1.墓参り
初投稿で慣れない部分あるかもしれませんがよろしくお願いします。
この世に生を受けて、20年、秒数にして6億秒が経過した。だからと言って世界が変わるわけでもなく、ただ無常にオレの人生の秒針は進んでいく。
三崎心の残りの人生が約20億秒あるとしても日本にいる全員に会うには寝る間も惜しんで1人当たり16秒くらいしかないのか……オレはそんな途方もない事を頭で計算していると、気づいたら眠りに落ちていた。
「にーちゃん朝だよー!」
いかん、寝不足で幻聴が聞こえる……妹がいる世の男性ならわかるだろうが世に生きる多くの妹と言う存在は、可愛い可愛くない関係なく誰よりも遅く寝て、そして家族の誰よりも遅く起きる存在なのである。
「だぁ〜いつまで寝てんの?!今日お母さんの墓参りなんだから早くしてよ!!」
どーやら先程のはそら耳ではなかった。
三崎柚子奈、少し腐り気味の一歳年下の妹が年に数回しかないオレより早く起きるイベントをこなしていたのである。
妹からは汚い物を見るような視線を向けられながらも、オレはボクサーパンツにTシャツ姿でトイレに向かった。
妹は量産型女子大生のような茶髪にスカート姿でソファに踏ん反り返ってテレビのチャンネルとスマホを同時にいじっていた。片膝を上げたはしたないスタイルから太ももと水色のパンツがやや見えているが本人は気にする様子もなく、スマホの画面に目を向けていた。
まぁ兄としては1ミリも興奮しないのだが、男の本能として視界に入ると自然と視線がいってしまうのは悲しい性である。
親父はと言うと……ワイシャツとパンツと言う俺と似た格好で洗面所で髭を剃りながら鏡に語りかけていた。
「もー2年か……早えなぁ……あっという間に母さんより年上になっちまうぞアイツら……」
「カッコつけてるとこ悪いけどパンツでそんな事言ってても締まらねーからな、髭剃ったら早よどいてな」
三崎善、白髪が目立ち始めた50過ぎの親父だが細身の体型から通常の年齢よりも若く見られる事は多い中身は中学生みたいな医療機器メーカーの営業マンである。
準備と言っても大してする事はない、着替えて顔を洗い歯を磨く、そして簡単に寝癖を直し、鏡を見たらたら……
「まぁなんていい男なの!」
「キッショ!早くしてよ!」
……妹の黄色い声は無視して出発前には必ず母の遺影に手を合わせる。三崎家の暗黙のルールである。
これから墓参りに行くのに不思議な感じだが去年も行っており2回目ともなると少し慣れを感じていた。
ファストフードで簡単に朝食を取り、柚子奈の初心者マークを付けた車で1時間程の距離にある霊園に眠っている母の元へ向かう。
免許取り立ての柚子奈の運転で向かう事になり、道中何回か墓ではなく、母のとこに直接行きそうになりつつもなんとか霊園までたどり着いた。言うまでもなく助手席の親父は憔悴していた。
閑散とした霊園に並ぶ墓石。入口から少し進んだところにある少し水垢の付いた墓石には「三崎家之墓」と掘られている。しかしその文字を見ても母がここに眠っていると言う認識はあまり持てない。
親父と柚子奈はまだ慣れない手付きで墓を掃除し、オレは献花台の水を綺麗にして線香に火を付ける。
6月の日差しが降り注ぐが、風と多少の雲が暑さを和げる中、家族3人で手を合わせた。
「お母さん……実は彼氏できたんだよ、今度紹介するね」
え?急に何言ってんのコイツ?
「ごめん冗談、でも元気にやってます。」墓石の前でクソくだらない冗談言う妹と、ただ黙って手を合わせる親父……なんか言えよ。
仕方ないのでオレも母に現状報告をする事にした。
「母さんの作るメシには及ばないけど、大分料理も上達しました、ありがとう。ホントは生きてる時にもっとありがとうって言ってやればよかったけどそれが叶わないから柚子奈や親父にしっかりありがとうって言えるように頑張ります」
え?お前ありがとうなんてオレに言ったことあるっけ?って顔をした親父がいたが目を合わせずにしておく。
「母さん……今日も三崎家は元気だよ、何年先になるかわからないけどそっちに行った時はよろしく」
脳科学研究所に勤めていた母はPTSDや犯罪被害者のケアに努めていた。膵臓癌が見つかっても構わず働いていたがオレが高校3年の時に亡くなった。
予期せぬ事故ではなく、末期の癌であった為、驚きは少なかったものの悲しみはあった。散々泣き散らしていた妹は母の後を継ぐつもりだったのか元々理系の進路選択をしており、春から生命科学系の大学に進学した。今の格好はパパ活とかしてんじゃねーかと心配になる格好だが、大学受験の努力を目の当たりにしてきたオレからすれば多少の反動は仕方ないのかなと思ってしまう。
「柚子奈の大学受験も終わったしな、お前らに見せたい物がある」
突然親父が真面目な顔で墓に手を合わせていたオレらに視線を落としてきた……