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07話 魔神将が務める会社見学の話①

「みなさーん、こんにちは!」


『……こんにちは』


 僕の普段の性格上から考えれば、想像できないであろうくらいのにこにこ笑顔と覇気のある声で挨拶をしたが、居並ぶ十数人から返ってきたのはパラパラとまばらな挨拶の声。

 うん、まあそんなもんよね。

 緊張もあるだろうし。

 この方向で行くことは厳しいことに気づき、今日は淡々と話していくことを心がけることとする。

 

「……はい、というわけで、本日は魔王城の工場見学にお越しいただきありがとうございます。本日案内を担当する、魔王軍総務部庶務課魔神将付き補佐官のハーグリブスです。三年目ですので、皆さんとそれほど年齢も変わりません。本日は一日よろしくお願いします」


『よろしくお願いします』


 こちらのキャリアが浅いことで多少は緊張が解けたのか、先ほどよりは大きな声の挨拶が返ってくる。

 

 魔王城。

 その入口エントランスにて。

 十数名の学生を引率する僕。

 そう。

 今日は就職希望の大学生向け魔王城見学会である。

 

「皆さんのいるこの入口エントランスですが、近代的なデザインの中にも、伝統的な木工技術を取り入れたモダンなデザインとなっています。窓を大きく作ることで、光を多く取り入れて、明るい印象を与えてくれます。この建物自体が、建築家のケン・コグマさんのデザインとなっており、竣工の年にはグッドデザイン賞を受賞している、我が魔王軍が誇る建造物となっています」


 偉そうに語っているが、総務の建物担当の人から是非アピールするように、という原稿を丸暗記して読んでいるだけである。

 グッドデザイン賞を受賞していたことなどその時に初めて知った。

 

「ちなみに、質問があったらいつでも言ってきてください。話の途中でも構いませんので」


「はーい! じゃあ質問!」


 そういうと、早速手を上げる人がいた。

 こういう場合、遠慮してなかなか手を挙げる人がいないもんだと思っていたが、緊張して控えめな挙手、というわけでもなく、えらく元気な声で意表を付かれる。

 そして、その姿を見て二度意表を突かれる。

 来年大学を卒業との割には顔立ちが幼く、十代半ばといわれた方が納得が行く。無造作に伸ばしたと思しき白金色の髪。どちらかと言えば整った容姿だが、まだあどけなさの割合も大きい。

 少しばかり場違いな雰囲気は、返事だけではないようだが、区別をするのも良くない。


「はい、なんでしょうか?」


「あの受付にいる人達は魔王軍の人なんですか?」


 指を指した先には、受付カウンターに座る二名の女性。

 指名されたからなのか、二人は同時に座ったまま頭を下げる。


「あの人達は魔王軍ではなく、受付の派遣会社から来ている人たちです。勤務先は魔王城ですが、魔王軍の社員というわけではないですよ」


「あ、そうなんですね。奇麗な人達なのに――あ、いや、やっぱり何でもないです」


 いや、すげーな。

 最初から業務じゃなくて受付の人達に目をつけてすぐにそれを質問する度胸。

 異端児的なメンタルの持ち主かもしれない。

 軍の歯車としては、できる限り普遍的で代替可能な人材が求められるものだが、魔王様なんかは逆で、ちょっと違う人を歓迎している節があるから、もしかしたら就職活動時には有望株という判断が下るかもしれない。

 

「他に質問はないですが?」


 周囲を見渡すも、最初の人以外は質問をする感じでもなかった。

 まあ、入口で質問も何もないだろう。

 

「はい。それでは早速各部署の見学をしていきます。まずは資材からです」




【1F・資材部】


「はい。こちらが資材となります」


 魔王城資材倉庫。

 普段は見られないその中身を見て、学生たちが圧倒されているのがわかる。

 

 先が見通せないほどの大きな部屋の中には、大量の収納用ラック。その上に大量の物資が所狭しと並べられている。

 これまで学生という人生を歩んできただけでは到底目にすることもない量の、モノの大群。

 圧倒される気持ちもわかる。

 

「こちらにあるのは、魔王軍で利用する物資の保管庫です。全物資が一箇所にあると危機管理リスクマネジメントの観点から問題であるとみなされるので、他のいくつかの拠点にも似たようなものがありますが、こちらが最大のものとなります。この保管庫から配送センターを通じて、各防衛拠点などに物資を届けています」


 そして、学生たちを見渡す。

 

「資材の役割としては、主に各拠点で使う武器・防具や回復薬などの消耗品、長期保管の効く糧食、開発部署用の資材などの管理です。また物資を購入する際の価格交渉も仕事です」


 説明途中、また先ほどの青年が手を挙げているのに気づく。

 元気だな。


「はーい、質問です」


「どうぞ」


「あの辺の看板に書いてある打倒報酬ドロップアイテムってなんですか?」


 ああ、あれね……。


打倒報酬ドロップアイテムというのは、皇国との取り決めによって、魔王軍が打倒されたときに落とす必要のある報酬です。この報酬用の資材があそこにまとめて置いてあります」


「落とす必要……?」


「…………」


 そこを突っ込まれても僕だって疑問だから何も言えねぇ。


「そうなんですね……じゃあ、別の質問。あそこの人は何の仕事をしているんですか?」


「あそこ?」


 また青年が指した先。

 先ほどは近くを通ったはずだが気付かなかったが、よく見ると 試作・開発用の資材が置いてある棚の前で、何やらこそこそと隠れるように資材を漁っている人がいる。

 

「……何をしてんでしょうね」

 

 見えたのは後姿だけだが、伸ばしっぱなしの黒髪と、白衣姿で誰かは一瞬で分かってしまう。

 見学者の手前、あまり魔王軍の恥部的なところを見られるわけにもいかないので、他の人はそこで待っているように言って、その後姿に近づいていき声をかける。


「タロウさん?」


「ひぁぅぃぐぉ! ……って、なんだ、ジオ君じゃないですか。なんですか、こちとら忙しいんですよ」


 周囲から見ると完全な不審者の挙動をしているタロウに、逆切れされてこちらも不満だ。

 何かないかつけ入る隙がないかとその姿を見ていると、白衣の中に何やら大量のものが見えた。

 

「何してるんですか?」


「……今は極秘任務中なんです」


「極秘任務?」


「そうなんです。昨日試作品の開発で分量間違えて、大量に材料ダメにしちゃったんですよ。だけど開発局の予算も使い切っちゃってお金ないので。泣く泣くこうして資材に忍び込んで材料を盗んでいる最中です」


「…………」


「分かったら向こうに行ってください。資材の人にばれたら大事です」


「…………」


「くぅぅ、背に腹は代えられないとはよく言ったもんですね」


 この人僕を味方としてカウントしているな?

 別に毎回朝礼に来ない恨みや約束を守らない怒り由来ではないが、純粋な正義感ゆえに無言で近くの内線をとり資材の部長に連絡をする。

 

 三分後。

 

 裏切り者ーと叫びつつ、連行されていく闇の魔神将を見送った後、詳細な説明を担当する資材の担当者へと説明を引き継いだ。


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