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6、最初の依頼

ちゅんちゅん、と鳥の鳴き声が聞こえたと同時に跳ね起き、早く動く心臓を落ち着かせて壁にかかっている時計を見れば、時刻はまだ4時半だったので、ベットから出て、服を整える。

王宮にいた頃、王宮の使用人達に鳥が鳴く時間帯に起こされていたから、それが体に染み付いて、今じゃ鳥が鳴くと体が勝手に起き上がるようになって、寝坊をする事が無くなった。


「4時半…。」


今になって思えば、それは王宮の使用人達の嫌がらせだという事が分かるけど、あの時は使用人達が言った「早く起きる事で沢山学ぶ事が出来るように」という言葉を素直に信じていた。それがどんなに愚かだったか、王宮を出て、良く分かった。


信じるのはいい事だと思う、だけど好かれたいから疑わないのは違う。あの時の私は疑わないようにしていた。嫌われたくないから。

でも今は違う。今はミリアドさんが何か間違った事をしようとしたら、嫌われてもいいからそれは止める。これからは私も少しはミリアドさんの役に立てるように頑張ろうと思う。


そして多分これが親愛の方の「好き」っていう感情なんだろう。だからミリアドさんに何かを隠してるような行動をされた時胸が、もやぁ、ってしたんだ。親愛の方の、ミリアドさんが「好き」だから。


「お姉さん、起きてる?」


「びびゃあっ!」


「お姉さん!?」


考えていた当の本人の声が聞こえたせいで、足を滑らせて部屋に置いてあったテーブルを巻き込んで転んでしまった。その際に凄まじい音がなってしまって、慌てた様子でミリアドさんが部屋に入って来た。


「お姉さん!? 大丈夫!?」


見られたく無かった…。

テーブルと共に転がっているところなんて…。


ミリアドさんは部屋に入って来てテーブルと共に転んでいる私を見ると一瞬だけ固まり、すぐにニコリ、と笑って目を閉じた。そして流石A級冒険者というべきか、目を閉じながらでも私の元へ転ばず歩き、転んでいる私に向けて、手を差し出した。

その手を掴んでミリアドさんに立たせてもらうと、ミリアドさんは、ぱち、と目を開けて困ったように笑った。


それに首を傾げていると、ミリアドさんはもう一度困ったように笑ってからいつものように笑い、「準備は出来た?」と聞かれたので頷くと、ミリアドさんに手を引かれ⦅宿屋⦆の1階へ降りた。


「お客様ぁ、ご飯は如何致しますかぁー?」


「…え?」


1階に降りると、腰まである茶色の髪に、つり目がちのピンク色の瞳の、少しキツイ印象を受ける気だるげで色っぽい少女が、気だるげな口調で話しかけて来たと思ったら、急にミリアドさんに抱き着き、ミリアドさんも特にそれを気にする様子も無く、普通に笑顔でその少女と話していた。


姉弟かなと思ったけど、その甘い雰囲気は明らかに恋人のそれで、胸辺りが痛み、二人の雰囲気に戸惑っていると、ミリアドさんがその少女に一言二言話し、その少女がミリアドさんから離れ、私の元に歩いて来て私を見下ろした。


「あんたがアベリア?」


「は、はいっ!」


「ふぅーん、歳は?」


「え、? と、歳? えっと、十五歳です…」


「ふぅん、十五歳ね。同い年か…。」


その少女が私と同い年という事に驚いたが、その少女は私より数十センチ高く、見下ろされる為威圧感が凄まじく、目を見続けている事しか出来なかった。しばらく私を見下ろし、ふぅ、と息を吐いて目を閉じたので飽きたのだと安心して目を逸らすと、急に誰かに腰を抱かれた。


何事かと思い腰を抱いた人を見ると、私の腰を抱いたのは少女らしく、驚いて少女を見ると、少女は色っぽく私を見ていた。かと思えば私の顎を持ち上げ色っぽい雰囲気を出して美しく微笑んだ。


「あんた、可愛いね。」


あまりの色気に腰を抜かすとその少女は私を抱き上げ、私の額に口付けを落とした。


「わたしの名前は、“リリアンゼ・リーン”。リリでも、アンゼでも、好きなように呼んで。可愛いアベリア。」


そう言って片腕で私を支え、もう片方の腕で私の頬をするりと撫でる。

それで分かった。あの甘い雰囲気はこの人によるものだと。この人と一緒にいると、友達の関係でも甘い雰囲気になってしまうんだ。色気が凄すぎて自動的にそういう雰囲気にさせちゃうんだと思う。


でもそれが分かったところでこの色気からは逃げられないし、慣れることも出来ないけど。


その凄まじい色気に、口をパクパクと開け閉めする事しか出来ずにいると、彼女は美しく微笑みながら更に顔を近付けて来た。


「ね、アベリア。私の名前を呼んで?」


グイグイと、彼女の肩を押して逃げようとするけど、私と彼女の体に何かがくっついているんじゃないかって言うぐらいビクともしない。

こっちは死に物狂いでやっているのに、私の行動は彼女に取って特に気にする事では無いらしく、彼女は微笑ましそうに私の行動を見ていた。


その彼女の様子を見て悟った。これは言わないと逃げられないやつだ。恥ずかしいけど、やらなければ恥ずかしいままなのだと。


「リ、リリさん…!」


「違う。さん、じゃ無い。ちゃん、だよ。やり直し。」


まさかのやり直し。さっきのでも精一杯だったのにやり直しを要求されるなんて。


別に名前を呼ぶのが恥ずかしい訳じゃない。普段であれば普通に名前を呼ぶ。やり直しを要求されても出来る。

だけど今は色気たっぷりの空間で、美しく微笑んでいる彼女の顔が目の前にある状態。これで恥ずかしがるな、という方が無理だ。


頼みのミリアドさんはニコニコと笑うだけで助けてくれる様子は無いので、深呼吸を一回して心の準備を整える。


「リ、リリ、ちゃん…っ」


辿々しくはなったものの、ちゃんと言えた。これで下ろしてくれるだろう。と、赤くなった頬を両手で抑えていれば、リリ…ちゃんは、頬を赤く染めて恍惚とした顔で笑い、顔を近付けて来た。逃げようにも頭の後ろに手があり押さえ付けられているので逃げられない。

恥ずかし過ぎて泣きそうになっていると、私とリリちゃんの間に分厚い木の杖らしきものが差し込まれた。


「リリアンゼ、駄目だよ。」


分厚い木の杖らしきもので見えないけど、この声はミリアドさんのもので安心してホッと息を吐いた。ミリアドさんのお陰でもう甘い雰囲気は無い。


私の方からはミリアドさんの姿が見えないけど、リリちゃんの方からはミリアドさんの姿が見えるらしく、内容は何故か聞こえないけど明るく喋り合っていた。しばらくしてやっとリリちゃんは下ろしてくれた。


「ん、じゃあこれから冒険者ギルドに行くんだ。一緒にクエストをしに行くの?」


「そうだよ。お姉さんも一人だと怖いと思うから、最初の内はね。」


「ふぅーん。まぁいいや。クエストが終わったらまた来てね。アベリアと一緒に。」


「考えておくよ。」


「じゃあ、気をつけてね。アベリア、ミリアド。」


「はいっ、行ってきますっ」


「行ってくるね。」


ミリアドさんと共に⦅宿屋⦆を出ようとすると、最後にリリちゃんに額に口付けを落とされ、赤くなった顔のままミリアドさんに手を引かれ⦅宿屋⦆を後にした。












「うーん、どれがいいかな…。」


冒険者ギルドに着いた後は、ミリアドさんと共にやりやすそうな依頼書を探していた。


冒険者ギルドはランク制で、ランクによって受注出来る依頼が変わる。

ランクは7つあって、下から順に、⦅Fランク⦆、⦅Eランク⦆、⦅Dランク⦆、⦅Cランク⦆、⦅Bランク⦆、⦅Aランク⦆、⦅Sランク⦆となる。


⦅Fランク⦆は新人又は成り立ての人。なので街の中での仕事しか無い。街での見回りや、街の掃除など。

⦅Eランク⦆は戦闘が出来るようになった人。

⦅Dランク⦆は採取などが出来るようになった人。

⦅Cランク⦆は、戦闘と採取が出来るようになった人。

⦅Cランク⦆でやっと一人前と言える。このランクが一番多い。

⦅Bランク⦆は普通の人より強く、ある程度の事が出来る人。

⦅Aランク⦆はとても強くほぼ何でも出来る人。

⦅Sランク⦆はとてつもなく強く、出来ない事がないんじゃないかっていう位凄い人。世界で七人しか居ない。⦅Sランク⦆に到達するのはとても難しい。


そして次のランクへ行くには試験を必ず受けないといけない。その試験に合格したら次のランクへ行ける。


基本自分のランクが一番適しているけど一個上の依頼なら受注出来るようになっている。ただ本人の力量不足な場合、受注するのを拒否される事もある。


私は⦅Fランク⦆なので、⦅Fランク⦆か⦅Eランク⦆までの依頼を受注出来る。だけど今回は私より上のランクのミリアドさんが一緒に行くから、もう一つ上の⦅Dランク⦆の依頼を受注出来るようになった。


依頼を受注する時一緒に行く人のランクが違う場合は、基本的にランクの低い人に合わせる事になっている。


なのでミリアドさんは⦅Aランク⦆だけど、私に合わせて⦅Dランク⦆の依頼しか受注出来無いようになっている。

勿論私と行かなければ⦅Aランク⦆の依頼が受注出来る。


「うーん、まずはやっぱり、戦闘が出来ないといけないから…。うん、これにしようか。お姉さんもこれでいい?」


ミリアドさんは一つの依頼書を取り、私に見せてくれた。それは⦅Eランク⦆の依頼書で、⦅バード⦆の討伐依頼書だった。討伐数は五匹。


⦅バード⦆は魔力を持つ鳥で、冒険者ギルドでは⦅スライム⦆の次に弱い方魔物だ。魔力が無くなれば卵を産む家畜⦅コッコ⦆になる。

と言っても一般人は戦い方を知らないので、一般人からしたら弱くはないと思うけど…。


ミリアドさんの持つ依頼書を見て、こくん、と頷くとミリアドさんは「ここで待ってて」とだけ言って、受付に依頼書を受注しに行った。それから数分たった頃に戻って来た。


「よし、行こうか。お姉さん。はい、これお姉さんの武器。」


ミリアドさんが差し出した大銃を受け取り、抱き締める。ミリアドさんが一緒だから大丈夫だと思うが怖いものは怖い。ミリアドさんがある程度守ってくれるとは言え、それに甘える過ぎるのも駄目だ。失敗しない為にも2回ぐらい深呼吸をして気を落ち着ける。


このクエストは私が成長する為のもの。甘えすぎず、ちょっとでも成長しなくては。

いや、違う。ちょっとでも成長出来るんだ。

頑張らないと!


少しの期待と不安を胸に、ミリアドさんと共に初めてのクエストへと出発した。



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