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その癒し系男子は傷月姫を手に入れる。  作者: ぷり


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10/25

10 ■ 恋は罪なの ■

「診療所を開こうかと思う」

「え?」

「あ?」


 放課後、ヒースに遊びに連れて行ってもらって、アドルフさんの土いじりを手伝っていたところ、ヴァレン君が唐突に言い出した。


「会社経営。オレはオレで会社に診療所を開き、そこで社員の健康を守ろうと思う。福利厚生充実」

「楽な方へ行った!?」


 アドルフさんがそう言うと、スーっとヴァレン君の顔が怖くなった。


「自分の能力を活かした仕事です。……というか、我が家はどうやら聖属性がポコポコ生まれるようだから、診療所を普通に開いてもいいんじゃないのか。儲かるだろ」


「ポコポコって言うな……!」


「長男のオレからすると、弟妹達はある日いきなりポコポコ湧いたようなもんだからな……。あ、わいた。お。またわいた、みたいな」


「おまえは弟妹の事を、そんなふうに思ってたの……? 我が家にはカウンセリングが必要なようだな」


「じいさんと違って気楽に生きられない立場なんで」

「オレが気楽だと!?」


「気楽じゃん。会社経営は父さん丸投げ……」

「うっ!?」


 胸を抑えるアドルフさん。


「ま、丸投げではないぞ! ちゃんとブラウニーと相談してやってるぞ!? 会社にはあまり行ってないがやってるぞ!?」


「そうなのか? それは知らなかった。だが、オレの目にはたまに仕事しには行くけどほとんど領地に引きこもって自分の好きなことしてる」


「う!? おまえ、オレのことをそんな風に!? 好きなことっていうけど、ちゃんと領主の仕事もしてるぞ!? たしかに好きなこともしているが!」


 後ずさるアドルフさん。


「そうか、大変だな。でもその大変な領地関連のことも、そのうち父さんが継ぐんだろ……? そしたらあんた、ニートだよね?」


「(がーーーーーーん!) 50歳近いじいさんに……リタイアを許さない構え!?」

 

 ヴァレン君が真顔でアドルフさんに近づく。


「そしてそれ全部、そのうちオレに引き継がれる……それなのに診療所を開くのが楽な方向……だと? ついでに言うと街で診療所開いて患者を診ている医師たちにも謝るんだな…… (ゴゴゴゴゴ)」


「ごっ、ごめんなさい……!? でもそれはお前の中では楽にやれるってことであって! オレとしては経営を学んでほしかったわけで!? 決して街の医者を悪くいったわけでもないぞ!! ……あ、でも昔は仕事持ち帰って家でやってたよ!? 子供たちの世話もちゃんと見てたし!! 最近教えたでしょ!! じいじだって、今まで身を削るような苦労してきたの!!(オロオロ) てかその顔やめて!!」

 

 言い訳が長い。

 アドルフさん、なんでヴァレン君に怯えてるの……? ん? 顔?


「フ……遺産は負の遺産とセットで子供へと引き継がれるのがこの世のセオリーだ。気にするなよ、じいさん」


 孫に肩ポンされてガクガクしているお祖父様。……言葉で責められることより、顔に恐怖してません?

自分に似た顔なのに。


 ヴァレン君はなんだかアドルフさんいじりをして、顔がご満悦になってきた。楽しいんだね……アドルフさんいじりが。


 私が黙って様子を見ていると、それに気がついたアドルフさんが、

「ああ、アイリス嬢。こいつはこの夏から領地経営の代わりに会社経営をやらせることになってな。自分で部門をつくってもいいし、担当部署を親から選んでもらってもいい、みたいな話をしてたんだよ」


 なるほど。ヴァレン君跡継ぎだものね。

 診療所は良い考えかもって感じたから後押ししてあげよう。


「へえー。ああでも、こないだ学校の友達を癒していたし、向いてるかもしれないですね。確かにせっかく聖属性を持っているんだし、費用もあるならベストなチョイスではないですか?」


「ほう。……なんだ、ヴァレン、おまえ。学校でそんな親切してたのか? じぃじ意外だわ」


「オレは普通に親切だぞ。じいさんに少し厳しいだけで」

「なんでオレには厳しいの!?」


 ヴァレン君はアドルフさんを無視してこちらを向いた。

「薬草とかで自作の薬も作りたい」

 ん?なんで私にそれ言うの?……あー、えっと。


「薬草用の畑とか作りたいとかいう相談かな?」

「まあ、そんなかんじ」


「学校卒業までなら相談乗れると思うし、畑なら作ってあげてもいいよ。こんな風に」

 そういうと私は、ヒースの土に魔力を流してクワをもった小人のようなゴーレムを何体かこさえた。

「小人さんたち、この辺の土耕してー」


 学校は魔力使っちゃいけないから全部自分でやらないといけないけど、学校の外なら話は別だ。


「うお、土属性魔法! ……素敵! なるほどー。ゴーレムにDIY手伝わせる方法もあるなぁ」


 アドルフさんが目を輝かせた。そのまま何かに思いを馳せるように固まってる。

 創作意欲が湧いてるんだろうな。こういうの好きなんだなぁ。


「ほー。すごいな。……少数精鋭のヒースには……ぜひ、ほしい、ジンザイだな、アイリス」

 何故最後のほうカタコト? まあいいか、変なのはいつものことだし。


「種まきや水まきもさせられるよ」

「なんてこと! オレも早く似たようなの作ればよかった! 錬金術のほうで!」


「あれ、でも。土の精霊にお手伝いしてくれるブラウニーっていましたよね。似たような事してくれません?」

「その精霊は、我が家では禁止されている。主にオレの父親のせいで」


「え、なんで」

「オレの父親の名前がブラウニーだから、名前かぶりが許せないらしい」

「え、そんな事で?」


「アイリス嬢。そいつの顔と父親の顔はほぼ同じだ。それでヴァレンと同じ名前の使役しやすい精霊がいると考えてみてくれ」

「……あ」

「……なんだ」

「血管切れそうな顔になりそうだなって」


「………!!」


 ヴァレン君がショックを受けた顔をして、

「あっはは! 言われたな!! ヴァレン! あ、こら! シャベルでこっちに土をかけるなー!?」

 シャベルで土を掘りながら、煽ったアドルフさんを追いかけ回し始めた。


 変なの。

 何やってるのこの人たち。

 でも、楽しそう、仲良しだね。


 その時。

「あれ? お客様? こんにちは」


 ふわりと揺れる長い桃色の髪にスケッチブックを手にした美しい少女と――


「家の方に来客とは珍しいな」


 ――うす黄緑色の長髪と顔の美しさに隙がないエルフが、現れた。


 うわ!

 エルフだ!!!!

 ヴァレン君の家エルフまでいるの!?


 とんでもない美術品二体に遭遇した。

 その二人の周りだけ空気がすごく澄んでいる気がする……!

 

 私は挨拶した。


「どうも、お邪魔してます。私はアイリス=ジェードと申します。ヴァレン君のクラスメイトです」


 桃色髪の少女が、エルフの後ろに隠れがちに挨拶をくれる。


「こ、こんにちは。 ヴァレンの一つしたの妹のアルメリアです……」


 ペコリ、と挨拶される。お母さんにそっくりだな……可愛い。


「私はヒースに居候しているギンコだ。ヴァレンのご学友か、よろしくお願いする」


 エルフのギンコさんに至っては、言葉もすごく丁寧だ。

 面白可笑しいと思っていたヒースにもこのようなまとも枠がいたのね……。良かった。


「……てか、兄さんとじぃじ、何やってるの。兄さん! じぃじー! お客様ほったらかしだよ!!」


 アルメリアさんが意外と大きい声で二人を呼ぶ。そっか、家族には遠慮はいらないよね。

 すでに遠いところでじゃれあって(?)いた二人が、すごい足の速さで帰ってきた。二人共足早!?


「すまない、アイリス」

「すまない、アイリス嬢。 リアとギンコ。おかえり」


「じぃじ、言われてたマテリアルとってきたよ」


「おー、そうかそうか。茶菓子だしてやる、オレの部屋来い、二人共。今日のダンジョンの話聞かせてくれ。アイリス嬢、オレはこれで失礼する。ゴーレム見せてくれてありがとう。また一緒に作業しよう、楽しかった」


「あ、はい。私も楽しかったです。また!」


 干潟、と聞こえてちょっと興味を惹かれた。

 干潟があるダンジョンはうちの学院のダンジョンだけではないから別のダンジョンなんだろうけど。


「アドルフ。あそこの干潟の泥土をいくつかサンプル程度だが、採取してきた」

「お、いいね」

「失礼します」


 3人は家に入っていく。


「……」


 あれ? ヴァレン君が無言だ。


 アドルフさん達がいなくなるまで、彼は無言だったので、ちょっと聞いてみた。


「どうしたの?」

「別になんでもない……オレたちも休憩するか。ゴーレムは放っておいても平気か?」

「え? うん。そのうち時間が来たら、勝手に土にもどるし」

「そうか」


 彼はそういうと私の手を取った。

 また勝手に手を握られて引っ張られていく……なんかもう気にするのが面倒くさくなってきたな。


 応接室ではなくて、厨房に連れてこられた。


「紅茶でいいか? あっちの食堂に椅子あるからそこ座ってて」

「うん」

「あ、アイリスのお姉ちゃんだ」

「ブラッド君、こんにちわ」


「にぃに。喉かわいた。僕もお茶ー」

「お前は牛乳にしておけ」


 ヴァレン君が、ブラッド君のマイカップらしきものを棚から取り出し、先に牛乳を注いで渡す。


「あと、菓子は食うなよ。晩飯食えなくなる」

「ぶー」

「母さんにチクるぞ」


 そういって、ヴァレン君は沸かしているお湯の様子を見に行った。


 ブラッド君は私の隣に座って、コクコクと牛乳を飲んでいる。


「ぷはー」

「ふふ、白ひげできてるよ」


 私はハンカチを取り出して、クチを拭いて上げた。


「あーとー(ありがとう)」


 可愛いなぁ。


「おねえちゃん。ヒース好き?」

「ん? 好きだよ」


「そっかー。僕もおねえちゃん好きだな。おねえちゃんに幸せがありますように。拭いてくれたお礼だよ」


 うっすら光るブラッド君が私の方をみて、祈るように目を閉じた。

 わ、すごい。祝福もらっちゃった。


「おねえちゃん、僕よくわからないんだけどー」

「ん?」

「恋って罪なの?」


 きょと、とした瞳で聞かれた。

 ブラッド君の瞳の色、明るくて金色にも見えるな。不思議。


「え、誰がそんなことを?」

「ふふ、内緒なんだけど。母さんがね、夜中に秘密のつもりでこっそりお話書いてるんだけど。その時ブツブツ言ってた。実は父さんにもバレてる。あはは」


 それ見つかったら恥ずかしいやつ……もう見つかってるけど! プラムさん……!!


「ブラッド君、内緒にできてないよ……?

 そうだねぇ、難しいな。おねえちゃんもよくわからないや。でも、君もお父さんも見てみぬフリしてあげてるんだね、優しいね」


「僕はそのつもりだけど、父さんは多分、母さんが何かやらかした時に罰を与える材料として蓄えてると思う」


 怖!! お父様怖!


「ちなみに僕は恋自体は罪じゃないと思うよ。人を好きになることが悪いことなわけないと思うから」

「君、5才だよね……?」


「そうだよ。牛乳ごちそうさま。おねえちゃんまたね~」

「あ、うん。また……」


 流しにコップをおいて、ブラッド君は去っていった。

 あの子、貴族の家で英才教育されてる子並に知識ありそうだな……。

 ヒース家は庶民よりでのほほんとした教育してるのかな、とか思ってたけど、教育水準高いのかな。


 それにしても、ヴァレン君の家はきょうだいが全員聖属性か……うわ、神殿以上に祝福が厚そう!

 すごいなヒース。診療所どころか神殿建てれるんじゃないだろうか。


「おまたせ」


 クッキーの袋を口に咥えてカップを手に2つもったヴァレン君が戻ってきた。


「ありがとう」


 クッキーの袋を、バリッと破いて取りやすく広げてくれた。


「皿も出さないですまんな。ご令嬢、こういうの平気?」


「ん? 全然平気だよ。その家のやり方はそれぞれだと思うし。私は私の家のやり方が大好きってわけでもないから。気にしないで」


「おまえって伯爵令嬢のくせに、けっこうルールに緩いよな」


「あー。跡取りじゃないから、けっこう家では緩く育てられてるほうかも……ん? なに後ろ向いてまたガッツポーズみたいなことしてるの?」


「発作だ」

「発作!?」


「気にするな、オレは聖属性。なにも問題ない」

「問題なくても気にするよ!?」


一体なんなの。まったく……変な子なんだから。


「そういえば、さっきなんか元気なかったよね?」


 もう一度聞いてみた。


ヴァレン君は少し観念したような顔になって言った。


「……簡単に言えば、妹の婚約が決まって、妹をとられた気分になってるだけ」


「え! えーっとおめでとう、でいいのかな?……妹さんどこへ嫁がれるの?」


「さっきのエルフ」

「え……!? 年齢差いくつなの!?」

「考えたくない。つがいってやつらしい」


「つがい! へえー。そんなのホントにあるんだね。」


「聞けば、胎児の頃から妹が自分の運命だとわかっていたらしい。こう言うとまるで変態かおかしなヤツかと思うだろうが、あのギンコはこのヒースで飛び抜けて一番まともなヤツだ。あとその運命に沿うように、妹もギンコに恋しはじめた。オレは外野なのに勝手に落ち込んでいる」


「お、おう。

 つがいのことは本で読んで知ってるから、理解はできないけどおかしな事だとは思わないよ。それにしても運命か。そう聞くとロマンチックだね」


 ブラッド君が落ち込んでるって言ってた原因これか。


「ロマンチック……お前もそういうのに憧れる女子か」

「いや、私はどちらかというと、リアニスト寄りだと思ってるよ。……でも、それでもね。私も仲良かった兄に婚約者ができて、遊んでもらえなくなってからは、そういえばしばらく落ち込んだなぁ」


「まあ……近いといえば近い。そうか、オレは落ち込んでもいいのか」


 妹の事に加えて、幼馴染が幼馴染の枠を超えた要求をしてきていると。なるほど。ちょっと重たい状況なんだね。


「いいんだよ。そのうち当たり前になって慣れて平気になるから、元気だして」


 なんとなく頭を撫でてしまった。あ、思ってもみなかったけど、彼の髪は触り心地いい。


「すこし恥ずかしいな。でもありがとう……うむ、元気でたっぽい。うむ、うむ」


 そう言いながら、少し目線を外して紅茶を飲む。その目は微笑んでいて耳が赤い。可愛いな。


「そか」


 私は自然と笑顔になった。

 別に落ち込んでたわけじゃないけど、私も元気をもらったみたい。


 その日はその後、ヴァレン君がやりたい仕事の話の内容について二人で話しあった。


 ヴァレン君は将来やることが決まったんだね。

 その夜、ベッドの中でふと。

 そのヴァレン君の未来に自分は存在しえないことに、気がつく。

 

 何考えてるんだろう。当たり前じゃない……。


 ああ、月が綺麗です。早く眠りたい。




????????? 


https://ncode.syosetu.com/n9927im/ プラム先生著【恋は罪】

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