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5、〘暴風炎の兆し〙、“ルージュ・ファイアー”。

「ーーー? ーーー、? ーー!!」


「ーー。ーーー。 ーー?」


遠い場所で誰かが喋っている。

凛々しい声の女性と少し声が高い男性。


どこだろう? とその声に耳を傾けようとすると、急に声が鮮明になってきて、音が徐々に大きくなっていく。


そして頭を撫でられた感触に驚いたのと、誰だろう、という興味に、ぱち、と目を開けた。するとそこにいたのは、私を膝枕して私を撫でるミリアドさんと、それを微笑ましそうに見つめるルージュさん。


その情報が頭に入ってこなくて固まっていれば、ミリアドさんとルージュさんが「おはよう」と、声を合わせて笑った。その時やっと、私は今ミリアドさんに膝枕をしてもらっていると言うことに気付き、勢いよくミリアドさんの膝の上から跳ね起きた。


何故こんな事になっているのかと驚いていれば、先程のルージュさんに手に口付けを落とされ気絶した出来事を思い出してしまい、顔が真っ赤になった。

あんな風に挨拶をされた事がないので、気絶した事を許して欲しい。という言い訳を、心の中でミリアドさんとルージュさんに言う。


ルージュさんは、「あははは!」と、大声で笑っているし、ミリアドさんはニコニコと笑っているけど体がプルプルしているから、笑いを堪えている事が直ぐに分かった。


それにしてもテーブルの上には、武器などや装備などが沢山置いてあるけど、どうしたんだろうか?


テーブルに置いてある、かなりの数の武器や装備などを見ていると、ルージュさんがテーブルに置いてある武器の一つ、短剣を取って、短剣の取っ手の部分を軽く持ち、クルクルと回した後、私に取っ手の部分を向けて「はい」と渡してきた。


「これは君の武器を決める為、持ってきたやつだよ。冒険者になるのなら、武器の1つや2つ持ってないとね。」


そう言ってルージュさんは腰に下げていた2本の小刀と、ソファの横に置いてある大槌を持ち上げて見せてくれた。2本の小刀は銀色で何の装飾も無かったけど、黒色の大槌は赤い宝石のようなものが3つ付いていて、ルージュさんより一回り大きい。その重そうな大槌を、ルージュさんは片手で軽々と持ち上げ、私に見えるようにしてくれる。


「この大槌があたしの武器。この小刀は大槌が使えない時に使うための武器。君も自分に合う武器を選んでみて。」


ルージュさんは一回り大きい大槌を片手で持ち上げ、クルクルと振り回す。大槌はかなりの重さなはずなのに、ルージュさんが軽々と持ち上げるから、軽いのかな、と思ってしまう。


凄いな、と思いながらルージュさんを見ていると、ミリアドさんもルージュさんの持つ大槌よりはなくても人1人はあるであろう大剣を軽々と持ち上げ、私に「この武器は?」と聞いて来た。流石にその武器は無理なので首を横に振れば、「そっかぁ」と、しゅん…、と凄く切なそうな表情でテーブルの上に大剣を戻したので、つい首を縦に振ってしまいそうになったが、頑張って耐えた。


このままだと頷いてしまい、持つことの出来ない武器を持つことになってしまうので、慌ててテーブルの上にある様々な武器を見回す。


テーブルの上には、剣や双剣、大剣、大槌や杖、大銃や弓、刀や拳などの様々な武器が置いてあり、どれにしようかな、と迷っていれば、ルージュさんがテーブルに置かれている武器の一つ、大銃を手に取り、私に渡した。


「この武器はどう? 君はどっちかって言うと後ろの方でサポートしている方があっていると思うよ。大銃は使い方を変えれば、仲間をサポートする事も出来るしね。」


それは、黒と紫の色が混ざり合う大銃で、片腕位の長さしか無いので、軽くて凄く扱い易そう。だけど、私に使いこなせるか不安でその大銃をじぃ、と見つめていると、ルージュさんは片眉を上げて、にやぁ、と笑い、親指で中庭を指差した。


「試し打ち、して見る?」


煽るようなその表情に、私は少し考えてからミリアドさんの方を見ると、ミリアドさんもニコニコと笑い、中庭の方と私を交互に見ていたので、こくん、と頷く。するとルージュさんは、片手に私を抱き上げ、もう片手に大槌を持ち、中庭の方へ走った。


その走る早さが思いもよらない程早くて、一瞬で自己練習をする人達のいる中庭へ戻ってきていた。そしてミリアドさんも、息も切らさず何事もなかったかのように大銃を持って隣に立っているのを見て改めて、A級冒険者って凄いんだな、とA級冒険者の凄さを目の当たりにした。


「よし。早速やるぞ! えーと…。」


「アベリアだよ。」


「アベリア! 準備はいいかい?」


「は、はい!」


ルージュさんは私を降ろすと大槌を構え、ミリアドさんが大銃の持ち方と構えを教えてくれて、それを教えると一定の距離を離れて行った。


それを合図に、ルージュさんの大槌を炎が覆い、炎のドレスを纏わせて、炎で覆われている大槌を肩に乗せた。


「これが武器や装備に、自分の魔力を乗せて強化する魔法。んでこれが…。」


「《紅蓮円来》」


瞬間、私とルージュさんの間に炎の渦が出来て消失した後、渦があった場所を見ると渦の中にあった土はドロドロに溶けて、大きな窪みを作ったその凄まじい威力に、絶句した。

こんなのを喰らえば一溜りも無い。


「とまぁ、これが魔法の必殺技。分かんないと思うんだけど、強化するやつとこの必殺技、どっちが難しいと思う?」


「強化するやつです。」


ルージュさんの問いに何故か直ぐに答えたそれに、私は謎の確信があった。

必殺技の時は一気に魔力を放出させたのに対し、強化するやつは必殺技と同じ量の魔力を武器や装備に纏わせている。そんな風に感じた。


確信があるからと言って不安が無くなるわけでは無く、あっているかと不安になっていると、ルージュさんは身に纏っていた炎を消し、「正解!」と指で丸を作って微笑んだ。


それに安堵していると、ルージュさんは私の元に歩いてきて、私の手を取りそこから何かを流し込んで来た。多分魔力…、だと思う。


魔力に1度気づいてしまえば、体中を巡る魔力に、辺りを漂う魔力が誰のものかが、鮮明に分かるようになった。私とルージュさんの周りに漂う魔力も、誰のものなのかしっかりと把握出来る。


私に薄く纏わり着いている魔力は、ミリアドさんのものだ。私を守ろうとするようにグルグルとミリアドさんの魔力が私の周りを回る。それに答えるように、私も自分の魔力をミリアドさんに守るように纏わせると、遠くにいるミリアドさんが目を見開いたのが見えた。

上手くいったそれに嬉しくなり、ミリアドさんに向けて笑う。


「ん〜? ご機嫌だね、アベリア。」


ニコニコと笑う私に、ルージュさんもとても楽しそうに笑い、大槌を持って私とミリアドさんに手を振り、中庭を出ていった。出ていく前にルージュさんがミリアドさんに何か呟いたように見えたけど、上手く聞こえなかった。


ルージュさんが中庭を出ていくと、ミリアドさんが私の隣に立って手を取り、「宿屋に行こう。」と歩き出し、その際にミリアドさんがギュゥ、と痛くない程度に手を握られ、私もミリアドさんの手を握り返した。






その後、早足で⦅宿屋⦆に着くと、ミリアドさんは2つ部屋を取って私と自分の分の代金を払い、2階へ上がり私の泊まる部屋を教えてくれて、最後に「ちゃんと部屋の鍵を閉めるんだよ」と言い残し、隣の部屋へ入っていった。


どうしたんだろう、と不思議に思いながらも自分の泊まる部屋に入り鍵を閉めてから、ベットに横になった。

あの時のミリアドさん、何か少し変だった。

上手く言えないけど、何か隠していることがバレそうになって逃げた…、みたいな…。


それに何か胸の辺りがモヤッとしたけど、何かあればミリアドさんから言ってくれるだろう、と信じ、眠りに着いた。








スヤスヤと眠るアベリアの傍に、黒い服を身に纏う人影が降り立ち、その人影はゆっくりとアベリアに近付く。

かと思えば急にそこから飛び退き、飛び退く前にいた場所には黄色い弓矢が刺さっていた。その人影がそこから飛び退かなければ、その弓矢が人影に刺さっていただろう。


人影はその弓矢を放ったであろう人物の方を向き威嚇しようとして、その顔は恐怖に染まり、崩れ落ちた。


弓矢を放ったであろう人物は、そんな人影の状態にも目をくれず、人影に目を合わせるようにしてしゃがむ。

そして人影の耳元でぽつりと呪文のように呟いた。


「いいか? 今見たことやここに来たことを忘れろ。お前はアベリアを攫いに来ようとしたけど『何故か』アベリアの元へたどり着けず何者かに襲われた。……いいな?」


言い聞かせるようにゆっくりと人影に言い聞かせると、人影は虚ろな目になり、人物が言った言葉を繰り返した。

それを聞いた人物は、小さな声で「行け」と命令すると、人影は人形のように去って行った。


人影が完全に去ったことを確認すると人物は、ベットで幸せそうに寝ているアベリアに近付き、頭を優しく撫でる。


「アベリア…。君を必ず守ろう。だから安心しておやすみ。 私の愛しい子…。」


人物は安心させるように、ゆっくりと穏やかに言い、最後に人撫ですると、一瞬でそこには何もいなかったかのように消えた。


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