プロローグ
「アベリア! 貴様を婚約者候補から下ろし、追放する!」
目の前には、この国の第一王子である”リーゼン・ローブル”様と、同じ婚約者候補の一人である”マリージュ・リリアン”さんがいて、周りには私を逃がさない為、マリージュさんの取り巻きさん達が私を囲んでいた。
何故こうなったかと言うと、数十分前に遡る。と共に自己紹介もします。
私の名前はアベリア。15歳。
ローブル王国の第一王子”リーゼン・ローブル”の婚約者候補の一人。
と言ってもそれは表向きで、私は正室じゃなく側室になる事が
決まっている。しかも一番下の側室に。どんなに頑張っても正室にはなれないし、一番下の側室から変わることは無い。
その理由は私が平民で孤児だからである。
私が6歳の時に親が亡くなり孤児院に入ったけど、その孤児院は酷かった。殴る蹴るは当たり前で、酷ければ大人のストレス発散道具にされ、処分される。
その恐怖に怯え、静かに過ごしていたある日。ローブル王国国王”レーブン・ローブル”様が、この孤児院に来て、孤児院の教員を全員捕らえ、私達孤児達を保護してくれた。
その際に、私の素質の高さを知り、王族の能力を上げるため、私を婚約者候補の一人という表向きの肩書きを私に与えた。
要するに能力の高い王族の子が欲しいから、能力の高い平民を渋々娶って、強い王族の子を生ませよう! って感じです。
でも助けてもらったのには違いないので、恩返しはしようと思っています。
って思っていた矢先に王子の誕生日パーティにて、やってもいない事で断罪されています。
「ど、どういう事ですか…っ!?」
「とぼけるな! マリージュから聞いた! 貴様は正室になる可能性の高いマリージュを虐めていたらしいな! 貴様の悪事は全部マリージュから聞いている! 俺の婚約者候補にしてやっただけでも有難いと言うのに、更にその先を望み、正室になれないと知るや否や、マリージュを妬み虐めるなど……! 平民如きが調子に乗るな!」
目の前には怒りの形相で私を睨みつける第一王子のリーゼン様と、悲しい表情をしているけど、口が笑っている婚約者候補の一人、マリージュさんが立っていた。
本当に私は知らないし、やっていない。そもそも私は、誰かに会いに行くことはおろか、部屋からは出られないようになっている。位が低いからか、逃げないようにか、理由は分からないけど。
「ほ、本当にやっていません…っ!」
「煩い! 貴様の言い訳なんか聞きたくも無い! その汚い声を出すな! 汚い口を閉じろ! 衛兵! 此奴を連れて行け!」
どうやら第一王子リーゼン様は私の言う事に聞く耳を持つ気は無いようで、顔を顰め大声で衛兵を呼ぶ。
第一王子のリーゼン様に呼ばれ、扉から入ってきた衛兵が私の襟元を掴み上げた。
「や…っ!」
衛兵は強引に私を引きずって外へ向かって歩いて行く。襟元が絞まり、息が上手く出来なくて苦しい。涙が滲む。
外へ出ると、そこにはボロボロの馬車があって二人の男性がいた。一人は、馬車の御者台に座っており、もう一人は手枷と鉄球の付いた足枷と口枷のような物を持っていて、衛兵は私を枷を持ったその男性の側へ連れて行く。
枷を持つ男性は、衛兵に連れられた私が側に行くと、私の手や足や口に枷を素早く付け、それを見た衛兵に私は乱暴に馬車の中へ放り込まれ、私は床に打ち付けられ、痛みで呻いた。
だが、衛兵はそれに気にすること無く去っていき、男性も床に倒れている私に気にすること無く馬車に乗り込んで来て、馬車がゆっくりと動いた。
徐々に馬車のスピードが早くなり、ガタガタと揺れる。余程道が悪いのかその揺れのどんどん大きくなって行き、男性に踏まれて起き上がれずに床に倒れている私は、揺れるたびに体を床に打ち付けられ、凄く痛くて辛い。
それからしばらく経って、背中の感覚が無くなって来た頃、ようやく馬車は止まり、男性は私の襟元を掴んで私を引きずるようにして、一緒に森へ入って行く。
空は少しオレンジ色が混じり、少し暗くなっていた。
ここはどこ? これから何処に行くの? なんて言いたい事は沢山あったけど、口枷のせいで喋れない。
男性に聞きたい事が沢山あるけど、本当は聞きたい事は全部分かってる。だけど受け入れたくないだけ。
暫くして引きずられるように歩いていた私の前で森が開けた。
開けたその先は、神秘的な光景だった。
水晶のような物で出来た草に、ガラスみたいな氷が固まった池。ガラスのような物が混じった土。
それ等は太陽の光を浴びて、見る場所によって色を変えて輝いていた。
その神秘的な光景は誰しも目を奪われ、心を奪われてまた見たくなるだろう。だが、そんな美しい光景があるこの場所に人がいないのは、ここが未開拓地の場所だからだ。
私達が住んでいる場所は、六割の開拓出来た大地。
残り4割の大地は、そこに生息する生物の強さが桁違いで開拓が出来なかった大地。人々に此処などを未開拓地”エリアール”と呼んでいる。しかもここには、最強の魔法使い”ユリウス”様も住んでいる。
彼は赤い髪に紫色の目を持つ男性で、災害の如き威力の魔法を放ち、国すらも簡単に滅ぼすことから、彼は人々から〈歩く厄災〉と呼ばれている。
つまりここは、開拓が出来ないほど強い生き物が生息している場所だから、ここに置いておけば自分達が手を下さなくても、勝手にいなくなってくれるって言う事。
男性はその光景に暫く見惚れていたが、直ぐに、はっ! となって私の足枷の鉄球と鎖を深く埋めて帰って行った。
空はもう暗くなり始めており、太陽はもうすぐ沈む。
埋められている足枷の鉄球と鎖を掘り起こす為、足を引っ張ったりするが全然ビクともしない。
時折草が揺れ、それに何か出てくるんじゃないかと恐怖で動かなくなりそうになる体を奮い立たせ、何とか動かす。
暫く何とか外れないかと頑張っていたが外れず、何か出てくるんじゃないかと言う恐怖と、絶対に外れないという絶望が私を襲う。そんな中草むらが揺れ、何かが近付いて来た。
ひゅっ、と息が詰まる。歯を食いしばり、思いっきり鎖を引っ張った。鎖が抜けない事はわかっているけど、恐怖を感じ体が、頭が、少しでも逃げれる可能性がある行動を勝手にする。
何をやっても抜けなくて逃げれないと思うと、急に頭と体が重くなった。頭は何も考えれないし、体は怠くて自分の体じゃないみたいに動かせない。
これから出てくる生き物に恐怖を抱き、死の覚悟したその時。
草むらから出てきたのは………幼い男の子でした。