コネクション・ブロー(3)
はぁはぁ…
んで、おいて、行くのよ!
私が考えた旅行じゃないのに!!
やっと追いついた時には、3人は目標の小屋に到達していた。
「メチャクチャ焦った……帰れないかと思ったよ!」
「悪い悪い、分かると思ってな」
「ごめんね桃花!せっちゃって…ほんとに」
速く目的の場所に辿り着きたくて“一本道だから大丈夫だろう”と私を置いて先に進んだようだった…
まったくもって論外。
獣道を入った事があるだろうか?
無ければ漫画やドラマのような展開を想像するかもしれない。
“来た道を戻れば良く、仲間とそのうち遭遇する”
現実にそんなご都合バイアスは働かない。
一本道でも気が付いたら道を違え、草木で状況を見失えば1m隣の道が分からなくなる。
それはもう、立派な遭難だ。
その恐怖たるや想像を絶する。
「やばいヤバいヤバイ……道どこよ?!」
いやまず落ち着こう!後ろから来たから…
「……あれ?どっちから来たっけ?…あぇ!どっちに進んでたっけ!?」
認めたくないけれども遭難したかもしれない。
そんな時、人は何も考えずに周囲を見渡して状況を整理しようとする。
これが最初の心理トラップ。
住み慣れたコンクリート迷宮なら当たり前の行動が、山道では後戻りできない危険行動になる。
「足の向きはこっちだけど…私真っ直ぐ進んでた?……みんな同じ景色??あれ???」
周囲を見回した瞬間、進んだ方角が一瞬にして分からなくなってしまう。
「ふふ…大丈夫。人類の英知を使えば!…って、ぇー……道、無いじゃん?」
携帯GPSのマップに表示されたのは緑一色。
表示される道なぞない。
予め入る場所と目指す位置関係、山道のルートを把握した上で使わなければ…
帰るべき場所がそもそも分からないのだ。
「ダム湖がこっちだから、一先ず逸れないように…」
ガサガサッっと足で草を潰しながら道を作り進んでいく。
幸いにして分かりやすい地形をしていたので、何とか元の道に戻る事ができた。
「やった!さっき通った道だわ…車の前のガレキに進んだら死んでたわぁー…」
細かな石に足を滑らせ、干上がったダム湖の地面まで滑落する自分。
全身を激しく打ち付けてタコのようになった姿を想像し、ブルッっと震えて考えるのをやめた。
人知れず苦労して辿り着いたのに、誰も労ってはくれないじゃないか。
勝手知らずの私を残した3人を恨めしそうに睨むと、各々が謝罪の言葉を口にする。
「桃花ごめんね!すぐそこだからちょっとハイになって…」
「悪気はないんだ、すまない」
「まぁ無事に来たんだから良いでしょ。いくぞ」
C男は普段の無口ながら謝罪に気持ちがこもっていたし、B子は向こう見ずな所がある。
だがA郎の軽口にちょっとムカッとしたが、口を開いては閉じるしかない自分が少し切なかった。
「ったく、この小屋は何なの?」
「知らね。だいぶ古い木造家屋だけど、旧道が死ぬ前だから何十年も前じゃね?」
(知らね…って計画したのあんたでしょ!ほんとにこいつは何なの!?)
先ほどの事もあり、A郎の態度にイライラが募るばかりだった。
B子は私の顔に出た不機嫌を察したのか、手で“ごめんね”とジェスチャーしていた。
目の前の建屋は木造一階建の平屋。
窓ガラスは所々割れているが、人に荒らされたと言うよりは自然災害の破損と思う。
ガタッ…ガタガタ!
「あっかね!」
「どいてろ、俺が開ける」
「パワー担当、壊さないでね」
C男は無骨な笑顔を向けると、自慢の筋肉を魅せつける。
そしてC男はなんと…
雨戸を持ち上げて手前に引くと横にスライドさせた。
力なんて殆ど入れていない。
「…なんだ、そう言う作りか」
「雨戸は収納が重なるようになってる。横の動きだけじゃ動かない」
「「ぇー?言えば良かったんじゃね?」」
C男の無駄なパフォーマンスに女子たちの非難を受け、肩をすくめる。
「開いたんだからいいじゃねぇか、入ろう」
そう言って内部へと入ると、そこは明暗の分かたれた世界が広がっていた。
平屋は玄関から奥まで一本の通路で通じているおり、窓から差し込む陽光は美しく見惚れてしまう。
反面、光の届かぬ漆黒の世界は、近寄る事を許さぬ雰囲気を醸し出していた。
「あそこに行ったら帰ってこれなさそう…」
ゾクッとして常闇には近づきたくなった。と言うより本能が“近寄るな”と警鐘を鳴らすような感覚だ。
私たちは懐中電灯を照らして周囲をよく観察すると、六畳一間の一角にある物を発見した。
「お、C男!お馴染みのビニ本君がご在宅だ!」
「ふむ、ビデオとの二世帯だな。良物件だ」
そう言ってA郎とC男は床に散らばる本の束(昭和感漂う黒塗り裸体美女)を吟味し始めた。
「あんたたち肝試しに来たんじゃないの…?」
「ある意味これが一番の恐怖ホラーかな。誰が使ってたのやら…」
B子もニヤリと笑いながら違う方向で楽しんでいるようだった。
現在人が住んでいる感じはしないのだが、落ちている茶わんなどが過去に実在した面影を残す。
子供用の小さいものまであったので、使われていた時は家族で住んでいたのだろう。
エロ本を物色中の男連中を放置して、懐中電灯を片手に別の部屋を見始める。
(しかし埃っぽい所ね。ん?)
当てた光が何かに反射した気がしたので、もう一度その場所を照らし出す。
それは古くなった神棚。
ガラスコップに光が反射していたのだ。
「ふふっ…ビビったわ……」
誰にも悟られない時で良かった。
こんな姿を見られたらA郎なら絶対ネタにしてクドクド言うに違いない。
3人のいる六畳一間へ戻ろうとした時、再び光が何かを捕らえた。
「きゃっ!…なに……これ!!」
バキッ!
落とした懐中電灯が傷んだ床板を突き抜け、部屋の側壁を照らし出す。
それと同時に3人が私の悲鳴に気が付き走ってきた。
「どうした!?なっ!」
「うッ……」
土壁に描かれたもの。
無数の血手形。