03話 刃の魔神将の悩みのお話③
【当日】
というわけで、無事に魔剣のサブスクサービスを始めたアイウロは、大層サービスを気に入ってくれたようで、すぐさま契約にまでこぎつけてきた。
プランとしては業物を借りられるプランと、大業物まで借り放題の上級プランとがあったが、さすがに上級プランは月額料金も相当気合の入った金額だったので、業物のみで構成されたプランでの契約だ。それでも借りられる魔剣を眺めてはにやにやとしていたので、本当に気に入っていたのであろう。一度に借りられるのは五本までだが、それも熟考に熟考を重ねた上での選定であった。そして、日の目を見ることとなる、アルフレドとの対峙を本当に楽しみにしていた。
そして迎えた今日。
アルフレドとの決戦の場に臨んでいる刃の魔神将を追って、僕は今日ここにいる。
頼まれたわけではない。
「あー……やっぱりちゃんと分かってないっぽいな……」
アイウロの契約時のまったく契約条項を聞いていない感じや、どうもピントがずれているような問答もあり、さすがに大人だし大丈夫だろうと思っていたものの、念の為こっそり現場を見にきたのだ。
たぶん契約条項を完全に理解していない。
「武器という性質状、破損などはある程度仕方ないですが、度を過ぎた利用により、お客様に瑕疵が認められた場合、弁償いただく場合がありますので、ご留意ください」
店員さんの言葉だ。
アイウロ自身がその言葉の「瑕疵」の部分をどう理解しているかだが、借り放題の響きが先走って、いくら壊しても良いと思っている感じがある。
「おらァ! 行くぜェ!」
どう見ても全力でアルフレドに殴りかかっている。それも、これまで一撃必殺戦法しかとれなかった鬱憤を晴らすように、鬼神のごとく、烈火のごとく。
大業物が耐えられないものを、業物がどれほど耐えられるというのか。
元々はあくまで試しで、場合によって気に入ったものを選定する話だったが、たぶん久々に全力で叩きつけても問題ないという心理的な解放が止められないのだろう。
…………。
どうしよう。
説明しようとしてもここからだと距離がなー……。
さてどうしたもんかと考えていると、アイウロの徹底的な攻撃に気圧されたのか、都合良くアルフレドの動きが止まる。
無理もない、あの人の全力とか怖すぎる。
ただ、こちらとしては好機。
素早くアイウロの背後に回り、跪く。
アイウロもアルフレドも視線はお互いを見たままだが、僕を意識している感じがすごく伝わってくる。怖い。
「おォ、どうしたんでェ?」
「は、魔神将のお耳に入れたいことが……」
そう言ってアルフレドの様子を見つつアイウロに近づき、耳付近に口を当てる。
会話の内容をアルフレドに見せないための配慮だが、機密を話しているのではなく。
単になんかこの会話見られると、アイウロの評判が落ちてしまいそうなので、その配慮である。
「親分、もしかしたら認識が違うかもしれないんですが、これ壊したら弁償になっちゃいます」
「何!?」
アイウロの顔に大きな驚きが広がる。
アルフレドはその様子を見て、警戒感を強める。
「使い放題じゃねェってのか……!?」
「使い放題なんですけど、契約条項に書いてあります。あんまり無茶して壊すと弁償することになるって」
「…………」
「しかも通常の弁償より割高です」
アイウロは苦虫をつぶしたような顔をする。
アルフレドの表情には困惑。そりゃそうだ。戦闘を止めてでも入ってくる重要な知らせなんて、戦局に大きな変化が訪れた火急の事態としか想像できない。火急の事態ではあるが、影響範囲は魔王軍の一部署の今月の予算だけである。せまい。
「……今月の予算は足りるのかい?」
「本数によるとしか……弁償の本数によっては追加の予算申請が必要な可能性があります」
「そうかァ……。追加予算も面倒が増えるからなァ」
「このまま続けますか?」
「……いや、今月の予算の追加申請も面倒くさい。それに無銘刀ならまだしも、業物で力を抜いた状態じゃあ、なんにせよあいつには敵いやしねェよ」
アイウロは構えを解いていないアルフレドを一瞥。
そして。
「おい、兄ちゃん。悪いな、今日のとこは店仕舞いだ」
圧倒的に有利な状況で闘いを進めていたアイウロの急な方針転換に、さすがのアルフレドも面食らっていた。
「な!? どういうことだ! 逃げるというのか!?」
「そうとってもらっても構わねェよ。最も、次の時に同じセリフは吐かせねェがな。おら、ジオ、行くぞ」
「は」
アイウロと共に撤退をしていく。
アルフレドの声が後ろから聞こえてくるが、その声は敗北感にまみれていた。
まあ、あっちから見ればアルフレドより優先すべき用事ができたからここを切り上げていく感じだもんな……。
押されていたアルフレド的には納得できないだろう。
怨嗟にも似たその声を後ろに、僕とアイウロは撤退をしていく。
なんか普通に撤退していたが、撤退しているので占拠されてしまった。
後日、アイウロが取り返してくれた。
親分!
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