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コネクション・ブロー  作者: びたみんC
3/8

コネクション・ブロー(3)

 はぁはぁ…


 んで、おいて、行くのよ!


 私が考えた旅行じゃないのに!!



 やっと追いついた時には、3人は目標の小屋に到達していた。


「メチャクチャ焦った……帰れないかと思ったよ!」

「悪い悪い、分かると思ってな」

「ごめんね桃花!せっちゃって…ほんとに」


 速く目的の場所に辿り着きたくて“一本道だから大丈夫だろう”と私を置いて先に進んだようだった…



 まったくもって論外。



 獣道を入った事があるだろうか?

 無ければ漫画やドラマのような展開を想像するかもしれない。


 “来た道を戻れば良く、仲間とそのうち遭遇する”


 現実にそんなご都合バイアスは働かない。

 一本道でも気が付いたら道を違え、草木で状況を見失えば1m隣の道が分からなくなる。


 それはもう、立派な遭難だ。



 その恐怖たるや想像を絶する。


「やばいヤバいヤバイ……道どこよ?!」


 いやまず落ち着こう!後ろから来たから…


「……あれ?どっちから来たっけ?…あぇ!どっちに進んでたっけ!?」


 認めたくないけれども遭難したかもしれない。


 そんな時、人は何も考えずに周囲を見渡して状況を整理しようとする。

 これが最初の心理トラップ。


 住み慣れたコンクリート迷宮なら当たり前の行動が、山道では後戻りできない危険行動になる。


「足の向きはこっちだけど…私真っ直ぐ進んでた?……みんな同じ景色??あれ???」


 周囲を見回した瞬間、進んだ方角が一瞬にして分からなくなってしまう。


「ふふ…大丈夫。人類の英知を使えば!…って、ぇー……道、無いじゃん?」


 携帯GPSのマップに表示されたのは緑一色。

 表示される道なぞない。


 予め入る場所と目指す位置関係、山道のルートを把握した上で使わなければ…

 帰るべき場所がそもそも分からないのだ。


「ダム湖がこっちだから、一先ず逸れないように…」


 ガサガサッっと足で草を潰しながら道を作り進んでいく。

 幸いにして分かりやすい地形をしていたので、何とか元の道に戻る事ができた。


「やった!さっき通った道だわ…車の前のガレキに進んだら死んでたわぁー…」


 細かな石に足を滑らせ、干上がったダム湖の地面まで滑落する自分。

 全身を激しく打ち付けてタコのようになった姿を想像し、ブルッっと震えて考えるのをやめた。



 人知れず苦労して辿り着いたのに、誰も労ってはくれないじゃないか。

 勝手知らずの私を残した3人を恨めしそうに睨むと、各々が謝罪の言葉を口にする。


「桃花ごめんね!すぐそこだからちょっとハイになって…」

「悪気はないんだ、すまない」

「まぁ無事に来たんだから良いでしょ。いくぞ」


 C男は普段の無口ながら謝罪に気持ちがこもっていたし、B子は向こう見ずな所がある。

 だがA郎の軽口にちょっとムカッとしたが、口を開いては閉じるしかない自分が少し切なかった。


「ったく、この小屋は何なの?」

「知らね。だいぶ古い木造家屋だけど、旧道が死ぬ前だから何十年も前じゃね?」


(知らね…って計画したのあんたでしょ!ほんとにこいつは何なの!?)


 先ほどの事もあり、A郎の態度にイライラが募るばかりだった。

 B子は私の顔に出た不機嫌を察したのか、手で“ごめんね”とジェスチャーしていた。


 目の前の建屋は木造一階建の平屋。

 窓ガラスは所々割れているが、人に荒らされたと言うよりは自然災害の破損と思う。


 ガタッ…ガタガタ!


「あっかね!」

「どいてろ、俺が開ける」

「パワー担当、壊さないでね」


 C男は無骨な笑顔を向けると、自慢の筋肉を魅せつける。


 そしてC男はなんと…

 雨戸を持ち上げて手前に引くと横にスライドさせた。


 力なんて殆ど入れていない。


「…なんだ、そう言う作りか」

「雨戸は収納が重なるようになってる。横の動きだけじゃ動かない」

「「ぇー?言えば良かったんじゃね?」」


 C男の無駄なパフォーマンスに女子たちの非難を受け、肩をすくめる。


「開いたんだからいいじゃねぇか、入ろう」


 そう言って内部へと入ると、そこは明暗の分かたれた世界が広がっていた。



 平屋は玄関から奥まで一本の通路で通じているおり、窓から差し込む陽光は美しく見惚れてしまう。

 反面、光の届かぬ漆黒の世界は、近寄る事を許さぬ雰囲気を醸し出していた。


「あそこに行ったら帰ってこれなさそう…」


 ゾクッとして常闇には近づきたくなった。と言うより本能が“近寄るな”と警鐘を鳴らすような感覚だ。

 私たちは懐中電灯を照らして周囲をよく観察すると、六畳一間の一角にある物を発見した。


「お、C男!お馴染みのビニ本君がご在宅だ!」

「ふむ、ビデオとの二世帯だな。良物件だ」


 そう言ってA郎とC男は床に散らばる本の束(昭和感漂う黒塗り裸体美女)を吟味し始めた。


「あんたたち肝試しに来たんじゃないの…?」

「ある意味これが一番の恐怖ホラーかな。誰が使ってたのやら…」


 B子もニヤリと笑いながら違う方向で楽しんでいるようだった。



 現在人が住んでいる感じはしないのだが、落ちている茶わんなどが過去に実在した面影を残す。

 子供用の小さいものまであったので、使われていた時は家族で住んでいたのだろう。


 エロ本を物色中の男連中を放置して、懐中電灯を片手に別の部屋を見始める。


(しかし埃っぽい所ね。ん?)


 当てた光が何かに反射した気がしたので、もう一度その場所を照らし出す。


 それは古くなった神棚。

 ガラスコップに光が反射していたのだ。


「ふふっ…ビビったわ……」


 誰にも悟られない時で良かった。

 こんな姿を見られたらA郎なら絶対ネタにしてクドクド言うに違いない。


 3人のいる六畳一間へ戻ろうとした時、再び光が何かを捕らえた。



「きゃっ!…なに……これ!!」


 バキッ!


 落とした懐中電灯が傷んだ床板を突き抜け、部屋の側壁を照らし出す。

 それと同時に3人が私の悲鳴に気が付き走ってきた。


「どうした!?なっ!」

「うッ……」


 土壁に描かれたもの。

























 無数の血手形。























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