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3、ギルド長

「そんなに緊張しないでよー。」


私の隣にはミリアドさん。前には、金色の目に胸辺りまである赤い髪を下ろしている、ギルド長の”フィールローテ・アンデン”さん。22歳ぐらいの中性的な人。なので、性別は分からない。


(帰りたい…。)


私の帰る場所なんてないけれど、1番に思ったのは今の私の心境だった。


だって、ミリアドさんの大事な場所の1番偉い人が、私の目の前にいるんだから、そんなに風に思っちゃうのも仕方ないと思う。私が何かやっちゃったせいでミリアドさんの大事な場所を奪う事になっちゃうかもしれないんだから。


こうなっている理由は五分前の事。


ミリアドさんと共に冒険者ギルドの受付で依頼書を受注していると、チェック済みの依頼書を持ってきたギルド長さんがミリアドさんの元に来たと思ったら、ミリアドさんと共に、ギルド長さんに引きずられるように応接室に連れて来られた。それに何かしちゃったのかな、とビクビクしていると、ミリアドさんとギルド長さんは仲良さそうに話し始めて驚いた。


実際に、ミリアドさんとギルド長さんは仲がいいらしく、現に今も楽しそうに笑って話している。だが私は、緊張しすぎて震えるのを抑えるのに必死で、時折振られる話しに一言二言返す事が精一杯だった。

それに二人は気づいているみたいだけど、気づかない振りをしてくれていて、本当に感謝しか無い。


「それにしても随分変わったねー、ミリくんは。」


「ふふ。フィーは変わらないね。」


「当たり前じゃん?」


にこにこ、と、笑って楽しそうに話し合う二人に微笑ましくなっていると、いきなりギルド長さんが、すぃ、と私に視線を向けて「その子?」と聞いてきた。それにミリアドさんも私を見て、ギルド長さんに「そうだよ。」と頷いた。


何が何だが分からず困惑している私をギルド長さんはじぃー、と真剣な顔で見つめて、暫くしてから、こくん、と頷き、ミリアドさんに向けて指で丸を作った。


「ミリくんの言った通り、その子、全属性持ってるわ。」


ギルド長さんの思いがけない言葉に、私はギョッとしたと同時に困惑した。だって、私の持つ属性は風だけで、その風の適応値すらも低く、使いこなせる事は絶対に有り得ないと言われたからだ。


だから私は、素質の高いと言う理由で王様に王宮に連れて来られた時、自分にまだ存在価値があるんだと、嬉しかったから、私が全属性を持っているらしい事に驚きを隠せない。


「やっぱり、お姉さん、その事知らなかったんだね。」


ミリアドさんのその言葉に、私は頷くしか出来なかった。


だって、たとえ、素質の高い王族の子を産ませる為に連れて来られたとしても、素質の高さしか誇る所が無い私を王宮に連れて来てくれた王様に恩返しをするために、嫌がらせにも耐え、婚約者候補として相応しいように努力してやってきたのに、その嫌がらせをされる原因を作ったのが王様だったなんて…。


王様は、私を強い王族の子を産むためだけの、本当の道具にしか見ていないと言う事を知り、ショックを受けた。


鼻がツンッ、と痛くなり、目頭が熱くなって溢れてきそうな涙を、唇を噛んで耐える。

王様に負けたように感じるから泣きたくないのに、必死に唇を噛んで耐えようとしていても、涙は溢れていく。


ミリアドさんやギルド長さんに迷惑をかけたくないのに涙は止まる様子が無くて、必死に涙を止めようとしている私に、ミリアドさんとギルド長さんはオロオロとして、どこからか、ハンカチやティッシュを出して、お菓子や本、そして何故か宝石や高そうな服を沢山出して、私に見せてきた。


お菓子や本ならまだ分かるが、何故宝石や高そうな服を出したのかが分からず、不思議に思っていれば、ギルド長さんに「宝石や高そうな服とか、女の人は好きでしょ!?」って言われ、何故宝石や高そうな服を出したのか納得した。


ミリアドさんは、隣で私の背中や頭を撫でたりしているけど、その顔は、どうすればいいのか分からず、困ったような顔をしている。


こんなに優しくしてもらったのは、王宮に行った最初の頃だけだったから、凄く嬉しくて、その気持ちが温かくて、

二人に「もう大丈夫だよ」と言うように、私は自然に出てきた笑みを浮かべて見せた。


それを見て二人は安心したように笑い、お菓子だけを残して出していた物が全て消えた後、私の目の前にお菓子を置き、二人して「食べろ」と言うような眼差しで、見つめてきた。


その視線に耐えられなくなり、恐る恐るそのお菓子を食べると、そのお菓子の美味しさに、いつの間にか暗い気持ちは無くなって、晴れやかな気持ちになった。


視線を感じ、視線を感じた二人を見ると、二人は私を見て微笑んでおり、私の笑った表情を見ると何事も無かったように二人で話し始めたので二人話し合いを、ボー、と眺めた。


その二人の話し合いを眺めていると、先程急に泣き出した事を思い出してしまった。それを思い出したせいで私の顔は真っ赤になってしまい、私は二人の話し合いが終わるまでずっと俯く事になってしまった。









話し合いが終わり、ミリアドさんと私はギルド長さんに連れられて、受付の場所まで来ていた。受付に着くと二人は受付嬢の女性から紙を渡され、何かを書いていた。


何をするんだろうと思って見ていれば、ギルド長さんに手招きされたので近くに駆け寄ると、二人が先程書いていたであろう紙を二枚とも見せられ、「合ってる?」と聞かれた。それをなんだろうと見てみれば、その紙は⦅身元引き受け人⦆と⦅身分証明書⦆と書かれた紙で、そのどちらにも私の名前が書いてあった。


状況が上手く飲め込めないけど、間違っている所はなかったので、とりあえずこくん、と頷くとギルド長さんがその紙を持ってどこかへ歩いて行った。


「じゃあお姉さん。フィーが戻って来るまで、⦅酒場⦆で休憩していようか。」


その姿が見えなくなるとミリアドさんは私の手を引き、受付エリアから、右のエリアの方へ歩いて行く。


この冒険者ギルドは正方形が三つ並んでいるように区切られていて、右から⦅酒場⦆⦅受付⦆⦅雑貨屋⦆と分けられている。


⦅酒場⦆は、飲み食いするためのエリアで、飲み食いするだけじゃなくて仲間を探す為や息抜きするためのエリアでもある。


⦅受付⦆は、仕事を見つけるためのエリアで、様々な依頼書などが貼ってあり、受けたい仕事の依頼書を受付へ持っていって、仕事を受注してその仕事をこなしお金を稼ぐ。

2階へ行けば高難易度の依頼書があって稼げるお金も多いけど、ランクがある程度ないと2階の依頼書は受注出来ない。


⦅雑貨屋⦆は様々な物が置いてあり、日用品は勿論、武器や装備なども売っている。

と言っても武器は初心者用の武器しか売っていないけれど、装備はある程度充実している。


その⦅酒場⦆エリアへ、ミリアドさんは私の手を引いてスタスタと歩いて行き、端っこの席に私を座らせてから、ミリアドさんも私の目の前に座り、「どれにする?」とメニューを見せてくれた。


「え、えっと…」


正直に言うと、色んな料理があってどれも美味しそうで迷って決められないから全部食べたい。だけど、今の私はお金を持っていないから頼むことは出来ないし、だからと言って奢られるのもなんか申し訳なくて嫌。

面倒臭いのは自分でも分かってます、ごめんなさい。


そんな私の思惑を知っているかのようにミリアドさんは「僕、色んな料理を食べたいけど食べきれないから、お姉さんも食べるの手伝って?」と口実を作ってくれて、ついでに「お姉さんが食べるの手伝ってくれるなら、お礼にご飯奢るから。」とも言われ、思わず頷いてしまった。

絶対、ミリアドさんは私の性格を知り尽くしていると思う。


はっ、と我に返り、慌ててミリアドさんを止めようとしたけど、時既に遅く。ミリアドさんは、テーブルに置いてあったベルを鳴らし、ベルの音を聞いてやってきた店員さんに、10品ぐらい頼んでしまっていた。

ちなみにそれを聞いた店員さんは、凄い顔をしながら注文票を書いて去っていた。


暫くして、一気に10品全部テーブルの上に置いていかれ、テーブルの上は料理でギチギチに埋まり、隙間すら無くなってしまったその光景を見て、絶句してしまったのはしょうがないと思う。一つ一つの量が、有り得ないぐらい多い。1品で、五人前ぐらいの量がある。


ミリアドさんはニコニコと料理を見つめ、「いただきます」と手を合わせて、食べ始めたので、私も「いただきます」と手を合わせ、食べ始めた次の瞬間、ミリアドさんの近くにある3品ぐらいの中身が一気に消えた。


あの急に消える魔法かな、と、思ったが違う。だって口がモグモグと動いている。


あの一瞬でミリアドさんは五人前の料理を3品食べ尽くしたのだ。それでも凄いのに、ミリアドさんは食べて無くなると無くなった料理と同じ料理頼み始める。


しかも私は、ミリアドさんに「いっぱい食べてね♡」と言われてしまったのでいっぱい食べる覚悟を決めた。それこそ死ぬ気で。


これから訪れるであろう地獄に、恐怖を感じながら、テーブルの上に乗る料理達を食べ始めた。


ギルド長さんが帰って来た時には、私死んでるかもしれない…。



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