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コネクション・ブロー  作者: びたみんC
4/8

コネクション・ブロー(4)

 手形から伸びた血痕もあるので、蛮行の悲惨さが如実に示されていた。

 恐らく手をついて逃げようとして、引っ張られた…


「事件の話は本当だったみたいだな」

「肝試しって言ってたよね?何なのここ」


 ふと気になって思わず口をついたところでハッとなった。


 まずった。

 この気味の悪い部屋を一刻も早く出たい。


 だがそんな心境を逆手に、肝試しを楽しむようにニヤリとしてA郎はポケットを探り出した。

 そして一枚の新聞記事のコピー取り出す。



 【山間鉄道で轢断事故!橋景隧道近くは柵もない?】

 【学生いずこに!農村に起きた神隠し?】



 大きな見出しが目を引くが、皆の目に留まったのは文字ではない。


 掲載された写真。

 その記録された黒インクの塊は、いま自分たちがいる場所を写し取っていた。


 A郎の目的はこの記事の建屋だったが、詳細な場所が分からずこの付近一帯を衛星写真から調べて見て回る予定だった。

 だがいきなり当たりを引いたので肝試しの収穫を喜び、嬉々として自分の事前調査を語り出した。


 だが、語るならまず私への謝罪を語れ。

 そしてちょっと殴らせろ…


「な、なんだ桃花?手形よりお前の顔の方が怖いぞ……」


 握りしめた拳に目力が加わり、A郎は私を見て冷や汗をかきながら語り出した。




 かつてダムに沈む前のこの小さな村で事件が起きた。

 それは村民の行方不明事件だった。


 この家の住人一人の行方が分からなくなったのだが、事件自体は直ぐ発覚した。


 なぜか?

 それは今、私たちが見ている惨状が壁一面に広がっていたからだ。



 帰宅した住民が交番に駆け込み、家の状態を見て貰おうとした。

 おりしもその日起きた鉄道の人身事故によって、外部から警察官が小さい村に集まっていた。


 大きな事故処理の最中に別の事件調査が始まった。

 だが人身事故の片づけが終わると、ろくに調査もされずに外部から来た警察官たちは帰ってしまったのだ。


 だがこれに眼をつけた者がいる。ジャーナリストだ。

 彼はこれを取り上げて家の写真まで新聞に掲載してのけたのだが、それはさっきA郎が見せた記事である。



「どうだ?中々冷える話だろう?」

「うんうん!やっぱ最高だね!!」


 A郎とB子は何か共感したような感じで頷いていたが、少し理解に苦しむ。

 ハッキリ言って最高に気持ち悪いし、速くこの家から手を引きたかった。



 カサッ…



「何の音?」


 B子が突然言い出し、皆が無言で音に注目した。


























 ………

























 いや、何も聞こえない。

 正確には風による葉の擦れる音はずっとしている。


「行こ」

「おう、戻るぞ」


 A郎は先ほどの饒舌から一転、珍しく同意して家から出ようとした。

 大抵こういう場合は「もっと家の中を見たい」とか言って、私とはソリが合わないのだが。


 家に入る前は乗り気だったA郎とB子は足早に…いや、もうそれは競い合うようにして玄関を目指した。



 ダッダッダッダッ!



 木板を踏みつける音が狭い平屋の家中に響き渡る。

 全員がうるさい位に足音を立てて玄関へと足早に向かっている。


 わざとだ。


 そうしないと肩が寒くて……気持ちが保てない。


 あと少し…

 この土間を抜ければ、建付けの悪かった雨戸を飛び越して…




























『モドレ……ザザ………』






















 !?


 ゾクッ…



「ラジオから!?」

「戻れと言われて戻るバカはいません!」




「もどれ!!」



 ガシャーーーン!



 C男の唐突な声に反応して全員が振り向いた直後、前方の窓ガラスが粉々に砕け散った。


 止まらなければ身体に破片が突き刺さっていたであろう。

 でも……寒気は部屋の方が酷かった。


 私は意を決してB子の手を引っ張り、C男のいる部屋の方へと走った。

 ゼーゼーと肩で息をしながら玄関を見ると、A郎が止まったまま動かないでいた。


「A郎!戻って来い!」


 B子の手を掴む私の手に震えが伝わってくる。


(恐いのは一緒…A郎……)

「何やってんのよバカ!動け!」


 A郎は急に電源が入ったように俊敏に動き、部屋に転がり込んできた。


「わりぃ、呆けてた」

「らしくないな、近くで見たのか?」


 C男とA郎の会話は何だったのだろう。

 何を見た?


「……わい………め……」



 震えるB子をなだめるように抱き寄せると言葉が聞き取れるようになってきた。


「怖い…怖い…あの目は……」


 あの目?

 やはり私以外全員何かを見た?


「ねえ、皆何を見たの?私だけ見てないんだけど」

「ガタイの良いオッサンだ。けどあれは正気じゃねぇな」



『ザザ‥‥ザ…』



「またラジオが勝手についた?!」

「ヒイィ!」


 B子が過剰に反応して恐がっている。

 ノリノリだったのは他の人なんだけどなぁ…



「オラァァァ!出てこいや!勝手に荒らしてんじゃねぇ!!」


 窓ガラスを粉々に粉砕した不審者が何を申す!


「素直に出て行って説明すればいいんじゃないかな…ねっ?ねっ??」

「それは無理だな。あいつ殺す気たぜ」

「生きてる人間の方がよっぽど怖いな」


 B子の懇願も虚しく、C男の一言に全員がうなずいた。

 しかし妙な事に不審者は大声を上げる一方で、建屋に入ってくる気配がない。


 普通に考えれば入ってきて締め上げれば早いものを…もしかして遊んでる?


「B子、あんた逃げれるの?」

「え?え?私むりだよ?…逃げきれないって!」


 C男に目配せすると首を横に振った。

 流石に女性と言え、成人を背負って逃げ切れるとは思えない。


 ゾクッっと寒気を感じ、その場から飛びのいた瞬間ラジオが鳴いた。



















『…ウシロ……ダァレ?』



















 バキッ!



 先ほどまで居た場所が外壁ごと棒のようなもので滅多刺しにされた。

 そこから陽光が降り注ぎ、3人は顔を見合わせて頷く。


「C男、いざとなったら…」

「あ、あぁ。正当防衛…だな」


 ここまで来ると正当防衛が多少キツくても大丈夫だろう。

 3人は目配せして一気に駆け出した。



「え?えぇ?私はァァァァ!!」



 動けないB子を部屋に置き去りにして外に飛び出すと、C男はA郎に野太い木の枝を折って手渡し、残り半分を自分が持った。


「こいつを使え!」

「裏か!?なめんじゃねぇえ!!」



 二人は建屋を左右から攻めて男を包囲するようだった。

 私も手近な木の棒を取ると、それを持ってC男の向かった方へ向う。



「A郎?!」

「C男!?いねぇぞ!」


『ザザァーザ……ザ……』


 なに?ラジオ!?

 砂嵐の音だけで何も聞こえない!































『…ホラ…キタ…』



























「きゃああああああああああああああああああ!!」




 静寂を破壊するB子の声が木霊した。


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