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空 黎明  作者: 甲斐 雫
2/4

2 腐食性毒物と拉致監禁

 洗面所で空の吐瀉物を見た瞬間、博はスマホを取り出した。

「直ぐ救急車を・・・」

 しかし博の言葉は、服を引っ張る空の行動で遮られた。

 (・・・大丈夫です。その必要はありません)

 動作で示す空だが、顔は洗面台に向けたまま嘔吐を続けている。

 博は考えた挙句、スマホをポケットに戻した。


 毒物に関しては、自分より彼女の方がはるかに詳しい。捜査官になるまでは、FOIの研究室で毒物関係の仕事をしていたのだから。空が救急車の必要は無いと判断したのなら、そうするしかない。おそらく彼女は、開局前の大事な時に、これが不祥事になりかねないとも思ったのだろう。

 ひとしきり吐いた後1度だけ水で口を漱ぎ、空は両手を洗面台の縁に掛けたまま床に座り込んだ。目をギュッと閉じ、辛そうに眉を寄せている。博は彼女の身体を抱え上げてリビングに戻った。

 異変に驚いたビートが止まり木でバタバタ翼を動かしているが、邪魔をしてはいけないと判断したらしく声は出さない。

 リビングスペースのソファーに空の身体を横たえ、様子を窺う。唇に着いた血と、額に浮かぶ汗。博は洗面所からタオルを取って来て、ソファーの傍に膝をついた。拭いてやろうと伸ばした手は、けれど彼女の手に捕まる。空は彼の手を裏返し、掌に文字を書き始めた。


「ふしょくせいのどくぶつです すぐにはきだしたので・・・」

 腐食性の毒物が、ビールに混入されていた。直ぐに吐き出したけれど、口の中と食道に少し流れ込んでしまったので損傷がおきている。空は、そう伝えてくる。

「医務室はまだ機能していないから、薬も持って来れませんね。どうすれば良いですか?」

 意識して落ち着こうと努力する博の言葉に、空はまた指で伝えてくる。

「いえきでできるだけあらいだしたので あとはこのまま・・・」

 腐食性毒物は、その味から強アルカリだったのではないかと思われる。それによって、口内と食道の粘膜が剥がれ落ちたのだ。粘膜下の組織もダメージを受けて出血した。けれど、時間はかかるが粘膜は再生するだろうし血も止まる。薬の類が使えないならこのまま安静にしておくのが一番良い。

 この系統の毒物は、処置が早ければ命にかかわることはない。飲んで放置すれば、消化器官に穴が開くこともあるけれど。

「痛むのでしょう?その状態で、胃液が触れたのですから」

 空の指が止まった。

「こういう時は、正直に答えるものです。心配を掛けたくないなんて、思わないでください」

(・・・はい かなり)

 空は指を動かしながら、微かに苦笑めいたものを頬に浮かべた。

 博はもう一度タオルを手に取ると、そっと彼女の額と唇を拭った。


 その後1回、口の中に溜まった血と粘膜を吐き出したが、空は大人しくソファーに横になっている。

 6時間もすれば、少しなら話もできるようになると思う。24時間は飲食しない方が良いです。

 もう一度博の掌に、そう伝えた空は時間経過で回復させるつもりのようだ。


 しばらくして真と小夜子が帰ってきた。警視庁やら関係各所への挨拶回りのようなものだったが、外はかなり暑かったらしい。

「ただいま~~」

「帰ったぜ、うぉ~アッチい。まだ6月なのに、もう真夏かよ」

 特に口喧嘩も無く無事仕事を終えてきたらしい二人だが、リビングスペースに足を踏み入れた途端、その状況に固まってしまった。

「何があった!」

 室内にはビールと血の匂いが漂い、床にはグラスが2個転がりテーブルにはビール瓶。床もテーブルも、零れたビールが散っている。

 そしてソファーに横たわる空と、その傍に座って心配そうに彼女の顔を覗き込んでいる博の姿。

「どうしたの、これ?」

 その場に立ち尽くす2人に、博は立ち上がって説明を始めた。


 詳細を話し終えると、博はきっぱりと言う。

「開局前とはいえ、これははっきりとした事件です。直ちに捜査を開始します」

 頷く真と小夜子、そしてソファーから視線を寄こしていた空も、しっかりと頷いた。


「ビールに毒、か・・・瓶ビールに入れられるのか?」

 真が素朴な疑問を口にする。王冠を栓抜きなどで外せば、元通りに栓をするのは難しいだろう。王冠は容易く変形するはずなのだから。

「可能ですよ。例えば、最初からビールを2本用意しておいて、片方は瓶自体を壊して王冠を無傷な状態で確保します。そして、残った方のビールを普通に開けて毒を入れ、すぐに無傷の王冠をセットすれば出来上がりです。打栓機を使えば王冠は誰にでも栓ができます。打栓機は通販でも買える物ですから」

 缶ビールよりも、混入は容易だろうと博は言う。しかもビール瓶には濃い目の色がついているので、中身の変化には気づきにくい。低温下で作業を行えば発泡も抑えられるので 飲むときに栓を抜いても気づかないだろう。

「無味無臭でビールの成分と反応しない毒物だと考えられます。しかも開局前にここに仕掛けられたわけですから、明らかにこちらに対する害意があります」

 博はソファーに視線を投げて、話を続ける。

「まさかこんな時にこんな所で、とも思いますが、油断があったかもしれません。とにかく、捜査を始めましょう。真、全ての部屋の冷蔵庫から瓶飲料を全部集めてきてください。小夜子、下の貿易会社に行ってビールなど全ての食品を搬入した業者と納品日を確認してください。まだ業務は正式に始まってはいませんが、誰が必ずいる筈ですから」


 下の貿易会社とは、このビルの2階から4階までを占めるFOIの下部組織が運営している会社だ。ある意味、表向きはそうだというダミー会社に近い。社員の殆どがFOIから派遣されたスタッフで、5階から上のフロアの雑用も担っている。掃除、洗濯、機械類のメンテナンスに捜査官の専用車の整備まで行うのだ。当然、搬入される物資もここが管理している。

 真と小夜子は、早速部屋を飛び出していった。


 しばらくして真が、台車にケースを乗せて戻ってくる。ビール瓶ケース2個分の瓶飲料は、全部でもこの程度だった。ひと通りザっと調べたが、毒物が混入しているかどうかは、それだけでは当然解らない。

「真、これらを全部下の貿易会社に運んで、本部の研究室(ラボ)に送ってもらって下さい。調べてもらうよう連絡を入れておきます。こっちの研究室(ラボ)はまだ完全には設備が整っていませんし、管理者は動けませんから」

 博はその気になれば動き出すだろう空に聞こえないよう、小声で真に伝える。

 台車を押して部屋を出る真と入れ違いに、小夜子が戻ってきた。


「搬入業者が解りました。FOIの認可を受けている会社で、こちらの方から注文した形です。ただ下にいたスタッフによると、開局したらスタッフが地下の駐車場に受け取りに行くことになっているそうですが、開局前で人手が足りないので 業者に2階まで運んでもらったそうです。業者は1人で、何回か往復して運び上げていました。業者が運んでいる間、ケースを誰も見ていない時間があると思いますので、駐車場の監視カメラを確認したいと思います」

 テキパキと報告する小夜子は、やはり博が適格だと判断した人材だった。博はただ、お願いしますとだけ答える。


 ここのチームに、指示待ち人間は要らない。博はそう思う。

 人数が少ないチームで、全ての仕事をこなさなければならないのだ。命令順位は存在するが、特に問題が無ければそれぞれが判断して仕事を進めてくれて良い。何か問題が起きれば、その責任をとるのが自分の役目だと考えている。

 真も小夜子も、それが出来る人材だからスカウトしたのだ。

 指示待ち傾向があるのは、寧ろ空かもしれない。FOI本部でみっちり仕込まれている彼女は、上司の命令が無ければ基本的に動かないのだ。けれど博は、今はその方が良いと思っていた。自分に対する関心が全くない彼女が自由意思で行動したら、簡単に命を投げ出しそうな気がするのだ。

 いずれは、ここで生活するうちに変わってくるのだろうが、それまではこのままで良い、と。


 やがて真もメインルームに戻ってくる。小夜子がPCから顔を上げて報告した。

「業者がケースから目を離した時、1人の人物が近づいているのが解りました。軽トラが停まっていて、そこから降りてきています。紺のブルゾンを着た20代くらいの男性に見えます」

 駐車場のゲートはメインコンピューターケトルが管理するのだが、納品日はケトルが仕事を始める前だった、と博は思い出した。

「そうすっと、そいつが怪しいな。小夜子、軽トラのナンバーは解るか?」

 小夜子は何とかナンバーを読み取る。

「真、小夜子。警視庁に行ってそちらのデータバンクを使わせてもらってください。こちらはまだ準備不足なので」

 こういう時、嘱託捜査官であることは都合が良い。二人は刑事の身分を使うことにして、早速部屋を出て行った。


 真と小夜子が出ていくと、ビートが飛んできてソファーの背もたれにとまった。

 《 ソラ ダイジョーブ? 》

 首を傾げて顔を覗き込む。ヨウムには人間の5歳児程度の知能があるが、ビートはその中でも相当に賢いのだろう。

 空は手を伸ばしてビートの頭を撫でながら、笑おうとして顔を顰めた。やはりまだ、口の中が痛むのだろう。けれど大分状態は回復したようで、ソファーから起き上がった。

「空、起きて大丈夫ですか?」

 気づいた博がやって来て、心配そうに問いかける。空は微かに笑みを浮かべて答えた。

「はい・・・痛みは・・コントロールできる・・・程度になってますし・・・話も出来ると思います」

 意識してゆっくりと話す空だが、やはりまだ話しにくいと見える。けれど口と食道以外は、特に異常が無いので寝ている必要は無いと判断したのだろう。

 2人は、そのまま真と小夜子の報告を待った。


 やがて警視庁に行った2人から連絡が入った。車のナンバーからある食品会社が特定できたので、業務時間が終わらないうちにそっちに回る、という報告だった。

 そして、次に入った連絡は20時ごろ。小夜子のスマホからだった。


『らちふたりとも』

 それだけの文字で示された画面を音声で確認した博は、空に向かって眉を顰めて告げた。

「真と小夜子が拉致されたようです」

 まだ4人しか揃っていないメンバーの半分が、行動不能になってしまった。

 立て続けに起こった事件。誰が何のために?

 けれど、博は急いで今後の行動を考える。拉致された二人は刑事でもあるのだから、ここは・・・

「警視庁に応援を頼みます」



 真の運転する車で二人が食品会社に着いた時、門の前に停車する1台の軽トラを発見した。先に車から降りた小夜子が近づいていくと、門の陰に隠れていた男が3人、あっという間に飛びかかって来て自由を奪われる。それに気づいた真が急ぎ車から飛び出すと、待っていたかのように軽トラの陰から更に3人の男が飛び掛ってきたのだ。

 先に掴まった小夜子を人質に取られた形で、2人は拘束されて軽トラの荷台に放り込まれた。細いロープで縛られ、眼と口にはガムテープ。その中で何とか小夜子がスマホに手を伸ばし、めくら打ちで連絡を送った。


 博の連絡で、警視庁は騒然となった。真と小夜子の元職場でもあったし、古い付き合いの刑事も多い。しかし流石に刑事が二人も拉致されたとなると外聞が悪いので、密かに、けれど迅速に捜査は始められる。博と空は、警視庁からの連絡を待ちながら、出来る限りの情報を集める。その合間に空は、何時でも出られるように出動の準備を済ませた。

 やがて明け方、まんじりともせずに待っていた2人に、漸く連絡が入る。

 真夜中の人海戦術で、何とか軽トラの逃走経路が判明し、二人は郊外の使われていない倉庫に監禁されているらしいということだった。刑事たち数名が、既にそちらに向かっているという。

「空、直ぐに出動します」

了解(ラジャー)、ビートも連れて行きます」

 2人は急いで駐車場に向かった。


 まだ捜査官専用の車が納車されていないので、今回はそれまで使用できるよう用意してあったレンタカーだ。初めての日本の道路を、けれど危なげなく運転する空だが、顔色は良くない。

 アイカメラの音声でそれを知る博だが、それも仕方がないと思う。

(昨日の午後毒物のダメージを受けて、少し回復したら貫徹ですから・・・)

 けれど、今回ばかりはどうしようもない。博1人では、直ぐに現場に行くことさえ難しいし、真と小夜子は大切な仲間なのだから。


 ダークグレーのレンタカーが指示された場所に着くと、そこには刑事たち数名が来ていた。倉庫の周辺は空き地になっていて、見通しは良いが近づくのは難しい。彼らは倉庫内から見えない場所に、簡単な捜査本部を設置していた。

 1人の男が、車から降りた博に近づいてくる。

「橋本大吾警部補です。連絡は貰っています」

 ブスッとした顔つきは、どうやら博たちを歓迎していないようだ。眼鏡をかけ、やや太り気味の警部補は、それだけを言うと不機嫌そうに黙っている。

 つい先日、こちらの敏腕刑事2人をFOIに引き抜かれたという腹立たしさが表に出ているようだ。

「では、今から現場の指揮は僕がとります。案内してください」

 挨拶は後回しで早速行動に入る博に、橋本警部補は更にむかついたが、FOI支局長の身分は警部補のそれより高い。不承不承ではあるが、橋本は博を刑事たちの元へ連れて行った。

「もう少ししたら、応援が来ます。内部突入のための警官隊と、念のために救急車とSATも」

 橋本の説明を聞きながら、博は少し離れた場所で 折りたたみ椅子に腰かけて膝のノートパソコンを操作している女性に気づいていた。

「応援が到着しても、待機でお願いします。・・・ところで、そちらは特別捜査官の田所春香さんではありませんか?」

 いきなり声を掛けられた女性は驚いて顔を上げた。20代の、可愛らしいが真面目そうな女性だ。

「・・・はい、そうです。あの、もしかしたら」

「はい、FOIの高木です。辞令が来ていると思うのですが」

 田所春香特別捜査官のところに、本日付で辞令が降りていた。FOI嘱託捜査官の辞令だ。けれど、昨晩からずっと刑事2人の拉致監禁事件に加わっていたので、辞令は見たが返事はしていない。

 春香は真と小夜子の学生時代の後輩にあたり、プライベートでも付き合いがあった。そんな2人が揃って移動してしまい、寂しく思っていたところである。

「とりあえずその返事は後程伺います。現場の状況を解る範囲で僕たちに教えてください」

 博の言葉に、春香はノートパソコンをこちらに向けて倉庫内の見取り図を示す。

「軽トラは、表門の中に入っているようです。中の人数は不明、こちらからの突入経路を探しているところです」

 博は少し離れた場所からノートパソコンをの画面を見ていた空に、声をかける。

「空、準備をしてください」

 空は小型カメラをビートの足に着け、灰色の鳥を空に放つ。

 そして博は、やっと空の存在に気付いて少し呆けている警部補にも告げる。

「橋本警部補、彼女はうちの専任捜査官です。今から内部に潜入してもらいます」

 そして田所特別捜査官に、小型カメラとインカムの同期を頼んだ。情報共有のためである。空にインカムを渡し、一方通行で構わないから報告を入れるよう命じる。空は黒いTシャツの襟もとにそれを付け、ウィップと拳銃を装備した。

 やがてビートが倉庫の周りを一周して戻ってくる。空は映像を確認し、博の前に立った。

「潜入、開始します」

 敬礼をして、空はその場から走り出す。

 その後ろ姿をAIの音声で聞きながら、博は気を付けてと心の中で呟いた。


 空は倉庫を真っすぐに見据えながら、徐々にスピードを上げて走る。ビートから得た映像で、侵入経路は決まっていた。倉庫を囲む塀の手前に立つ1本の欅、その枝に空のウィップが飛ぶ。次の瞬間、空の身体は宙を飛んで、塀の上に降り立つ。そして直ぐに塀を蹴って倉庫の屋根に飛び移った。

 遠くから双眼鏡で見ていた警部補は、その動きに息を呑む。FOIの専任捜査官とは、こうも凄いものなのか、と。速さもさることながら、流れるような動きが美しいとさえ感じていた。


『南側、通気口から入ります』

 空の声がPCのスピーカーから聞こえた。

 先ほどの映像で、その通気口が壊れていたのが確認されている。

「ビート、待機していてくださいね。後で指示を出しますから」

 博が、肩にとまっているヨウムに声をかける。

 空が、この後は彼の指示に従うよう言っておいてくれていた。

 《 タイキシマ~ス 》

 ビートは明るく答えた。


 空は通気口から覗き込んで内部に誰もいないのを確認すると、うつ伏せになって足から入り込む。狭い通気口に胸が少し閊えたが何とか通り抜け ぶら下がってから壁を蹴って床に着地した。

 音もなく静かに降りた空は、しゃがんだまま周囲を探る。

 倉庫として使われていたらしい空間は、空気が淀んで酷く蒸し暑い。

『内部は無人。西側にドア、閉まっています。東側の大扉を開錠します』

 室内には通気口から入る光があるだけで薄暗い。けれど空の眼には何も問題は無かった。10m四方の使われていない倉庫には、ゴミが散乱するだけだ。空は静かに搬出用らしい大きな扉の前に立つ。

『古いタイプの南京錠 ピッキングします』

 スピーカーから流れる空の声の後に、微かな金属音が聞こえた。

『開錠しました 突入は待ってください』

 既に警官隊とSATは到着していた。博は警官隊を東側へ、SATを西側正門近くに待機させる。


 次に空は、西側の扉に向かった。鍵が掛かっていないその扉の前で様子を窺うと、僅かな隙間から人の気配がする。寝息のようだ。空はそっと扉を数センチ開いて中を見る。そこには、1人の若い男が通路の壁にもたれて座り込み眠っていた。おそらく彼の前にあるドアを見張っていたのだろうが、早朝のこの時間に眠ってしまったらしい。空は静かに身体を滑り込ませると、素早く男の横にしゃがみ頸動脈に手をかける。

 男は目を覚ますと同時に昏倒した。

 男の身体を横に倒し、邪魔にならないよう足を壁の方にずらす。そしてその体を探りポケットから鍵を出すと、それを使ってそっとドアを開けた。


 ドアの外の気配を察知していたのだろう、そこには縛られてはいるが 何とか座ったらしい小夜子が身じろぎをしていた。

 口のガムテープを剥がすと、小夜子は焦ったように早口でしゃべった。

「私より、真を!そっちの壁際よ。出血が・・・」

 空は落ち着いて唇の前に人差し指を立て、足首に装着していたナイフで小夜子のロープを切る。そしてそのロープを持って、ドアの陰になっている真の方に向かった。真はロープで固く縛られ横倒しになっていたが、手の辺りに大きな血だまりを作っていた。

「1時間くらい前にアイツらの1人が来て、手首を切って行ったの。悪趣味にもスマホで動画も取って行ったわ」

 小夜子の囁くような言葉に頷くと、空は真の怪我の様子を調べ始める。

「上腕部も一緒に縛られていたので、出血量は抑えられています。意識はないようですが、急げば間に合うでしょう」

 一旦彼を拘束しているロープを切り、持っていた方のロープで止血をしながら、インカムに向かって報告する。

『2人を発見 小夜子は無事 真が負傷 出血多量 30分以内に処置が必要 東側から突入してください 西側はまだ待機で』

 さらに小声で、真の傍ににじり寄ってきた小夜子に聞く。

「人数は解りますか?」

「確認できたのは7人。拉致したのが全部で6人だったけど、真の手首を切ったのは別の男だったから。でも多分、それ以上はいないと思うわ」

 小夜子は落ち着いて答えた。肝は据わっているらしい。


(1人制圧できたので、後は6人・・・ですね)

 空は小夜子に真を任せると、通路に出た。


 この先にいるだろう容疑者たちをこちらに来させないよう、制圧しなければならない。

 空は静かに通路の突き当りに向かって歩き始めた。



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