表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

僕のシュール・ナンセンス・SF・異世界小説作品集

天才島

作者: Q輔

 大学時代にお世話になった教授が、僕の病院にカウンセリングに訪れた。教授は、メディアで頻繁に見かける有名人で、世の中が天才と称する脳科学者だった。


「お久しぶりです。こんな寂れた精神病院に、教授のような天才がいったい何のご用ですか?」


「病室で患者に何の用は無いだろう。君のカウンセリングを受けに来たのだよ。実は重度のノイローゼに陥っている。なかなか抜け出せない」


 教授が陰鬱な面持ちで呟いた。


「思い当たる原因は?」


 僕が示した椅子に腰を掛け、深呼吸の後、教授は話を始めた。


「今の世の中、どこもかしこも馬鹿ばかりだ。政治家は馬鹿。医学会も馬鹿。SNSも馬鹿。大人も子供も、馬鹿、馬鹿、馬鹿。何故みんな揃いも揃ってこうも頭が悪いのだろう。と、世間に絶望をしている」


「それがノイローゼの原因?」


「そうだ。この悩みを君は笑うか? ふん、所詮は君も馬鹿なのだ」


「……なるほど、これは重症ですね。そんな教授に打ってつけの治療法があるのでご紹介しましょう。ここから船で数十キロ沖に出たところに『天才島てんさいじま』と呼ばれる秘密の施設があります。そこでしばらく療養をするとよいでしょう」


「天才島?」


「はい。その島に入島できるのは選ばれし天才だけ。その島の者は、誰もが頭が良く、持って生まれた鋭い感性を活かして、合理的に生きている。もちろん天才脳科学者である教授は、問題なく入島可です」


「馬鹿は?」


「いません。島の漁師から旅館の女将にいたるまで、みんな天才です」


「そこ絶対行く!」


 教授は大声でそう叫ぶと、僕から紹介状をふんだくり、船に乗って『天才島』へと旅立った。


 数週間後、僕が論文を執筆していると、教授から電話があった。


「この島は最高だよ。本当に馬鹿がいない。いっそここに永住しようかと考えている。君もいつまでも馬鹿の島にいないで、私と一緒にここで住まないか。君だって、精神医学の分野では天才と名高い人物ではないか」


「考えておきます。でも僕には書きかけの論文があるのです。それはあらゆる天才が避けてきた重大なテーマを扱っています。少なくとも、それを学会に発表するまでは、ここにいるつもりです」


「興味深い。頼む。その論文のタイトルだけでも教えてくれ」


 近々「天才島」に取材に行こうかな、なんてことを考えながら、僕は、受話器の向こうの教授に向かって、論文のタイトルを読み上げた。

 

『人のことを馬鹿と言うやつは、何故みんな馬鹿なのか』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 意外な落ちで面白かったです。 [気になる点] 天才島がどんなとこか気になる。 [一言] 脳科学者の茂木健一郎のことが思い浮かびました。
2024/04/28 05:14 退会済み
管理
[良い点] すっごい皮肉が利いてる! もう一度読み返してみたら、教授はメディアに頻出していて世の中に天才と「称されている」だけであって、本物の天才という表記は無いんですね。 (主人公は「天才脳科学者」…
[一言] オチが最高。 皮肉が効いてる。 あっぱれでした~!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ