巨大な蟻のような怪物が現れる。
「よろしくね、キャリー」
勿論キャリー達は無言でカサカサと獲物を噛み刻んであたしの都市へと運んで行く。
とんっと、あたしの膝元をつつくのはキャリーのリーダー格である一回り大きな体と黒ではなく赤い体をしたキャリー。
「あっ、ありがとね。それじゃ都市に戻るまでよろしく~」
あたしはリーダーであるキャリーの背中に乗る。後は他のキャリーの集団と共に都市へと戻るだけ。
明日も頑張るとしましょうか~。
~都市へと戻る~
「うそっ……」
目の前に広がるは想像を絶するほどの光景。
あたしの、家が、皆の家が、都市が……消えてなくなっていた。
ううん、違う。だれかに踏み潰されたように、瓦解していた。
キャリー達も自分達の戻る場所がなくなっていて、右往左往と都市のゲート前で往生している。
誰がこんなこと……。
決して小さな都市じゃない。人口もこの国の五大都市といわれるほどのものなのに……こんな、たったの数時間の間で豹変するはずがないのに。
家も建物もペッタンコに潰されて、辛くも街道だけは判別することができる。
あたしはふらふらとなった足取りで自分の家へと続く道を辿って行く。
見渡す限りの瓦礫。
ところどころから上がる黒煙が、そして臭いが、この出来事がついさっき行われたものだと物語っている。
なんで、なんで、なんで?
背負っている弓矢がカチャカチャと歩くたびに鳴り、あたしが踏む家屋の破片と交わりながら耳へと届く。
そして、なにより奇妙なのは……人っ子一人、見当たらないこと………。
一体何が起きたのか、一体皆がどこへ行ったのか。
そして何より、誰がこんなことをしたのか。
そんな自問を繰り返しても、状況も何もわからない。
なんとか自分の家だと検討がついた場所に立ち止まり、二つに折れた木の扉をどかす。でもその先に玄関など無く、足元にあるのは屋上の瓦だった破片ばかり。あたしの部屋も、親の寝室も、台所も、跡形もなく潰されていた。
見渡せば、瓦礫の山が続くあたしの街……。そして周りには自然の要塞といわれるほどの森が囲んでいる。
「!?」
そこであたしは見た。
都市の南ゲートから一直線に巨大な轍のようなものが続いているのを。
あたし達の国は五つの都市それぞれが孤立しているけれど、ちゃんとどの都市への通行集団は確保されている。
そしてあの道が続く先にあるのは、さっき戦った男のいる魔法使いが住む魔法都市ハイア。
「まさか、あいつが……?」
狩猟祭は国のリーダーを決めるという大事な行事。それで、狩った魔物の量と質とで競う競技……。こんな都市を破壊して許されるはずないのに………。
考えていても、始まらなかった。
あたしにできること。それは皆を探し出すこと……そのためには、ハイアを目指すしかない。
自分の部屋から、いつも枕下に置いていた細布の縫物を見つけ出す。
お母さん……。
昔、お母さんが編んでくれたお守り。良い夢が見れますようにという願いのこめられた、そのお守りをあたしは強く抱きしめて、ベルトのポケットにしまう。
もう一度、自分を育ててくれた都市を見渡してあたしは強く誓う。
絶対に皆を見つけ出して、街を再興する。
ここから、あたしの一人の旅が始まった。
※中略※
主人公は都市ハイアへと赴き、自分の都市が、ハイアが秘密裏に生み出していた魔法による召喚獣によって壊されたことを知る。
そしてハイアの首領へと直々に面会を願うも門前払い。怒りを抑えきれない彼女の前に、自分と戦った紅蓮色の髪をした魔法使いと再会し、戦闘へと突入する。
今回は主人公がコテンパンにやられ、男はシモンと名乗り姿を消す。
主人公はいざこざを起こしたため、都市ハイアからも追放。魔物達がはこびる森の中で、主人公は白銀の体毛を持つ魔獣と遭遇する。魔獣は意図的に主人公を先導して、見たことのないような湖畔へと連れていく。
月光が波間を照らす幻想的な湖で、主人公は湖の底に眠る巨大な怪物をみつける。
そう、それはハイアが作り出した召喚獣であった。
召喚されたはいいものの、その巨大な体を隠す場所に困ったハイアの魔法使い達は主人公が眺めている湖にその召喚獣を隠したのだ。
主人公は導いてくれた白銀の獣の力を借りて、召喚獣の眉間を貫通する矢を放つ。召喚獣は死に、主人公はその魔獣の存在を武器に他の都市へと回り掛け合ってハイアの地位を陥れる。
ハイアは狩猟祭を利用した、召喚獣を用いての他の都市の壊滅を企てていた。その第一標的として狙われたのが主人公の都市であった。
ハイアの秘密を暴露した功績により、ハイアが主人公の都市の人々を誘拐して人体実験に用いていたことも発覚。ハイアの体制は瓦解。都市の人間も解放される。
そしてその時、主人公は人体実験の全権を担っていた紅蓮の髪の男と三度対決。白銀の獣やこれまでの旅で培ってきた実力で主人公は男に勝利する。
主人公は自分達の壊された都市の再興に取り掛かり、都市が以前にも増して活気を取り戻したころに自分の道場を設立。そこの師範大として子供達に弓矢の使い方を教えつつ、都市の防衛隊隊長としてもその実力をふるった。
その後、狩猟祭自体のルールは残ったが、他の都市がハイアのような企みをしないようにそれぞれの都市に監視を置くことになった。
そして人々は国に住みついた魔物達と日々闘争しながらも、活気溢れんばかりの日常を過ごすこととなる。
めでたし、めでたし。