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第4問 捕まりました

『もも』として学校には行けない。でも、早くに両親が他界した私は、ひとりで生活をしていかなきゃいけない。

 だから、日がな一日バイトに没頭した。

 最初は距離感がつかめなくてお皿を割ってしまったり、まだ情緒が不安定で、慣れない男の子の身体に泣き出してしまったこともあった。

 だけど、根気強くシュウさんが手助けしてくれたおかげで、前みたいに仕事をこなせるようになった。ううん、むしろ男の子になった分、体力もついて、すごくやりやすいかも。

 楽しい日々が、戻ってきた。


「……おまえ、名前は?」


 そんなとき、やってきたあいつ。

 まさか、バイト終わりの裏口で待ち伏せされているとは。踏み出そうとすると、通せんぼうをされる。

 くそ、こいつも無駄に背は高いから、邪魔ったらないよ。


「顔見せんなって言いませんでした?」

「名前は」

「めんどくさ……はじめです」

「はじめ? ももとはどういう関係だ」

「双子の兄ですよ」

「嘘をつけ。あいつに兄弟はいない」

「言ってなかっただけ」


 ももの双子の兄、はじめ。遥か昔に養子に出された、生き別れの家族。

 これが、男として過ごすに当たって、あらかじめ決めた設定だ。シュウさんとも共有しているので、信憑性は増すはず。


「ももはいまね、遠いところにいる。ある日、極度のストレスが祟って、階段から足を踏み外したんだ……」

「──っ!!」


『はじめ』なんて人は実在しない。『もも』は、希望を持つことを諦めた。

 これは半分嘘で、半分本当。 


「半端な気持ちで詮索するのはやめろ。知った風にももを語るな」


 ……言った、言ってやったぞ。

 もちろん、ユウが負けん気の強い男だってのは知ってる。つかみかかるなりなんなりしてくれ。やり返してやる。

 と、思っていたら。


「それじゃあ……もう二度と、ももには、会えないのか……?」

「は……」


 目を疑う。なんだ、これ。誰だ、この、絶望の面持ちでぽろぽろと大粒の涙をこぼす、頼りない少年は。


「嘘だ、そんなの……信じたく、ない……」

「…………」


 このお葬式みたいな空気……気のせい、じゃないか。まさかとは思うけど。こいつ、勘違いしてない?


「一応言っとくけど、勝手に殺さないでね?」

「なっ、じゃあももはどこにいるんだ、元気にしてるのか、教えてくれ!」

「え、無理」

「何故!」

「ももがユウくんに会いたくないって言ってます」

「はぁあっ!?」


 うわっびっくりした……めっちゃ食いついてくるやん、耳元で叫ぶなよ……

 思わず顔をしかめる私は、この直後、予期せぬ展開に見舞われることになろうとは、知るよしもない。


「なんでだよ、もも……将来は俺と結婚するって、お嫁さんになってくれるって、言ったじゃん……」

「ん……え……え??」


 二度見ならぬ、二度聞きしてしまった。


「そんなこと……言ってた?」

「言った、指切りした! 指輪は無理だったけど、花冠プレゼントしたら、ももだって喜んでたしっ!」

「……あぁあ~」


 言ったっけ。幼稚園の頃、おままごとで。

 ん? じゃあ、つまり……


「ユウくんって、子供のころにした結婚の約束、真に受けるタイプ?」

「は? 冗談でプロポーズするわけないだろ。なのにもものやつ、好きです、付き合ってくださいだなんて……ふざけてんのか? もう付き合ってるだろ結婚するんだから。おちょくるのも大概にしろよ、俺のほうが好きだわ、愛してるわ!!」

「ひぇ……」


 どうしよう……私、今頃になって、気づいちゃったかもしれない。

 もしかしなくてもユウは、めんどくさいやつだ!


「シュウさん! 助けて! シュウさぁ~ん!!」


 なにがなんだかわからないけど、このままじゃやばいことだけはわかる!


「話はまだ終わってないぞ!」

「知るかよ、来んなよ、さわん──のぅわッ!?」

「なっ、おいっ!」


 突然ですが問題です。

 全力で逃げる者を全力で追う者があると、どうなるか。


「はじめくん? 呼びました? 僕になにか──」


 詰襟から紺の作務衣(さむえ)にチェンジしたお仕事モードのシュウさんが、薄く開いた裏口のドアからひょっこりと顔を見せる。それから。


「…………え?」


 それからどうしたのかは、正直よくわからない。

 だって、遮られて、見えないんだもん。

 にっくきあいつの顔しか、見えない。

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