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旅をする──ドラゴンの少女と巡る異世界  作者: くれは
第十三章 精霊の谷
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■ チャイマ・タ・ナチャミ ガイド ■

【チャイマ・タ・ナチャミ】


 トネム・シャビとバイグォ・ハサムの間には、それらの水源にもなっている山脈がある。各地域ごとに様々な名前を持つその山脈の中に、チャイマ・タ・ナチャミはある。

 山脈の中に台地がある。もしその台地を上から見ることができるなら、そこに溝のようなものの存在を見付けることができるだろう。その溝は、崖だ。その崖は非常に深く、入り組んだ谷間になっている。

 チャイマ・タ・ナチャミというのは、その谷間で暮らす人たちが、自分たちが暮らしているその谷間を指す言葉だ。

 台地の上は、広く草地が広がっているが、大型の獣や大きな鳥が多く、危険も多い。その危険を除けて、人たちはチャイマ・タ・ナチャミ──谷間で暮らしている。

 崖下には、大きな獣や鳥は滅多に入り込まない。そのため、台地に比べて谷間の方が、比較的安全に過ごすことができる。谷底に近いところは、川が増水したときに巻き込まれることがある。そのため、チャイマ・タ・ナチャミでは、崖に横穴を掘ってそこに居住している。

 崖の横穴の中に入らなくても、深い谷間なので陽の当たる時間は短く、昼間でも薄暗い。そのため、崖に作られた道のあちこちには、灯りが灯されている。


 チャイマというのは谷間の意味で、ナチャミというのは精霊のことだ。

 元々、チャイマ・タ・ナチャミの人たちは草地が広がる台地の上で暮らしていた。けれど、大きな獣や鳥に怯えて暮らす日々だった。

 あるとき、風に乗ってやってきた精霊が、人たちに谷底へ降りる道を教えた。その谷間は、精霊が風に乗って通り過ぎる、精霊の通り道だった。精霊の通り道なので、大きな獣や鳥は、滅多に近付かず、入り込んでくることもない。

 人々は崖に家を作って暮らし始めた。こうして、以前よりも安全に暮らすことができるようになったのだという。




【コココヤ】


 コココヤというのは、ワンマという生き物の骨を使った楽器だ。簡単なものでは、紐などに二つ以上をぶら下げ、それを振って打ち合わせることで音を鳴らす。それを手首などに巻いて、音を鳴らしながら踊ったりする。

 あるいは、単にどこかにぶら下げておき、風に揺らされることで音を鳴らしたりもする。これは、鳥除けや獣除けとして使われている。崖の上に近付くほど、道端にたくさんのコココヤが飾られることになる。

 チャイマ・タ・ナチャミの人たちは、台地の上に畑を作るが、その周りにコココヤをたくさん並べて、鳥避けとしている。


 もう少し楽器らしいものとしては、肋骨などの平ったい湾曲している骨を適当な長さに切り出して、片手でそれを二つ握り、手を振って打ち合わせるものもある。

 チャイマ・タ・ナチャミに伝わる踊りの手の動きは、コココヤを鳴らすときの動作になっているものが多い。実際に、コココヤを片手に、あるいは両手に持って踊るのもよく見ることができる。

 特に、精霊の娘が人間の男をからかって遊ぶ様子を題材にした踊りは、この辺りで暮らす人であれば、大抵は踊ることができる。祭りの夜に、年頃になった未婚の男女はこの踊りを踊ることになるからだ。

 これは、この土地に暮らす男が自分にちょっかいをかけてくる精霊の娘を掴まえて結婚した昔話が元になった踊りだ。女は男に「掴まえて(パンムタア)」と言いながら、掴まらないように男の周りを付かず離れず踊る。男は自分の周りを踊る女を最後には掴まえる。そして男が「掴まえた(パンミサイ)」と言えば、それは求婚になる。

 女が近付いていないのに掴まえることは、許されていない。なので、男が先走って女を掴まえても、求婚は成立しない。


 チャイマ・タ・ナチャミの人たちは、台地に登るときには必ずコココヤを持っていき、常に音を鳴らし続ける。




【クフ・プワ】


 クフ・プワというのはこの辺りの言葉で、煮た(プワ)食べ物(クフ)のことを指す。つまりは、煮込み料理全般を指す言葉だ。具は様々だが、ワンマが使われることが多い。他には、サテという動物の肉もよく使われる。

 サテは急な崖を登り降りできる草食の生き物だ。草地でよく見かけるが、危険を感じると崖を降りて逃げる。チャイマ・タ・ナチャミでは、家畜としても見かけることがある。

 サーンと呼ばれる穀物を入れて煮込んだり、サーンから作った(ツワル)を入れたりもする。

 このように、煮込み料理(クフ・プワ)なのでそのバリエーションはとても広い。この辺りでは、煮た料理は全て煮込み料理(クフ・プワ)と呼ばれる。それでも共通する特徴をあげるならば、香辛料の使われ方だろう。

 ガロテカンやダクパーキン・タ・ナチャミといった、台地で採れる香辛料が使われていて、独特のにおいと刺激を楽しむことができる。サテの乳で作ったトウパが使われることもあり、それも特徴と呼んで差し支えないかもしれない。

 サテの乳はトウパにするだけでなく、お茶(パトライ)を煮出すのにも使われたりする。他には加工してディンケルを作ったりもする。


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