表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅をする──ドラゴンの少女と巡る異世界  作者: くれは
第九章 森に住む人
64/150

■ ウリングラス・ナングス ガイド ■

【ウリングラス・ナングス】


 ナングスは、海岸沿いに広がる国だ。大洋に面した海岸に、森が広がっている。その森に覆われた海岸沿いの地域をウリングラス・ナングスと呼ぶ。

 ウリングラスというのは、彼らの言葉で「(ラース)暮らす(ウーリ)」という意味だ。ナングスというのは、彼らが自分たちを指すときに使う言葉だが、これは元々は「動物」や「植物」に対しての「人」という意味であるらしい。

 つまりは、彼らが彼ら自身について名乗る「(ナングス)」や「森に暮らす(ウリングラス)(ナングス)」という呼称が、そのまま国や地域の名前となっている。


 ウリングラス・ナングスの森は、陸地と、海岸線、それから浅瀬にも広がっている。水辺の木々の根は、上下に大きくうねり、海面に出ようとする。その海面から出たところから新しい幹が立ち上がり、それが森になっている。

 ウリングラス・ナングスの人々は、湿って泥が多く根の凹凸(おうとつ)で歩きにくい地面や、海面での行き来のために、根っこから根っこへと板を渡してそこを道にしている。

 森の中では舟での移動は行われない。それは、海面下で複雑に絡んだ根が舟底につっかえてしまうためだ。


 家は木の上に作る。

 木の枝と、蝋を塗った布で編まれた家は、大きな鳥の巣のようだ。中は簡素だが、水が入り込むこともなく、落ち着いて過ごしやすい。

 ウリングラス・ナングスの人たちにとって、家は個人の所有物ではないらしい。家で休む必要がある時は、誰でも手近な空いている家に入る。そこに置かれている食べ物や道具は、その時に家にいる人が自由に使う。

 家を使った後は、自分が持っている食べ物や道具を置いていくこともある。それらは、次にその家を使う人が自分のもののように使うことになる。

 家の手入れも、その時に近くにいる人たちが協力して行う。といっても、得手不得手はあるようで、家の手入れが上手なものが、あちこちの家の手入れに呼ばれるようなことも起こる。




【ダングラとデリクケ】


 ナングスは、湿度が高くじっとりと暑い日の多い地域だ。(ダーン)も多い。そのため、ウリングラス・ナングスの言葉には、雨に関する語彙がとても多い。

 例えば、ダングラというのは、朝方や夕方に降る激しい雨のことを指している。

 激しい雨(ダングラ)の前兆があると、誰もが家に避難をする。家は個人所有のものではないが、ここでもやはり、どの家に入るかは気にしない。誰もが雨から逃れることを優先して、手近な家に駆け込む。

 この雨宿りをデリクケと呼ぶ。

 雨宿り(デリクケ)では、たまたまそこに集まった人どうし、食べ物を持っている人はそれをその場の皆に分かち合い、共に過ごす。そうやってお喋りをしたり、時には歌ったりして過ごすことになる。




【マティワニ】


 マティワニというのは、ウリングラス・ナングスで見かけることのできる木の葉だ。

 ウリングラス・ナングスの森の中では、石を叩き合わせたような高く澄んだ音が響いてくる。これは、マティワニの出す音だ。

 マティワニも、元は通常の(マティ)だ。その葉の表面に結晶のようなものが付着する。これは、海から吸い上げた何かを排出しているのではないかと言われている。

 結晶は非常に濃い青い色をしている。海の色を思わせる色だ。結晶は徐々に葉を覆い、やがて葉の形をした石のようになる。その色は透き通り、日に透かせば葉脈が確認できる。こうやって結晶化したものをマティワニと呼ぶ。

 マティワニは、やがて重くなって落葉する。落葉すると音も鳴らなくなるため、その音は結晶化と関連しているのではないかと考えられている。


 この地域に残る伝承では、この森の木々は、ナガと呼ばれる大きな海の生き物がもたらしたものだと語られている。

 今は森に住む(ウリングラス・)人たち(ナングス)だけれど、かつては海の外からやってきたのだと言う。海の外にある島で暮らしていた。けれどある時、暮らしていた島が沈んでしまった。

 その沈む島から逃げ出した人たち(ナングス)が辿り着き、住み着いたのが今の(ラース)がある辺りだ。その時にはまだ(ラース)はなく、ただの海岸だった。

 何かを食べようと思ったナングスが釣りをしていたら、ある時とても大きな生き物が釣れた。それがナガだ。

 ナガは、自分を釣り上げたナングスに自分を食べないように言った。代わりに(クラン)を一枚渡して、それを海岸に埋めるようにと教えた。それでナングスは、ナガを放して言われた通りにナガの(クラン)を海岸に埋めた。

 すると、突然空が曇り、激しい雨(ダングラ)が降り出した。

 激しい雨(ダングラ)の後、(クラン)を埋めた場所から木が生えてきた。その木は陸地を覆い、(ラース)となってトホグ・アスを実らせた。そのナングスはナガにとても感謝をして、そして誰にでもトホグ・アスを分け与えた。

 やがてまた、別のナングスがナガを捕まえた。そのナングスは、俺にも(クラン)をくれ、さもなければお前を食うぞと言って脅した。ナガはナングスに(クラン)を渡した。

 その(クラン)を埋めると、激しい雨(ダングラ)の後に、根が広がって海の中を覆った。広がった根からは、たくさんの木が生えてきて、(ラース)は海の中にも広がった。

 そして、次にナガを捕まえたナングスは、何も言わずにナガを殺そうとした。ナガを殺して、その(クラン)を全て奪おうと思ったためだ。ナガは傷付けられて怒り、そのナングスを殺してしまった。


 こうして、外からやってきた(ナングス)たちは森に住む(ウリングラス)(ナングス)になったのだと言う。


第十章は、五月中〜六月くらいに公開できると良いなと思っています。

舞台は第九章とほぼ同じ。

もうしばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ