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03話 刃の魔神将の悩みのお話②

「親分!」


 エールフェイルの弾んだ声とは裏腹に、僕の額からは冷汗がだらだらと垂れる。

 間違いなくこの状況、今のセリフを聞かれていた。当人がいないことで緩んで口にした言葉。それほど無礼とは思っていなかったが、本人が不快に思うかどうかは本人次第でしかない。

 僕との実力差ではアイウロが徒手空拳の場合でさえ、たぶん二秒後に輪切りにされる。

 まさに絶体絶命の危機、を勝手に感じつつアイウロの顔を見ると、そこには破顔一笑。到底憤怒とは遠い感情のアイウロの笑顔があった。


「……き、聞いてましたか?」


「応よ。俺の薪割り見てたくらいから見てたぜ」


「…………」


 なんで気配殺して後ろに立ってたんだろう……。

 単にいたずら心なのかもしれないが、こんなことが今後もあると思うと、職場で安易に口を開くのがためらわれる。


「親分、戻ってきてたんだね」


「ああ、ついさっきだがな。寄る年波には勝てねェもんだ。長距離移動で全身ばきばきよ」


「そりゃお疲れ様。今なら私でも勝てそうだね」


「いい度胸だ。小娘に後れを取るほど耄碌した覚えはねェが、今度相手してやるよ……時に」


 アイウロがこちらを向いて口を開く。


「兄ちゃんが新しい補佐官かい?」


「は! もももも、申し遅れました! 自分は――」


「あー、いいいい。最近魔王城に戻ってきてなくて、挨拶が遅くなって悪かったな。俺が【刃の魔神将】のアイウロだ。今後はよろしく頼むぜ。お前さんの挨拶は別にいらねェけどな」


「…………」


 こちらの挨拶をアイウロが遮ったため二の句が継げず。

 また名乗るタイミングを逸してしまったことに、陰口のようなものを言ってしまったことも相まってもやもやっとした感覚が残る。

 僕自身着任してまだ日が浅く、しかもアイウロは魔王軍の中核を担っている人物である。色々なところを飛び回っているゆえに、大変に多忙で、魔神将直属の補佐官たる僕でも今日が初対面である。

 そんな方なので、魔王軍内でも関連する人材も多く、本当に重要な人材以外は、例え直轄の部下であっても把握は不要なのだろう。

 …………。

 なんだかなー、と思う気持ちもあるが、自分自身経験も能力も足りていないのは確かだ。アイウロにとっては取るに足らない人材であろうという予測もついてしまうので、落ち込んだ気持ちはどうしても抑えられない。

 エールフェイルと仲が良いのを見る限り、アイウロ自身に必要な人材というのは、やはり魔王軍でも本当に優秀なごくごく少数なのだろう。

 いらない子である、と言われたようで、いたたまれなくなり、この場を去りたいという気持ちが自然発生的に芽生えてしまい。


「……左様でございますか。それでは自分はこちらで失礼いたします」


 少し涙目で、少し強引でもこの場を去ろうと一礼をする。

 過分な敬語はささやかな反撃。つい出てしまった抵抗。そんな小ささも嫌になってくる。

 顔を上げると、アイウロはきょとんとした顔でこちらを見ていた。


「何でェ、なんか用事でもあんのかい?」


「? いえ、そういうわけではございませんが、魔神将のお話の場に私は不要かと……」


 ああ、なんか情けないセリフだ。

 アイウロはしかし、その言葉で合点のいった顔へと変化する。


「悪いな、俺の言い方が悪かった。兄ちゃんが要らねェなんて言ったわけじゃねェぜ?」


「……へ?」


「俺が今日用事があったのは兄ちゃんの方だよ。この小娘じゃねェ」


「何回も小娘言うな。親分は口が悪いなぁ」


 エールフェイルの抵抗の声を聴きながら、アイウロの意外な言葉に動きが止まる。

 初対面の僕に用事だって?

 アイウロは改まって、姿勢を正してこちらに向き直る。


「ジオバニ・ハーグリブス補佐官。お前さんの噂はかねがね耳にしているよ。その能力を見込んで、力を貸してほしい」


「…………」


 親分!




「……なるほど。魔神将の力に刀が耐えられないと」


「まァ、一言でまとめるとそういうこったな」


 アイウロの話を総括するとその一言となるが、問題の解決に関してはそんな簡単な問題ではない。

 アイウロが扱う獲物は、大業物に分類される【無銘刀・真打】。

 作者不明のため大業物級だが、性能自体は最上大業物と遜色無いといわれる名刀だ。

 名もなき刀匠の奇跡の逸品をアイウロが気に入って使用しているのだが、さすがに昔から使い続けているため、徐々に耐久力に不安が出てきたらしい。

 さらにあくまで名もなき刀匠が起こした奇跡の作品のため、同じものを打てと言われても同等のものを作る技術がないのだ。

 つまり。


「刀が使えなくなったら終わりってことだ。どうしても一撃必殺を旨とせざるを得ない」


「なるほど……」


 まさか達人による一刀の必殺剣が、切羽詰まった事情による節約のために強いられた戦術だったとは。

 舞台の裏側を聞いて微妙な気持ちにはなるが、それでも解決はせざるを得まい。

 【親分】の耳に届く活躍をした補佐官としては!


「……? なんか張り切ってんなァ、兄ちゃん」


「それはもちろん、アイウロ魔神将のご指名ですので!」


「お、おゥ」


 こちらのテンションに少したじろぐアイウロ。

 テンションには面食らっても、急な親分呼びにも特に文句は出ないらしい。

 思いきって呼んでみて良かった……。


「となると、他の武器を見つけるしかないような気もしますが……」


「まァ、そうなるんだがよ。そう都合の良い得物も見つからねェからな。無銘刀も限界近いから、できれば早く変えたいところではある」


「都合の良い、ですか……」


 これからオーダーメイドで作ること自体はできそうだが、それをやらないということが少々疑問に浮かぶ。


「親分はオーダーメイドは利用されないんですか? 予算申請通れば、多少高くても使ってもらって構わないですけども……」


「まァ、それでもいいんだがよ。なんというかな……あくまで刀はそうあるべくして生まれてくるべきで、俺に合わせようとすると、やっぱり少しばかり無理が生じるんだよな。だから、刀匠の最大限の力は発揮されない。だから、俺としては、自分用に打ってもらうんじゃなくて、偶然にできた、しかも俺に合う品の方が好ましい」


 さすがに、このクラスまで行くと武器を自分に合わせるよりも、自分を武器に合わせて最大の力を引き出す、なんていう達人のような芸当ができるらしい。

 武器に振り回され気味で、高価なブランドや刀匠を頼り分不相応な得物を持ち歩いている若者に一括を入れてほしい。


「まずは試しだから、業物くらいあれば十分なんだがな。かといって、いくらでも買えるわけでもねェからなァ」


「親分に献品したい人なんていくらでもいると思いますけども」


「それだと俺に合わせていることになるだろう?」 


「あーそっか……。となると……」


 んー……、アイウロに合わせることを念頭に置いておらず、かついろんな刀を試したい。

 魔王軍でも知名度が相当高い魔神将という立場上、中々困難ではある。

 そんなわがままな要望に応えるもの。

 そんなものは。そんな都合の良いものは。

 一つだけ、思いつく。


「親分、一個試してみても良いかもしれないものがあります」


「ほゥ。そいつは何なんでェ?」


「その前に確認ですけど、業物とか、ある程度の質があればいいんですよね?」


「おゥ、そうだな」


「あとは、いろんな刀を試せれば良いです?」


「そうだな。あくまで最初は試す程度で良い」


「じゃあ、ぴったりなものがあります」


 アイウロの顔が期待に彩られる。

 こちらとしても、親分の期待を裏切るわけにはいかない。


「魔剣のサブスクサービスです」


「さぶすく?」



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