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コネクション・ブロー  作者: びたみんC
8/8

コネクション・ブロー(8)

 ハッ!

 力強い日差しを受けて私は目を細めた。


(今のは夢…?でもこの景色は……)


 今見た夢の世界とそっくりだった。

 違うのは里がなく、土に埋もれた遺跡群が残るダム湖があること。


 そして線路がなくなっている。



 男に襲われて…A郎とC男がなぜか飛んで……


「B子!うぉりゃあああああああああ!!」


 私はB子のいた方向に向かって、思いっきり持っていた棒を振り回した。


 ゴッ!


「ぐあああ!何しやがる!!」

「桃花ぁぁ!!」


 B子を襲おうとしていた変質者は頭を押さえて振り向いた。

 そしてその顔を見て驚愕してしまう。


「あんたの顔…そうか、お前はあいつの子か!」

「訳の分からない事を…俺は施設育ちで親なんてしらねぇよ!」


 巨漢に任せて体重を乗せてタックルを仕掛けてきた。

 けどこれだけ足元が悪いんだ、早々思った通りには動けない。


 !?

 私は簡単に避けると、突然ラジオが反応し始める。




『私を見つけて……きっと役に立つから!!』




 奥の茂みへと突き進み、持っていた棒を使って土を掘り返し始めた。


 この場所だったはず!

 自信はないけど、直感がそう言っている!!


 男はノソッとした動きで起き上がると、殺意を込めた瞳で睨んできた。


「もう許さない。お前達…うわっ!」


 A郎とC男が覆いかぶさり、二人で男を拘束した。


「許さねぇのはこっちだよ!」

「覚悟しやがれクソ野郎」



『ジジジッ……ザザァァァァァァァ!!』



 凄まじいラジオの砂嵐の音が鳴り響き、思わず耳を塞いでしまう。

 男はその隙に逃げ出し、トンネルの中へと走って行った。


「な、なんだ!」

「私のラジオじゃない…!」


 それは上の旧道から発せられていた。

 あの位置にあるのは一つ。


 A郎の愛車だ!


「C男!ドア閉めてきた!?」

「逃げ出したままだ!男の顔が浮かんで、腹に激痛が走ったから逃げた!」


 あっのクソ野郎!

 死んでも物理可能か!!


「もも!どこ!?」


『もっと下!』


「ここ掘ればいいのか?!」

「そう!」


 A郎とC男、B子も加わり4人で必死に堆積した土砂を掘り起こしていく。


 はぁはぁ…

 段々土が硬くなってきた…



 カラカラカラ……


「ひぃ!あいつが帰ってきたよ!」

「急げ!」


 トンネルから遥か昔に打ち捨てられたバールのようなものを持ち出してきた。

 その長さは1mほどもあり、私たちを殺すには十分な凶器だった。


「あれに対抗できるのか?逃げた方がよくないか?!」

「C男が言ってたでしょ。車に行っても同じ!」




 数十年ぶりにダム湖が干上がり露わになる自然現象。これは昔に沈んだ里が現れるという珍事も巻き起こした。


 これを逃したら次がいつかは分からない。


 故に二人の長き戦いに…

 …互いの刃が交差した。



 あいつは子孫と魂を共有するために。

 ()()()はあいつを地獄に堕とすために。


 二人の強固な意志は、必要な人たちを呼び寄せた。



「ダメだ!土が硬くて木の棒じゃ掘れない!」

「あっきらめんな!ん??これは…!!」


 私はA郎の背後に黒光りする物体を見つけた。


 間違いない。

 こいつは…アレだ!



「いっけー!ドアノブルグ!」

「アッー!!まっ……」



 ザッ!ザッ!ザッ!!


 がつがつ掘れるぜ!

 A郎の手が邪魔だっ!!


 ペチッっと叩き落とすと、私は容赦なく掘り進んだ。


 折れた金属部分が最高だ。


「俺の…取っ手がぁ……」




 カラカラカラ……


「もう遊びは御終いだ」



 私は背筋がゾクッとして茂みの中を覗き込んだ。

 そこにはあの顔が浮かび、鬼気迫る形相で睨みつけている。


『…コロス……』


 カーオーディオから大音量で宣言された。


 男は重たいバールも関わらず全力でこちらに向けて走ってくると、殺すつもりで大きく振りかぶった。


 急げ!

 もう少しで出るはずなんだ!


 手で掘った砂をどけると、白い物が見え始めてきた。


「「「「 でたッ! 」」」」


 それを一本手に掴み、思いっきり引き抜くのと男が殴るのはほぼ同時だった。



 ガシャッ!



 不思議と埋まっていた骨は力も入れずに地面から抜けてバールに衝突する。

 すると骨と言う骨は、暴力によって粉砕されて四散してしまう。


「ぐああぁあ!」



 だがこの骨が手榴弾のように炸裂し、男の身体に突き刺さった。


 肋骨は胸に。

 大腿骨は足に。

 背骨は腹に。


 そして頭蓋骨は茂みに。


「ギャァァァアアアア!!」

『ガァァァァアアアア!!』


 男は全身を拘束されるように吹き飛ばされた。


『やっと捕まえた……ふふっ』


 私のラジオからももの声が聞こえ、頭蓋骨の飛んで行った方へと草をかき分けながら進むとその光景に息をのんだ。


 頭蓋骨の下に僅かな白い物が見えた。


 それは遥か昔に蒸気機関車で吹き飛ばされた、とても小さな小さな破片。



『桃花ちゃんお願い。私の頭蓋骨を家の庭に埋めて…』


「分かったわ」

「でも戻れないぞ?」

「私が知ってる。こっちに九十九折(つづらお)りがあるはず」


 夢に見たももの記憶。

 草木が生えて分かり難くなっているが、確かに登れそうな場所があってそこを行くと直ぐに車の所へと辿り着いた。


「なぁ、あいつはどうしたらいいんだ?」


 確かに生身の人間だ。

 このままほっといて良い物か…


『私埋めたら、最後の力を使うから大丈夫』


 超不思議パワーで更生させるのだろうか。

 怪奇現象が常態化している今では、何が起きても不思議な気がしない。


 ひとまず獣道を行き建屋に向かった。


『帰ってこれた…本当に長かった……』


 殺された後もずっと一人で戦い続けてきたんだ。

 せめて最後は幸せな夢を見てほしい。


 そう願い、私たちは穴を掘り始めた。


『そこは厠よ…』


 !?


 厠だけ無くなっていたので分からなかった!

 あ、でも確かに位置関係はそうっぽい!


「ごめ!」

「掘っちまった…手が…手がぁ!」

「裏手に水くみ場があるわ」


 そう言うとB子は真っ先に突っ走って行った。

 何も言わないが、あの男に襲われたし気持ち悪いのだろう。



 しかし何かを忘れていないか?


 あっ!


 ダム湖の水が枯れるほどの水不足だ…



「出てないじゃん……」

「あっはは」


 苦笑いで誤魔化して、ダム湖が一望できる綺麗な場所に穴を掘り、頭蓋骨をそっと置いた。


『ありがとう。報われたよ…もうこれでザザッ……さい………ご…ザーーー』


「安らかに…」


 皆で黙とうを捧げ、獣道を戻ると車が見えてきた。

 A郎の愛車だ。


「おい!お前らドア壊すなよ!!」

「もう壊す理由がないよ…」


 大丈夫なドアを開けて中に入り込むと、全員がギョッとした。


「おい、何のホラーだよ…」
































 血の手形が…





























 手を振っていた…





















「中々洒落てるな」


 そう言ってC男がシートベルトを締めた。



 ガチャ!!



 全員が後ろを振り向くと、後ろのドアが開いていた。


「何でだよ…」

「A郎の愛車すげぇな。車検通るのか?」



 ズズズズズッ!!



「なに?今度は何!?」

「目の前の落石だ!崩壊するぞ!!」


 道をふさいでいた土砂が少しずつ流れ始め、次第に大きな土石流となって動き出した。

 先ほどまで下にいた場所とトンネルは埋まり、もう二度と日の光を浴びる事はないだろう。


 しかしそんな感傷的な事よりも思う所がある。




「「「「心霊現象って、こえぇ……」」」」




 4人はもう二度と肝試しをしないと心に誓うのだった。






























 ー後日ー


 親から聞いた話だと、祖父母は昔ダムの周辺に住んでいたらしい。

 私は物心ついた時には既にダムに沈んだ後だったので、お婆ちゃんの家は今の家だと思っていた。


 そして我が家のお墓には小さな墓石があると聞かされて驚いたものだ。

 なんたって、その墓石は私のお婆ちゃんのお姉さんだそうだ。


 若くして行方不明になり遺骨も出てきていないんだとか。

 名前だけでは可哀想だと小さくても置いたみたい。


 名前は()()()

 私の名前はその子から借りて、桃花トウカって名付けられたんだ。


 名前が好きになっちゃったよ。

 ちょっとだけね。



 それと、お墓参りはちゃんとする事にした。


 今までもちゃんとしてたけど…

 雑草抜きとか精魂込めるようになったわ。





 イヤホンを外して…


 それからラジオの音量を上げてね。






















 数ある小説の中から、最後まで『コネクション・ブロー』をお読み頂き、ありがとうございます。



 ラジオと言うと“音”と言う連想から抜け出せず、大変悩むことに…

 しかし捻って考えても聞くものは聞くもの。これを変えても良い話が生まれませんでした。

 よく袖の内側にイヤホンを通して、隠れてラジオを聴いたものです。


 あの独特なテンションを思い出しながら、色々な人達を描かせて頂きました。



 作中の友人は楽しい人達ですが、敢えて伏せ字で展開しました。


 A郎は自分勝手な所があって人をイラッとさせますが、最後まで裏切らない強さを持っています。

 愛車を壊されても怒らないですしね!


 B子は友人として遊ぶには楽しいのですが、本当の恐怖を前にして一気に人の弱みを魅せました。

 男性の女性を守ろうとする心を惑わし、4人の中で一番《人であった》と言えるかもしれまん。


 C男は男らしいですね。

 状況に左右されず、自分の出来ることを常に冷静に見つめることができる。

 人によっては《二人は居心地が悪い》って言う人いるかもしれませんが、ある意味では憧れる人でもあります。



 是非4人には歳を重ねても笑い合って旅行に行ってほしいものです。


 最後になりましたが、少し独特なスペースを使いしました。それが少し背筋を冷やす結果となったのならば、嬉しい限りです。



 そぉーい!






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